2012年1月11日水曜日

■【コラム】 マカオグランプリ主催者に聞く 上手な観光プロモーションと産業活性化


【コラム】 マカオグランプリ主催者に聞く 上手な観光プロモーションと産業活性化
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2012&d=0110&f=column_0110_015.shtml
2012/01/10(火) 18:25  サーチナ

 昨年(02011)の話しで恐縮だが、マカオGP終了後、実際にこのイベントをオーガナイズしている”マカオGPコミッティ”に取材を求めた。両者の時間がなかなかあわず、昨年の暮れになってようやく実現した。自分がモータースポーツ関係者である事を一旦横に置いて、なぜひとつの国(マカオの場合は地域だが)が長い時間を掛けてグランプリを開催し続けているのか?ここを探ってみた。

 御存知の通りマカオの経済は観光、とりわけカジノに依存している。かつてモータースポーツ界はタバコ産業が支えていたが世界的な嫌煙の流れに沿って、なるべくタバコ会社の露出をしない様にしているのが現状(実は今でもフェラーリのメインスポンサーはマールボロ)。同様にマカオ政府も”カジノ”と言うキーワードをなるべく露出しないようにしている。

 やはり『賭け事』と言うややもするとネガティブな要因に捉われやすい事業が国を支えていると言うイメージを極端に嫌っていて、最近ではあの元祖マカオのカジノホテルである”リスボア”と言う名称そのものが『カジノとイコール』と言う事で宣伝に使えなくなった。プライベートBLOGで『マカオの賭博収入が~』と表現していたのを見かけたが、これはマカオ政府が最も嫌う表現である。

  ※マカオGPコミッティ:マカオ政府 社会文化長官がチェアマンとなる独立行政団体

  以下、マカオGPコミッティへの取材の様子を文章に纏めて問答形式にしました。


 ―『マカオと言う国(地域)にとってのマカオGPとは、どう言う存在なのでしょうか?』

 「マカオGPは58年の長い歴史を持っています。グランプリはマカオのひとつの観光ブランドになっていて、マカオが観光立国である事のイメージと国際的な知名度を上げる為に大きな役割と実際にその効果を生み出しています。マカオ特別行政政府は『スポーツ&観光政策』を維持しています。

 その一方で国際的なスポーツイベントを開催する能力を上げていくと同時に、マカオの世界(文化)遺産、観光コンベンションとスポーツイベントを融合していくと言う事をテーマにしています。

 それでマカオの観光業を様々な方向へと発展させる事により、あらゆる観光客の要求を満足させて行こうとしております。グランプリがキッカケとなり毎年、沢山の観光客とエントラント、メディアがこのイベントに参加しています。

 マカオの観光コンテンツの多面性とスポーツ観光をより強くプロモーションする為、グランプリ委員会は毎年、政府旅遊局と共に様々なプロモーションイベントをマカオだけではなく国内外で展開しています。

 と、同時にマカオの民間団体とグランプリをテーマしたイベントを開催して、マカオ市民と観光客が積極的に加われるようにし、グランプリへの期待感、高揚感を積極的に演出し、マカオグランプリと言うイベントを全身で体感できる。その様なイベントにすべく努力をし続けています。」


 ―『グランプリが及ぼす具体的な経済効果については?』

 「マカオGPは世界各地から耳目を集めるパワーを持っています。一般の観光客、モータースポーツファン,メディアなど等。これによって年に一度のこの盛大なイベントは国際間での知名度は少しずつですが向上し、マカオにとってひとつのブランドイベントになっています。2011年度は7つのレースに、34の国と地域から、226名のドライバーがマカオに来ました。そのうち60名はマカオのローカルドライバーです。レースも世界各地のメディアに広く報道されて、243のメディアカンパニー、1,000名近いジャーナリスト、同時に40局を越えるTV局がグランプリを放映(報道)しました。

 この4日間のグランプリコミッティの公式サイトのアクセス数は12,000,000PV(1日平均300万PV)。観客、チームスタッフとメディアを含め65,000人がグランプリに直接訪れ、2011/Macau GPの総収入は36,000,000MOP(マカオ・パタカ/日本円で約3億6千万円)を売り上げました。これは今までの長い歴史の中での新記録です。このうち10,000,000MOPがチケットとSJM(メインスポンサーであるリスボアのカジノの運営会社)をはじめとする各スポンサーからの収入です。

 この様な直接的な収益と、ファンや一般観光客が生み出す副次的な収入があります。このグランプリ開催期間の四日間、マカオを訪れる為に入国された人数は2010年同時期より18.89%も上がり、453,692人を記録。この間のホテルの平均稼働率は92.32%、世界各地からの観光客がマカオに沢山来てくれて同時に観光産業(ホテル、お土産屋など)を大きく動かしています。

