2012年2月9日木曜日

■中国消費者の願いは「日本メーカーの牛乳を飲みたい」


中国消費者の願いは「日本メーカーの牛乳を飲みたい」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34457
2012.02.07(火)

「中国の牛乳? とんでもない!」と、ついアレルギー反応を示してしまうのは筆者だけではないだろう。

 中国産牛乳のメラミン混入事件は2008年に遡るが、筆者に限らず中国都市部の消費者はいまだに牛乳の安全性について疑心暗鬼である。

 そんな消費者心理を裏付けるのが、売り場の変化だ。

 中国の牛乳3大ブランドと言えば、「蒙牛」「光明」「伊利」。中でも「蒙牛ブランド」は人気商品で、事件以前は消費者が箱単位でまとめ買いするのが当たり前だった。だが、そんな大量買いの光景はすっかり影を潜めた。

 富裕層の中には中国産を敬遠し、わざわざネットショッピングでドイツから牛乳を取り寄せる者もいる。また、上海で展開するスーパー、仏カルフールの売り場には数十社の豆乳メーカーの商品がズラリと並ぶ。消費者が牛乳の代わりに豆乳を求めるようになってきたのだ。

 一方で、今まで見たこともない販売方法も台頭してきた。豪華な化粧箱に詰められた「贈答用牛乳」だ。上海や北京では、消費者の「安心・安全」へのニーズの高まりを受け、品質を保証した超高級牛乳が出回るようになった。

「自社牧場の原乳のみ使用」に飛びつく消費者
 この「高級牛乳市場」で、存在感を高めているのが日系乳業メーカーだ。

 中国の高級牛乳市場の火付け役となったのは、実はアサヒビールである。スーパーの冷蔵ケースに、「唯品純牛乳」ブランドのチルド牛乳(製造から販売まで低温で管理した牛乳)が並んでいる。価格は、1リットル入りが約25元(約300円)。これは一般商品のおよそ3倍に相当し、日本のナショナルブランドよりもさらに高い値段だ。しかし、これが売れている。

 富裕層を中心とした消費者が唯品純牛乳を手に取る決め手は、パッケージに刻まれた「自社牧場の原乳のみ使用」の文言にある。

 振り返ればメラミン事件は、原乳を提供する酪農家が一定の品質を維持できなかったことで発生した。酪農家は基準値を満たそうとするあまり、原乳にメラミンを混入させることで故意に蛋白質含有量を引き上げたのだった。

 中国では原乳が不足しており、乳業メーカーは原乳の確保に躍起になっている。その中で原乳を自前で確保したアサヒビールの牛乳が高く評価されている。

二極化していく牛乳市場

 「唯品純牛乳」の産地は山東省。アサヒビールが伊藤忠商事と共同で設立した朝日緑源乳業(山東省)という乳業メーカーが生産している。

 酪農の経験を持たないアサヒビールが山東省で牛乳生産に踏み切ったのは、山東省政府の要請でもあった。化学肥料のやり過ぎで痩せてしまった土地の回復は、山東省にとって焦眉の急の課題だった。そこで、青島ビールや煙台ビールとの業務提携を通じて縁のあったアサヒビールに白羽の矢が立ったのだ。

 2006年、アサヒビールは同地で循環型農法をスタートさせた。農場で余った野菜を飼料として牛に与え、牛糞を堆肥にして土を甦らせるというもの。このサイクルは、生乳という副産物をもたらした。

 当初、それを他の乳業メーカーに提供していたが、2008年からこれをパック詰めにして自分たちで販売。売れ行きは好調で、大きな手応えを得た。

 現在、日量4~5トン、1リットルパックにして1日4000~5000本を上海、青島、北京を中心とした拠点に向けて出荷している。

 この成功に、他の乳業メーカーが追随する。「蒙牛や光明などは、アサヒビールの牛乳の後を追って高級路線を走ろうとしている。今後の牛乳市場は、契約農家から調達した通常の牛乳と、自社牧場で厳しく品質管理して生産した高級品との二極化が進むだろう」(日本総合研究所の三輪泰史・創発戦略センター主任研究員)

