2011年11月7日月曜日

■米国人ラッパーが作った最強の東京PRビデオ


米国人ラッパーが作った最強の東京PRビデオ
http://www.newsweekjapan.jp/column/tokyoeye/2011/10/pr.php
2011年10月17日(月)09時00分〔10月12日号掲載〕
今週のコラムニスト:レジス・アルノー

 東京という街を宣伝する史上最高の広告。これを作ったのは日本人ではない。ギリシャ出身の無名の監督とアメリカの超人気アーティストだ。

 霞が関のお役人の中で、ファレル・ウィリアムスの名を聞いたことがある人はそう多くはないだろう。だがウィリアムスは世界的なスター。73年生まれで、知名度においても影響力においても、同世代のアーティストの中では抜きんでた存在だ。多才な人物で、ラッパーであり歌手であり、ヒット曲を数多く手掛けたプロデューサーであり、作曲家であり、デザイナーとしての実績もある。

 要するに、ウィリアムスは流行の最先端にいる人間ということになる。一歩先を見て、食べ物や音楽、旅行先のトレンドを動かす「世界のトレンドセッター」であり、世界中の若者たちが彼の意見に耳を傾ける。宣伝マンとしてはこれ以上望むべくもない存在だ。

 そしてありがたいことにウィリアムスは「第二の故郷」と呼ぶほど東京が大好きだ。もし人気グループ「嵐」が出演する観光庁の日本観光PRビデオを通してしか日本を知らなかったとしたら、彼は東京のことを安っぽいメロディーの流れるつまらない場所だと思っていたに違いない。だがウィリアムスは過去何年にもわたり、何度も東京を訪れている。自分のブランドのために東京のデザイナーとコラボしたりもしている。

 3月11日の大災害をテレビで見て、ウィリアムスは東京を元気づけるために何かをしなければと思い立った。その結果生まれたのが『東京ライジング』だ。長さ6分のビデオクリップ5本からなるシリーズで、インターネットで無料公開されている(www.palladiumboots.com/video/tokyo-rising#part1)。

 まるで多額の製作費を掛けた映画を見るような映像で、東京の魅力的な場所やバーやクラブが紹介されているほか、ウィリアムスと東京の個性的な若きクリエーターたちとの対話も収録されている。エキサイティングなトリプル・ニップルズのショーに圧倒される場面もある。


■愛ゆえの賛歌、愛ゆえの説得力

 このビデオを見て、東京の全体像を描こうという意図が感じられないとか、原発事故後の東京の一部分しか伝えていないと言う人もいるだろう。だがタリア・マブロズ監督の東京の扱い方は素晴らしい。都市の最も基本的なインフラを映画の舞台装置に変えてしまったのだから。

 このビデオにおける新交通システム「ゆりかもめ」の使い方は非常に印象的だ。カネの無駄遣いの象徴を、「東京以外では消して体験できない長旅を楽しめる鉄道」へと変貌させた。あるシーンでは、ゆりかもめそれ自体が魅力的に映し出されている。最も基本的なものを使ってそれを美へと変える。これぞアートだ。

 ウィリアムスの「証言」は、外国人から発せられたものだからこそ意味がある。東京に魅力があろうがなかろうが、彼に利害関係はない。彼はただ東京という街を愛し、貴重な時間を割いて東京に救いの手を差し伸べようとしているだけなのだ。そんな彼の言うことならみんな信用するはずだ。
 もし責任者に外国人を起用していれば(韓国ではそうだ)、日本観光のPRはもっと成功していたかもしれない。日本の良さをうたう外国人が作った映画や歌やアートは、素晴らしい上に無料の広告だ。

 確かにウィリアムスのビデオには彼らしい「ポップな」世界しか描かれていないかもしれない。だが世界には、アラン・デュカスのようなシェフやクエンティン・タランティーノのような映画監督、デービッド・ピースのような作家など、日本からインスピレーションを得たクリエーターがたくさんいる。日本に恩返しができるとなれば、彼らも喜んでウィリアムスのような日本への「賛歌」を作ってくれるのではないだろうか。
 
Regis Arnaud レジス・アルノー
1971年、フランス生まれ。仏フィガロ紙記者、在日フランス商工会議所機関誌フランス・ジャポン・エコー編集長を務めるかたわら、演劇の企画なども行う。



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