 
 ―『世界でも類をみない希少なグランプリ。今後の展開と展望は?』

 「マカオGPは世界でも類を見ない国際的モータースポーツイベントです。3つの国際レベルのレース(F3、WTCC、moto)以外に、いくつかのアマチュアドライバーとローカルモータースポーツファンが参加できるレースもあります。これは”グランプリ”のタイトルが掛けられたイベントとして大変に珍しいプログラムだと思います。F1グランプリにサポートレースが入る場合もありますが、とてもモータースポーツ愛好家レベルでは参加できませんよね?ですので、私達はこれからも今までのスタイル、今までのやり方を継続していきます。そしてますますレースの流れを改善していくでしょう。課題が無い訳ではありません。もっと良い方向にデベロップメントしていきます。

 近年は見所があるレースを2つ、マカオGPに持ってきました。”GT”※1と”ロードスポーツ選手権”※2です。これはとても中華圏の観客に好まれているレースです。今年は特にサーキット以外の場所でのイベントに力を入れました。11月12日に塔石広場で開催されたGTイベント”ミニパドック・スーパーカーイベント”を開催し、これには本当に多くの市民が来てくれて大盛況でした。

 またレースウイークエンドには工民連合会(労働者の組合)と共に国境近くの体育館で”GP大衆道楽の日”として、別のイベントを開催しこれには23,000人を動員しました。そして例年通り、セナド広場・市内ロータリー・国境・官也街でTV中継とGP広場を設置しそれによってマカオ中が賑やかになり市民と観光客が一体となって楽しめる、そう言う雰囲気作りにも力を注いでいます。」


 ―『近年、マカオの開発事業はタイパに移行しているが、今後はグランプリの開催場所が変わる等、あるのだろうか?』

 「マカオGPの特徴のひとつは58年間、ずっとギアサーキット(マカオの中心部の公道)でレースを行っている事です。このストリートサーキットの周辺にはポルトガル式と現代建築物が一緒に建っている”マカオらしさを感じる”エリアです。

 そしてコースは超ハイスピードのロングストレートと山側のワインディングロードが巧妙に織り交ざっている。

 いくつかのコーナーは世界的に有名(リスボアコーナーやメルコヘアピン等)で、ドライバーにとってみても高いスキルの要求をする、チャレンジングなサーキットとして認知されています。

 TVに映るのは街の発展のシンボルである高層ビル、そして世界(文化)遺産。そのあいだをレーシングカーが走る。この様なユニークなサーキットは本当に珍しいと思っています。

 従って他の地域に移転させる事は、マカオGPの精神に反します。これからもギアサーキットで開催していく事は間違いの無い事実です。」


 ―『様々なクラスが存在していて、スケジュールが非常に過密になってきている。今後、日程やスケジュールの変更などありえるのか?』

 「2011年のレースは悪天候の影響でF3、WTCC、MOTOを全て日曜日に変更しました。そう言う場合でも速やかに状況判断して参加者を混乱させない能力を持ち、同時に安全性とコースコンディションを保つ。非常に難しい問題ですが、我々はそれをやり遂げています。例え自然が原因の問題であっても、レースがスケジュール通りに終わらせる事が大切です。レースのアレンジメント…たしかに難しい課題ですが、世界のトップレベルのレースとアマチュア精神を尊重したローカルイベントを混在させる。この異なる世界を融合させ、我々は成功させていると自負しております。従ってあくまでも今のスタイルを継続する事が大切だと思っています。」


 ―『シンガポールのF1がナイトレースとして開催され大成功を収めた。その様な予定はあるのか?』

 「マカオGPは58年間デイレースをやっていて成功を収めています。先ほども話しましたとおり、たしかに夜、ライトアップされた高層ビルの中をマシンが走るのも良いですが、マカオの歴史的文化遺産はそう言う訳にはいきません。今のマカオGPのスタイルが将来のマカオGPのスタイルだと思ってください。それが我々の伝統であり未来です。」


 語り手:マカオGPコミッティ広報部

 以上の話しを聞き終えて、感じた事は”非常に良く考えられている”と言う事。単にイベントを開催する、のではなく、自分達が持っているリソースを最大限に活用すると言う点に関しては”追及する”と言うレベルで取り組んでいる事が伺えた。

 翻って日本はマカオよりも上の最上級クラスであるF1グランプリを開催している。そして観客動員数も述べ数で30万人を動員している。しかしそれを鈴鹿サーキット(現:モビリティランド)と言う一企業だけが孤軍奮闘しているように感じてしまうのは筆者だけか?

 “官民一体”が言われて久しいが、本当の意味で官民一体にならない限り、この様な素晴らしいイベントと町全体の盛り上がりは無いだろうと思う。カジノ構想も結構だが、もう少し掘り下げて考えていかないと問題点だけが噴出する様に思えてならない。稚拙なリポートで恐縮だが、考えるキッカケになれば幸いである。

※1 GT/マカオGTは東南アジアで開催されている”GT3 Asia”と中国で開催されている”アジアンGT”の双方から参加者を招待しています。

※2 ロードスポーツ選手権は日本で言うとスーパー耐久に近いカテゴリーで市販改造車によりレース。参加車輌の殆どが日本車で近年、マカオの隣の中国珠海国際サーキットを中心に大きな盛り上がりを見せているシリーズ。



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