 日本の乳業大手も、中国の高級牛乳市場に参入する動きだ。明治乳業は2013年に現地生産を開始する予定だ。通常の販売価格よりも高い13~22元という価格を想定し、二極化していく市場の「真ん中」を狙う。

技術指導を行う大分の乳業メーカー

 また、上海の市場では、2011年末から新たな日本ブランドの牛乳が出現するようになった。パッケージには「みどり九州 純珍」とある。武漢市の加工工場で生産されたチルド牛乳であり、武漢から空輸で上海に送られてくる。

 大分県大分市の乳業メーカー、九州乳業は、武漢開隆ハイテク農業発展有限公司と合弁工場(武漢九州乳業有限公司)を設立した。大分市と武漢市は32年も姉妹都市関係が続いている。その武漢市の農業会社から、「日本メーカーの協力を得て、質の高い牛乳を提供できる乳業メーカーを目指したい」という相談があり、大分市が案件をまとめた。2010年11月、武漢市でみどり牛乳は初出荷にこぎ着けた。

 九州乳業は、設備の使い方から乳製品のレシピ指導など、技術者を現地に送り出して技術指導を行っている。今のところ「持ち出し」で行っているが、今後3年で黒字化する可能性も見えてきた。
 「日本メーカーが製造に関わっているという点が、中国では相当のブランド力につながっている」(大分市役所産業振興課)という。

日本流の品質管理にラブコール

 メラミン混入事件を契機に中国産の牛乳は一気に信頼を失い、その一方で日本ブランドの牛乳が「高級品の中の高級品」として売られるようになった。中国の乳業メーカーは「どうしたら高品質な商品を作れるか」に頭を悩ませ、その結果たどり着いたのが「日本の技術と品質管理が不可欠だ」という認識だった。

 アサヒビールの牛乳が中国市場で「高級品」としての認知を得て、消費者に受け入れられているのは、「揺るぎない安心・安全を維持するブランド」だからだ。

 前出の三輪泰史主任研究員は、こうコメントする。

 「蒙牛乳業の発がん性物質の問題(注)のように、中国の乳業メーカーは大手といえども安全性は不十分だ。品質向上を目指す中国の大手乳業メーカーの一部は、日本の乳業メーカーに監修してもらったり、コラボレーションしてもらう形で信頼感を高めようとしている」

(注)2011年末、大手乳業メーカーである蒙牛乳業の牛乳から、基準値の2.4倍の発がん性を持つカビ毒「アフラトキシンM1」が検出された。


震災で見直された日本流マネジメント

 ところで、以上のように「日本流のマネジメント」がクローズアップされる背景と「ポスト3.11」は、実は無関係ではない。

 筆者はここ半年、名刺交換とともに相手の中国人から決まってこういう台詞を耳にするようになった。「日本人はたいしたもんだ」――。

 あれだけの災害に見舞われながらも維持される社会の秩序。寸分も狂わない日本の品質管理。それを目の当たりにした中国人が、今まで以上に「日本流マネジメント」を評価するようになったのである。

 筆者は震災直後の当コラムの原稿「被災地で日本と中国を結んだ2人の佐藤さん」で、震災が「中国人の日本人観を大きく変えたことの意義は、決して小さくない」と指摘した。

 日本流マネジメントを見直し、高く評価するようになった中国の反応を見ていて、まさに震災が日本の中国ビジネスへの追い風になろうとしているのだと確信している。

【訂正】記事初出時に「旭日緑源乳業」とあったのは正しくは「朝日緑源乳業」、「青島ビールへの出資を通じて」とあったのは正しくは「青島ビールや煙台ビールとの業務提携を通じて」でしたので、本文を修正しました。



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