2012年9月17日月曜日

■【コラム】 観光不振のベネズエラ、隣国コロンビアは大盛況―その違いは


【コラム】 観光不振のベネズエラ、隣国コロンビアは大盛況―その違いは
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2012&d=0917&f=column_0917_025.shtml
2012/09/17(月) 12:39
       
熱帯の楽園へ旅行を思い立ったとき、ベネズエラへ行こうとは思いつかない。一方、隣国コロンビアは、数十年に及ぶ内戦と麻薬密売の課題を克服して、ベネズエラと同様の地理条件の中、活気ある観光産業を発展させている。その違いはどこにあるのだろうか。
ベネズエラ共和国は南アメリカ北部に位置する連邦共和制社会主義国家だ。東にガイアナ共和国、西にコロンビア共和国、南にブラジル連邦共和国と国境を接し、北はカリブ海、大西洋に面する。

自然の豊かな美しい国で、白い砂浜が点在するカリブ海の海岸線が何百キロも続き、エキゾチックな植物や動物でいっぱいの緑豊かな熱帯雨林、雪におおわれた5,000メートル級のアンデスの山々が堪能できる。北部のギアナ高地には世界最大の落差979mを誇る滝、エンジェルフォールがある。

活気に満ちたラテンアメリカの文化の下、スペイン語やアフリカ系カリビア人をルーツとする言語などが混在するベネズエラ。その人口のほとんどは、北部の海岸沿いのマラカイボ低地とベネズエラ高原に集中する。多くの都市や村落は、山脈の谷間の温帯気候に位置する。

米国フロリダ州マイアミから飛行機で1時間、ニューヨークから3時間。米国人観光客にとって南米のベネズエラは魅力ある観光地かもしれない。しかし日本からは直通便はなく、2日ほどかけて行くような場所である。ベネズエラは、国際的に魅力的な観光地になるために、重要な課題に直面している。その課題とは、新自由主義路線からの転換と対米自主外交などの改革を進めてきたウゴ・チャベス大統領(57)下での治安問題と政策だ。


すべての面で治安が悪化している

ベネズエラに蔓延している劣悪な治安問題は、国内問題の1つで、観光産業にも大きく関わる。
2004年以降、ベネズエラ政府は公式犯罪統計値を発表していない。独立機関であるベネズエラ犯罪監視団体(VVO/VenezuelanViolenceObservatory)を介して統計値が決定されなければならない点は気になるところだ。

VVOの統計によると、同国での殺人は、2010年に約1万3,000件。2011年には1万9,000件を越え約30%以上増加した。なお、ベネズエラの人口は2011年現在約3000万人である。

ベネズエラ政府集計に基づく報告によると、誘拐事件は2011年中に1,150件とされた。しかし米国務省によると、誘拐の80%が報告されないままだと推定されている。

2012年の米国務省の旅行者向け注意書には「武装集団による強盗が首都カラカスおよび他の都市でも発生しています。一般観光客が安全だと思われている地域も含まれています」と記載されている。

ベネズエラ国内では武装犯罪組織が多数活動しており、偽の警察検問所が設定される事件が頻繁に発生している。ごくわずかな犯罪だけが裁判にかけられ、有罪判決に至っている。VVOによると殺人事件の10%未満しか起訴に至らないという。刑罰を受けないで済んでいることが犯罪増加の一因になっている。

ジェレミー・マクダーモット(JeremyMcDermott)氏は犯罪監視組織(InSightCrime)の共同ディレクターで、ラテンアメリカ・カリブ海地域の組織犯罪を分析している。彼は、ベネズエラ警察の整備が遅れていること、軍や政府内部の汚職、法の執行と司法も問題の解決を妨げていると主張する。

「チャベス政権になってから、すべての面で治安が悪化した」とマクダーモット氏は言う。
「社会主義者たちが行う治安保障と法的措置は、そうでない人々にとって良好な環境を呈しにくくしている。管理手腕が不足しているだけでなく、腐敗しやすい環境も作りだされている。党メンバーが政治的なコネを食い物にしている」とマクダーモット氏は語った。

ベネズエラでは10月7日に大統領選挙が行われる。党派に属さない人々にとっても、実力本位の環境へと大きく改善されるかどうかは選挙結果による。優位とされる現職チャベス大統領の対立候補は、前ミランダ州知事のエンリケ・カプリレス(HenriqueCapriles)氏(39)だが、安全保障上の実績を持っていないことに懸念が残る。

