2011年11月7日月曜日

■無料航空券バラマキでは外国人は呼べない


無料航空券バラマキでは外国人は呼べない
http://www.newsweekjapan.jp/column/tokyoeye/2011/11/post-405.php
2011年11月07日(月)09時00分 ニューズウイーク〔11月2日号掲載〕
今週のコラムニスト:レジス・アルノー

 日本の旅行業界は新時代に突入しようとしている。かつて航空会社といえば日本航空(JAL)と全日空(ANA)ぐらいだったが、今ではピーチアビエーションのような格安航空会社が参入。そして、今度は外国人旅行者をタダで運ぶ組織まで登場したのだ。その名はJTA──日本の観光庁だ。

 これはアイドルグループの嵐を「観光立国ナビゲーター」に任命したのに続くJTAの観光振興策だ。1万人の外国人を対象に、日本への往復航空券を無料で提供するという。

 嵐の起用とは異なり、この思い切った計画は世界のメディアの注目を少なくとも一瞬は集めた。大胆さでは世界でも例のないプロジェクトだ。フランス政府観光局のある関係者は私にこう言った。「新規顧客の開拓のためにフランス政府から航空券を50枚手に入れるのだって大変なのに、1万枚とはすごい数だ。今でも日本はよほどリッチなんだな」

 確かに日本の観光業界にとって、外国人観光客の増加は切実な願いだ。日本政府観光局(JNTO)によれば、福島第一原子力発電所の事故後の今年4月、日本を訪れた外国人旅行者の数は前年同月比で62%減少。8月の時点でも同32%のマイナスだった。

 だがこのプロジェクトには問題も多い。何かをタダで配るという行為は、マーケティング的に非常に危険なメッセージを送ることになる。「自分の売り物にはろくな価値がないからタダであげますよ」と言っているようなものだからだ。これでは、上等な旅行先という日本のイメージを損なうことになる。

 第2に、この案は組織的な問題を多くはらんでいる。例えば当選者はどの航空会社を利用するのだろう。JTAはキャンペーンに掛かる費用を11億円以上(つまり1人当たり11万円)と見積もっている。もしかしてこれは、JALのようなずさんな経営の航空会社に公的資金を注入するための隠れみのではないのか?


■最大の壁は食品の放射能汚染

 無料航空券で日本に来た外国人が滞在中に計10億円以上使ってくれれば、こうした税金の使い方も許されるだろう。だがJTAの統計によれば、今年4~6月期に観光目的で来日した外国人が日本国内で使った金は平均8万8377円だ。

 最後に何より重要なのは、航空券プレゼントは日本の観光業を盛り上げるのに役立つ政策ではないということ。必要なのはいわゆる「リピーター」を増やす施策だ。でもこのキャンペーンに乗るのは、日本文化よりも無料のチケットに魅力を感じる人々だ。

 もし私の手元に10億円あったなら、全額外国の銀行に預けるだろう。年利4%なら利子は4000万円。そのカネで途上国の若者80人を呼び寄せるのだ。10億円は手付かずのまま、日本がどんなに素晴らしい国かを知ってもらえる。

 日本の観光業にとって本当の問題点はJTAの力ではいかんともし難いものだ。「日本について心配な点は何か」と日本内外に住む知り合いの外国人に聞くと、帰ってくる答えは決まって食べ物の放射能汚染だ。日本政府の調査によれば来日する外国人が最も期待しているのは日本食だというのに、今はその食品が不安のタネになっている。

 もし湯水のようにカネを使えるなら、真の観光資源である歴史的建造物の改修に充てるべきだ。東京に明治時代からある有名な下宿屋、本郷館はこの8月に老朽化を理由に解体された。日本の現代建築の傑作として名高い愛知県立芸術大学の建物も、近々取り壊される予定だ。

 だがゼネコンはうまい具合に、日本をこうした問題に無頓着な人間の国へと仕立て上げた。あと10年もすれば東京は上海みたいな街になり、わざわざ飛行機に乗って遊びに来ようと思う中国人などいなくなるかもしれない。
 
Regis Arnaud レジス・アルノー
1971年、フランス生まれ。仏フィガロ紙記者、在日フランス商工会議所機関誌フランス・ジャポン・エコー編集長を務めるかたわら、演劇の企画なども行う。



0 件のコメント:

コメントを投稿