2011年12月5日月曜日

■「地旅」で生き残り


「地旅」で生き残り 
http://www.asahi.com/business/topics/economy/TKY201112050093.html
2011年12月5日 朝日Web

全国にはこんな「地旅」も
 
 わが街の歴史や自然をじっくりとご案内します――。地方に点在する中小の旅行業者が生き残りをかけ、そんな企画に取り組み始めた。名付けて「地旅(じたび)」。


■きめ細かくうんちく披露

 愛知県の最北端。国宝・犬山城は、木曽川を見下ろす高台に立つ。

 11月中旬、地元の旅行会社「ツアー・ステーション」の加藤広明社長が、天守閣の前で城の模様の入った金太郎アメを12人の参加者に配っていた。

 「実は昨晩、ここの姫様とお食事をご一緒しまして。これは皆様への手作りの賜り物です」。姫様とは尾張徳川家の筆頭家老だった成瀬家の子孫のこと。2004年に財団の持ち物になるまで、お城は成瀬家が個人所有していたという。

 同社が不定期で開催する「犬山を学ぶ旅」。木曽川べりや瓦屋根の古い商家が並ぶ城下町を散策する現地集合のツアーだ。地元で集めた、明治から昭和初期にかけての城や街並みの写真を見せながら、加藤社長がうんちくを披露して歩く。

 話題は近隣商店の屋号の特徴から、城下町の道路拡幅を巡る十数年前の住民対立にも及んだ。「2車線化するかどうかで真っ二つに割れ、大議論の末に市が計画を撤回した。江戸時代のままの町並みが残った全国でも珍しい例なんです」

 名古屋市内から妻と参加した男性(72)は「普通なら知りようのない話ばかりで驚いた。住む人の雰囲気や街づくりの苦労まで感じられた」と満足げだ。

 同社がこの企画を始めたのは昨年。もともと地元に詳しかったわけではない。観光資源を調べるうち成瀬家やまちづくり団体と交流ができた。城下町文化の情報提供を地元紙で呼びかけて旧家とも親しくなった。

 参加費は1人5千~6千円。交通や宿泊の手配を伴う関東や関西などへの団体旅行と比べれば利益の桁は一つか二つ少ない。加藤社長は「まだ未熟なビジネスモデルだが、将来に向けて育てていきたい」と話す。


■地元の客 紹介し合う

 「我々が半世紀近くやってきた商売は、もはや通用しなくなっている」
 4月、約5500の中小業者が加盟する全国旅行業協会(ANTA)が富山市で開いた国内観光活性化フォーラム。「全旅」の池田孝昭社長が1500人の関係者に訴えた。

 全旅は、ANTAの加盟社が出資する業界支援の会社だ。これまで中小も大手と同じ「地元から観光地への送客ビジネス」で商売してきた。しかし、宿や交通機関の手配もネットで済む時代となり、国内旅行業はじり貧に。大手との価格競争も激しく、財団法人日本交通公社によると、昨年の中小旅行業者の取扱額は10年前の4割減だった。

 「大手と同じ手法では生き残れない。地域で暮らす中小業者ならではの付加価値をつけた商品を売るしかない」と池田社長。2007年に「地旅」を商標登録し、いまは普及運動の先頭に立つ。命名は地酒や地ビールからヒントを得た。

 ただ、現状では手がける会員は1割程度。PRできる範囲が限られ、「手間がかかる割には、もうからない」(業界筋)ためだ。

 この壁を乗り越えようと、全旅が考えたビジネスモデルが「仲間うちでの顧客の交換」。業者間でお互いの地旅に送客しあえば、宿泊や交通機関の手配を伴うケースが増え、商売にしやすくなるとの狙いだ。

 先進的に取り組むのが千葉県香取市のエアポートトラベル。霞ケ浦から利根川の河口まで約80キロを船で下り、古寺の住職の話や地元の小唄を楽しむツアーを企画。昨年、全旅主催の「地旅大賞」に選ばれた。

 昨年9月、この旅に岩手県の旅行会社が約20人のツアーを組んだ。来年には千葉県銚子市、茨城県笠間市の旅行会社が約500人の顧客をお互いの地元に送り合う。石橋一男社長は「成功のカギを握るのは販路を多く持つこと」と話す。


■遠くより近く コペルニクス的転換

 「地域の旅行業者は、地元のことをほとんど知らない」。池田社長から話を聞いて、驚いた。遠い観光地にお客さんを連れ出すことを生業としてきた業界にとって、地旅はコペルニクス的な発想転換なのだ。

 伝統行事など地域の観光資源の掘り起こしはNPOや観光協会も熱心だ。しかし、旅行業者には、予定の組み方やトラブル処理法など、長年の経験で培った専門知識がある。観光客にとってのメリットは大きい。

 それぞれの地域で協力の輪を広げ、ぜひ地方の活性化にも貢献してほしい。



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