2011年10月6日木曜日

■震災後の訪日旅行市場、来訪者や予約動向から探る-JNTO講演会


震災後の訪日旅行市場、来訪者や予約動向から探る-JNTO講演会
http://www.travelvision.jp/event/detail.php?id=50385
2011年9月20日(火)

  日本政府観光局(JNTO)は先ごろ、大阪と東京で賛助団体や会員企業を対象とした個別相談会を開催した。東京の個別相談会では講演会も催し、各方面から東日本大震災後の市場動向と今後の回復に向けた展望が語られた。このうち、北京大学研究員・英フィナンシャルタイムズ中国語版コラムニストの加藤嘉一氏や、エクスペディアホールディングス北アジア・ミクロネシア地区担当本部長のピーター・リー氏、JNTO理事の神保憲二氏の講演から、現在の状況と今後の見通しを探った。

事例から考える回復のタイミング
検索数では早期回復の兆候も

 JNTO理事の神保憲二氏によると、震災直前の2011年1月と2月は、訪日旅行者数が861万人と過去最高を記録した2011年をしのぐペースで推移してきた。しかし、東日本大震災が発生した3月11日後は極めて厳しい状況となり、4月は対前年比62.5%減。1月から7月までの累計値は33.2%減の約340万人と、前年のおよそ3分の2にとどまっている。

 回復の時期はいつ頃を見込んでいるのだろうか。神保氏は「地震、津波の被害に原発の問題が重なり合ったのは世界的にも例のない話。予測は難しいというのが本音」としながらも、今回の原発問題と同様に、健康被害が懸念された2003年のSARS発生時の事例を例に出した。香港、シンガポールではSARS発生時、外国人旅行者数が約7割減少。その後、ある程度の早期回復が見られたが、全面的に戻るまでは1年ほどかかったという。

 同様に、エクスペディアホールディングス北アジア・ミクロネシア地区担当本部長のピーター・リー氏も、過去に世界で起こったテロや天災などを鑑み、完全回復には12ヶ月から18ヶ月を要するとみる。

 ただし、エクスペディアの予約実績を元にしたデータによると、2011年1月と2月の実績を100%とし、4月から7月の実績と比較すると、北米は4月が34%、7月が60%、アジア太平洋地域は4月が27%、7月が79%、欧州は4月が22%、7月が53%と回復傾向にあることがわかる。さらに、月間7300万人の閲覧者を有するエクスペディアのサイトの検索データから消費者行動を分析すると、「宿泊施設や航空券予約の検索パターンを見てみると、日本の検索数はほぼ震災前の水準に戻ってきており、良い傾向も見られる」という。

早期回復、まずは近場のアジアから

 市場別にみると、欧米とアジア太平洋州からの旅行者では、戻ってきている客層や回復度合いに違いが見られる。リー氏によると、日本に戻ってきている欧米からの旅行者の多くは商用目的。一方、レジャー客は震災の影響のみならず、為替や景気悪化の影響も受け、近距離のデスティネーションを選ぶ傾向にある。このようななか、アジア太平洋州のレジャー客の回復の度合いは欧米に比べると大きく、リー氏は回復を裏付ける「明るいニュース」ととらえている。

 その傾向と同調するかのように、JNTOでもビジット・ジャパン(VJ)事業の本格再開にあたり、まずは中国、韓国、台湾、香港など近隣市場に集中的に予算を投入するという。特に、近くて市場規模が大きくポテンシャルの高い中国や、最大の訪日旅行者数を誇る韓国について、早期の回復をはかるねらいだ。

 特に中国では、個人観光ビザの発給要件がさらに緩和される。2011年7月からは初回訪問時に沖縄に1泊以上の滞在で発給される個人観光マルチビザが発給され、9月には通常の個人観光ビザの発給要件の緩和も予定されている。原発問題に対する中国人旅行者の反応が気になるところだが、中国を中心に活動する英フィナンシャル・タイムズコラムニストで北京大学研究員の加藤嘉一氏は「中国は『今払い』が基本。その地方がだめでも他の地域に行こうとするのであまり気にしていない」という。ビザ発給要件の規制緩和は中国人の訪日旅行の後押しとして期待が持てそうだ。

 一方、エクスペディアも近距離市場からの訪日旅行回復に向けて、アジアで次々とウェブサイト立ち上げ、日本のピーアールをしている。2011年に入ってから同社は、シンガポール、タイ、マレーシア、韓国で2011年にサイトを開設したが、特に韓国語のサイトではデスティネーションとしての日本をピーアールしてきた。震災後の展開についてリム氏は「個人的には疑問に思っていたが、実際はお客様はサイトを閲覧し、商品購入にも結びついている」という。エクスペディアでは他にもアジアで香港、インドネシア、フィリピン、台湾、ベトナムでもサイト立ち上げる予定だ。

