2011年11月10日木曜日

■震災後、激減した中国人旅行客を呼び戻す切り札に


震災後、激減した中国人旅行客を呼び戻す切り札に
HTBクルーズが上海―長崎航路の就航に向け試験航海
http://www.nikkeibp.co.jp/article/news/20111104/289500/?ST=rebuild
2011/11/04  鈴木 昭[デジタル事業局開発部]

 東日本大震災後、冷え込んだ業界は多いが、中でも旅行業界は深刻だ。とりわけ中国人「インバウンド(訪日旅行客)」激減のダメージは大きかった。2010年には141万人(前年比40%増)の中国人旅行客が訪日した実績があっただけに、旅行業界の落胆は大きい。ぜひ中国人インバウンドを復興したい! その有力な切り札の一つとして期待されている大胆な取り組みがある。ハウステンボス(長崎県佐世保市、澤田秀雄社長、HTB)の子会社HTBクルーズ(佐世保市、山本宰司社長)が準備を進めている上海―長崎航路の新設だ。


2012年に5万人から6万人の利用客を見込む

 11月3日、曇天の朝10時、HTBクルーズの貨客船「OCEAN ROSE(オーシャン・ローズ)」(全長約190メートル、約3万トン)が、吹奏楽が流れ、関係者、報道陣およそ400人に見送られながら、試験航海のため中国・上海港を目指して長崎港を出航した。

 日中両国の旅行業界、報道関連、長崎県・市町村の関係者、約200人を乗せて、まる一日かけて航海。船内では各種演奏会や九州物産展も催される。4日午後に上海港に入港。上海市内で長崎県主催のセレモニーが開かれた。

11月3日朝、出航前のセレモニー。左からHTBクルーズ・山本社長、三名の女性をはさんでCHENG GANG船長、HTB・澤田社長、長崎県・石塚孝副知事、中国駐長崎総領事館・李文亮総領事
 6日午後に長崎港に戻り、その後、佐世保重工(SSK)佐世保造船所にドック入りし、来春開始予定の本格就航に向けて、仕上げの内装作業や各種調整が施される予定だ。

 「2012年に5万人から6万人の利用客を見込んでいる。そのうち70%は中国人、30%が日本人と予想しています」

 ハウステンボスの戦略子会社として、上海―長崎間の定期航路を開き、中国人旅行客の増加を図ろうと戦略を練るHTBクルーズの山本社長が語る。


ターゲットは中国の若者層

 「びっくりさせたいんですよ。閉塞感が漂う時代だからこそ、大きく迫力あるもので。まずは中国と日本を結びますが、今後、アジア各国を周航して日本に集客するアジア版の地中海クルーズを想定しています。各国の経済レベルが上がり、実現の可能性が出てきました」(山本社長)

 山本社長の経歴は旅行業界にあって異色だ。銀行員から始まり、M&Aや会社再建といった金融の世界で10年間働いてきた。仕事柄、多くの社長に出会う。

 「澤田社長(当時エイチ・アイ・エス社長、現会長。現在ハウステンボス社長を兼任)の人間的な魅力に引き込まれた。新事業を通じて世の中を変えていきたいという情熱に共感し、この人と一緒に仕事がしたいと痛切に思ったことが、旅行業界に転じたきっかけでした」(同)

 激しい競合と価格競争にさらされる既存市場「レッドオーシャン」ではなく、時代を切り拓く新規市場「ブルーオーシャン」で勝負したい。では中国人にどのようにアピールしていくのか。

 「10年先、30年先を考えている。コアターゲットは富裕層でなく若者層。ちょうど日本の学生やOLが気軽にサイパンやソウルに出かけるようなライトな感覚で中国の若者層に訴求したい。内装や飾り付けも船旅にありがちなゴージャス路線ではなくカジュアルなお洒落さ、若々しさを打ち出していく」(同)

 そのための切り札は低価格と船上エンターテインメントだという。格安航空会社(LCC)の向こうを張って、「LES」と山本社長は呼んでいる。ローコスト・エンタテインメント・シップの略だ。
 「エンターテインメントは船旅に高付加価値を付ける重要な要素だと思う。直前まで言えませんが、中国の若者層に受けるショーなどの企画を計画しています。また、乗船料はLCC並みに抑えたい」(同)


2011年春から本格就航

 船内ショッピングもエンターテインメントのひとつだけに、品揃えに力を入れる。「化粧品やバッグ、時計、そして家電など若者にアピールできる商品を安く豊富に用意する」(同)。
 2012年3月から週3回程度の定期運航を計画している。「日本側の手続きはほぼ完了。間もなく中国側から定期就航免許が下りる見込み」(同)。
 オーシャン・ローズ号はインバウンド復興に向けて、大量送客時代幕開けの汽笛(ファンファーレ)を響かせてくれるだろうか。

【オーシャン・ローズの概要】
◆貨客船(車両輸送もできる旅客フェリー型)。全長192.9メートル、型幅29.4メートル、型深6.8メートル。総トン数30,412トン。最大収容客数1700人。竣工1991年(石川島播磨重工業)。2011年5月にHTBクルーズのパナマ現地法人が中古貨客船を20億~30億円(編集部推定)で取得。佐世保重工・佐世保造船所で改修を施した。
◆上海~長崎間の片道乗船料は7800円(燃油サーチャージ、港湾利用料などを除く)程度から数万円まで様々な価格帯を用意する予定。
◆2種類の座席タイプの客室(計600席)と、ベッドを備えた8種類の個室(200室)などを用意する。
◆船内サービス:各種娯楽イベント、物品販売、医療検査、将来的にはカジノ構想も。
●今後の運航予定
2012年
1月下旬~ 週1~2便程度の不定期営業運航
3月 定期運航開始予定(週3便程度)



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