「カプリレス氏がミランダ州知事を務めたため、同州はベネズエラで最も暴力的な州の1つとなった」と犯罪監視組織(InSightCrime)研究員のエドワード・フォックス(EdwardFox)氏は3月に掲載されたInSightCrimeの記事に書いている。
カプリレス候補が大統領選挙に勝利すれば、左派の民兵グループの活動に拍車をかけるかもしれないという懸念もある。

しかし「これらの過激な民兵グループがカプリレス政府に対抗することになった場合、彼らは潜在的な人員不足で活動はうまくいかないだろう」と犯罪監視組織(InSightCrime)研究員ジェフリー・ラムジー(GeoffreyRamsey)氏は、今年の別の記事に書いている。

「チャベス大統領は2009年以来15万人の民兵に高水準の軍事訓練を受けさせてきた。2011年の法制定により、これらの民兵を直接大統領の支配下に置くようにした。しかし間違いなく大半はチャベス大統領の下で働くことに抵抗を感じているだろう」とラムジー氏は記事の中で述べている。


コロンビアの観光

ベネズエラの西の隣国コロンビアは、ベネズエラと同じく自然の宝庫であり豊かな文化を持つ。反政府グループと麻薬密売人からベネズエラと同じく治安上の脅威に直面し続けているが、コロンビアの観光産業は成功した。その違いは何だろうか?

コロンビア政府は、観光スポットの治安改善のために、資産とエネルギーを投入した。そしてベネズエラに先がけて、観光地として積極的に売り込んだ。
米国務省は、2月にコロンビアへの旅行に警告を発したが、その後、治安の改善を認めた。
「コロンビアでの治安は近年大幅に改善されている。カルタヘナやボゴタなどの観光地やビジネス旅行にも治安改善が見られる。しかし麻薬テログループによる暴力は、いくつかの農村と大都市に影響を与え続けている」と米国務省からの通達には記載されている。
コロンビアの統計数値はベネズエラとは異なる現実を伝えている。

国連薬物犯罪事務局(UNODC)からの最新のデータによると、コロンビアでの殺人は着実に減少している。2004年に2万件以上であったが、2010年には1万5,500件に減少し、ここ7年間で約23%減少した。なお、コロンビアの人口は2011年現在で約4700万人だ。

国連薬物犯罪事務局はまた、コロンビアでの誘拐も大きく減少していると報告している。2004年に1,442件であったのが2010年には282件。農村部でも減少傾向が継続されているとしている。

「コロンビアの誘拐発生数は2000年をピークとして、その後大幅に減少している。過去2年間、この傾向は継続されている」と米国務省が報告した。「依然として、左翼系巨大反政府組織のコロンビア革命軍(FARC)や国民解放軍(ELN)といったテログループなどの犯罪組織は、身代金目的や政治交渉を目的とした民間人の誘拐を続けている。職業、国籍、その他の理由において誰でも誘拐の危険はある。農村部での誘拐は特に問題である」と報告書では述べられている。

また、強盗も年々減少している。そしてこの傾向は、ほぼ一貫して維持されている。
コロンビアの大幅な治安改善を背景に、国は観光国としての地位を確立し、その市場を拡大してきた。
「コロンビアは、国を挙げて改善に向けて戦略的な取り組みを行っている。政府は、観光地として目され、大成功を収めるために国際的なキャンペーンを実施している」とInSightCrimeのマクダーモット氏は述べている。

先月、フアン・マヌエル・サントス(JuanManuelSantos)コロンビア大統領は、政府が国内外と海外向けの観光推進のために、2010年以来5500万ドルを投資したことを発表した。
政府機関のコロンビア貿易振興機構(PROEXPORT)は、国際観光や外国投資などに関わっている。同社のオンライン観光ポータルサイト(http://www.colombia.travel/jp/)を通じてコロンビアのブランドを作成している。

ウェブサイト上の観光キャッチフレーズは「いつまでもいたくなる国」、英語では「唯一のリスクは滞在したいと思うこと(Theonlyriskiswantingtostay)」とされている。このキャッチフレーズは、コロンビア国内の潜在的な犯罪や暴力への懸念を認めつつも、良好な治安と旅行での満足感を保証し、不安を軽減させている。観光における有害な要因を指摘して観光市場の方向転換を図るという巧妙な作戦である。それが功を奏しているようだ。