アジア需要の高い地方の回復、地方にチャンスをもたらすか

 国内のデスティネーション別では、震災後に東京以外の地方、特にアジアからの旅行者から需要が高い地域ほど顕著な回復が見られる。

 訪日旅行客の多くが東京を訪れることが多いが、エクスペディアの実績に基づくデータによると、2011年1月、2月の予約実績を100%とすると、東京は52%と最も回復が遅い。一方、京都は70%、大阪は99%と回復が見られ、現状では東京以外の他の地方に目が向けている様子がうかがえる。エクスペディア自体も地方へビジネスを展開する方向で、現在の東京と大阪のほか、将来的には札幌、京都、福岡にも事務所をオープンする予定だ。

 震災からの回復の過程で、地方にもチャンスが巡って来る可能性がある。例えば、神保氏が「インバウンド観光において大いに力になる」と期待するクルーズ船の寄港だ。震災後、日本への寄港を見合わせてきたコスタクルーズも8月以降、順次再開するが、その際には宮崎や和歌山など、同クルーズにとって初の寄港地の設定もある。

 ビジネスチャンスが広がっている地方だが、インバウンド市場で改めてアピールするにはどのようにしたらいいのだろうか。加藤氏は、特に中国市場に訴求するには地域ごとのありのままの魅力を紹介していく重要性を強調している。地方を効果的に売り込むために、加藤氏は既存のプラットフォームを使ったピーアールを提案。例えば、中国と日本の都市は300以上の姉妹都市があるが、実際は形骸化している状況にある。しかし、ターゲットを絞ってピーアールをすることで、姉妹都市を観光促進に活用できるのではないかと考えている。

 ただし、加藤氏は「キャッチーな、中国の人に一目瞭然のキラーメッセージを探す」ことが大事だという。例えば、加藤氏自身は静岡出身だが、静岡県といっても中国人にはなかなか伝わらない。一方、観光地として有名な「伊豆」なら知っている人が多いという。これは中国のみならず、他の市場からの誘客の際にもヒントになるのではないだろうか。


さらなる回復に向けて「協力」がキーワード
当面の目標は震災前の水準

 少しずつではあるが、徐々に回復が見られるインバウンド市場。今後、本格回復に向け、加藤氏は「中央と地方が歩調を合わせることが大前提」とし、官民一体で取り組んでいく必要性を強調した。また、リー氏も「回復は1社だけの努力ではなし得ない。日本のイメージを回復させ、訪日旅行客を取り戻すには日本全体として協力が必要」と訴える。官民、企業同士の「協力」が回復に向けてのキーワードとなっているようだ。

 JNTOの神保氏は今後の目標について、「最も大事なことは外国の方になるべく早く日本にたくさん戻って来てもらえるようにしていくこと」とし、「プロモーションを強化し、マーケットに働きかけて、訪日外国人の需要回復をはかっていきたい」と語った。市場回復に向けて、具体的な数値目標は掲げられなかったものの、業界全体で以前の水準に回復させる一体的な努力をしていくことが求められている。


個別相談会、回復に向けた具体的な相談多く
来年も東京以外での開催も予定

 JNTOが先ごろ開催した個別相談会には、東京会場で126団体286名、大阪会場で29団体54名が参加した。個別相談会は賛助団体や会員企業への満足度向上と高いサービス提供の一環として実施するもの。各海外事務所長が最新情報の提供とインバウンド関連の相談に応じ、インバウンド拡大に向けた意見交換の場としている。10年前から年に2回、開催しており、大阪での開催は今回が初めて。全国規模でインバウンド誘致が広がるなか、フェイス・トゥ・フェイスでの相談を希望する賛助団体や会員企業が多いことから、JNTOでは来年も東京以外の都市での開催に取り組んでいく意向だ。

 今回は、大阪ではソウル、北京、台湾、バンコクなどアジア7海外事務所のデスクを設置。東京では上記のほか、パリやシドニー、ニューヨークなどを含めた15海外事務所とコンベンション誘致部、外国人受入れ相談デスクを設置した。震災後の開催ということもあり、その後の各市場の動きや回復状況に関する相談が多かった。また、回復への効果的なプロモーションについて具体的なアドバイスも求められたという。今後は相談内容に応じて、JNTOの本部や海外事務所でもフォローをしていく予定だ。



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