世界銀行による最新の観光統計数によると、コロンビアは、2006年から2009年までの間、年間210万人以上の外国人訪問者数を確実に維持しているという。

これに比べてベネズエラは、海外への観光促進をほとんど実施してこなかった。外国人訪問者数は2006年には77万1,000人、2009年には61万5,000人と約20%減少した。

凶悪犯罪に悩まされる南米の国からラテンアメリカの楽園へブランド再生を行ったコロンビアのモデルは、観光客を増やしたいとしているベネズエラにとっても参考になるだろう。しかしベネズエラ政府は別のアプローチをとっているようだ。


観光の国営化?

ベネズエラ政府の観光機関べネツール(Venetur)は、ホテルの大半を運営して全国的な観光活動のほとんどを管理している。
これは、高度に発達した諸外国の観光産業をモデルとして、外国からの投資を模索してきたコロンビアの観光モデルとは対照的である。
「ベネズエラの政策は国有化の1つだ。民間部門の刺激策ではない」とInSightCrimeのマクダーモット氏は述べた。

結果的には、ベネズエラの観光インフラは大幅に遅れた。ベネズエラ国内の限られた数の宿泊施設と、観光客を運ぶ安全・安心な輸送手段の不足、また、多くの個人投資家の多様性を拡大するためのプロモーション不足は明白である。

一方で、同国内では観光産業が活気に満ちた場合の影響も懸念されている。観光は経済だけでなく社会にも影響を与えるからだ。社会主義の真っ只中で、自由市場資本主義の進出に抵抗し、政府が観光をブランド化することに対する社会的影響が特に懸念されている。

オンラインニュースサイト、ベネズエラ・アナリシス・コム(Venezuelanalysis.com)によると、2008年にチャベス大統領は、「われわれは観光の国有化を目指している。エリート・ツーリズムではない。受け入れられる観光事業を推進している。人道的かつ非常にエコロジーな多様化された観光だ」と述べたと報じた。

「エリート・ツーリズム」とは、外国人と民間投資に依存する観光産業に対する激しい非難である。
ベネズエラ在住のオーストラリア人、タマラ・ピアソン(TamaraPearson)氏は「われわれは、人間性を発展させる観光をゆっくりと作りあげている。味気ないビジネスマンの銀行口座が潤うために観光事業を構築しているわけではない」とベネズエラ・アナリシス・コムに書いている。ピアソン氏は米国の労働運動指導者でメキシコ系農民を組織したチャベス(CesarChavez)氏に賛同する活動家だ。

「コミュニティを助長し、環境や生態系の認識と理解を促し、地域の文化や集団の歴史を援助し、国や地域間の連帯と知識の交流を促進することを目的とする観光だ」とピアソン氏は述べている。
ベネズエラは、観光客のための遊び場として国のイメージを売ることには興味はない、というのが基本的なメッセージだ。当然、利益についてもこれはあてはまる。

このアプローチは資本主義的企業と文化統合に対する、高貴で威厳のある反論と考えることもできる。しかしそれはまた、他の社会からの影響に対する、社会的緩衝装置として捉えることができる。
ベネズエラ政府は、外部関係者による投資で活気のある観光となるよりも、政府管轄下で精彩を欠いた観光産業の方が好都合だとした。

ここには「不安定な」収入源を無視する余裕があるように感じられる。ベネズエラには石油輸出による巨額の収益があるからだ。そしてこのことは、多様化されないがゆえの経済リスクを負うことになる。

「ベネズエラの大きな問題は、大量の石油が埋蔵されていることだ」と、ベネズエラの首都カラカスを拠点にするブラジルの広告代理店オグルヴィ社幹部のボビー・コインブラ(BobbyCoimbra)氏が英国放送協会(BBC)に語った。「このためベネズエラ政府は他の計画を作成したがらない」と指摘した。

しかし、石油生産停滞と世界の石油市場の先行きに不安が増す中で、ベネズエラ政府は、その不安を打ち砕く「観光」という選択肢を握っていることに気づくべきだ。そうでないなら、石油収入が減少していったときに、ベネズエラ政府は、国際的な観光訪問者数の減少以上に、さらに深刻な多くの問題を抱えることになるだろう。

この記事は、米国版InternationalBusinessTimesの記事を日本向けに抄訳したものです。(情報提供:IBTimes)




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