2012年4月5日木曜日

■外国人観光客もやっぱり夜の街が好き



外国人観光客もやっぱり夜の街が好き
【第99回】 2012年4月5日
莫 邦富 [作家・ジャーナリスト]

 2月末の札幌。講演のために訪れた。昼間は自分の時間がまったくなかったので、夜、すべてのスケジュールを消化した後、ホテルを出て、雪の夜道を滑りながら、足任せに町をうろうろしていた。地方に行くと、できるだけその地方に対する皮膚感覚を保つために、どんなに遅くても私はその町を散策する。

すすきのの夜を楽しむ外国人観光客

 2月末とはいえ、北海道はまだ冬そのものだ。到着した夜には、駅前に対するチェックを済ませた。それで、2日目の夜には、迷わずにすすきのを目指した。すでに午後9時を過ぎていた。しかし、町を歩く人の姿が多かった。欧米系と思われる数人が街灯の下で観光地図を懸命に研究していた。

 彼らの横を通り過ぎると、今度は台湾特有のイントネーションで中国語を喋る女性の一団と遭遇。台湾からの観光客らしい。信号を待ちながら、曲がったほうがいいのか、そのまま直行したほうが正しいのかと、にぎやかに議論していた。横のほうからまたもうひとつにぎやかなグループが近づいていた。今度は韓国人の観光客と思わせる一行だ。男もいるが、女性が大半だ。

 そこで信号が緑になり、みんなは、方向が正しいかどうかといったことをそれ以上考えず、なんとなく前の人に従って一緒に移動することになった。そこから湧いてきた自信らしいものが、みんなの表情に出ている。「みんな、同じにぎやかなところを探しているのだろう」。そういう言葉がみんなの顔に書いてあるような気がする。

 そのとき、観光客にはやはり夜の商店街が必要だということを改めて認識した。日本の地方に行くと、夜はとりわけさびしい。お酒が飲めない私には、行く場所がない。営業している喫茶店はない。ファーストフードの店やコンビニエンスストアすらなかなか見つからないところもある。こうした地方でも海外からの観光客を懸命に誘致している。しかし、昼間の日程を消化した観光客たちからは、日本の夜が長くて退屈だという不満を聞かされている。

中国・安徽省の夜の経験

 昨年の秋、山梨県観光部の関係者たちを中国の安徽省に案内した。その訪問の目的などについてはこのコラムで取り上げたことがある(「上海詣でからターゲットを地方へ 世界遺産黄山をもつ安徽省に売り込みに行った山梨県の成果と動揺」。実は、安徽省訪問中に、山梨県の関係者たちが黄山の麓の町・屯渓でかなり刺激を受けた体験があった。

 当日の夜、歓談も進んだため、食事が終わったときはすでに午後9時を回っていた。食事のレストランは「屯渓老街」という商店街にある。全長1キロ前後のこの商店街は、数百年の歴史があり、宋、明、清の時代の建物が今でも残っている。食事を終えた一行は、この商店街を見学しながら、駐車場へと向かった。

 石畳の道沿いに軒を連ねている徽式(徽州スタイルの建築、大きく解釈すれば安徽省地方風)と呼ばれる民家建築様式の建物の1階は茶楼、お土産店、酒屋、墨店、彫刻品専門店などとなり、その古めかしいたたずまいが多くの観光客を吸い寄せている。煌々と光を放つ照明の下で、いろいろな店が商売している。

 それを見た山梨県一行が驚きの嘆声を上げた。みんな口々に「わが県にもこのような夜店の町を作るべきだ」と言い出した。中には、早速、場所選定を始めた人もいる。観光客を誘致するためには、夜店が必要だと痛感した瞬間だった。

 実際、みんなの行動を横から観察してみた。普段は背広にネクタイの日課を送る人たちだが、このときは若い頃に戻ったかのように、生姜飴を作っている店に立ち寄り、試食を楽しんだり、お土産をあれこれ買い込んだりしていた。子どもを喜ばせるおもちゃの店を目にすると、吸い寄せられたかのように店頭を囲んで、おもちゃを操る店員のプレーに見惚れ、財布の紐を緩めた。

 1キロあるかないかの歩行者天国を30分間以上もかかって、ようやく商店街の隅っこにある駐車場にたどり着いた。みんなの手元にはショッピング袋がぶら下がっている。車中で「こうした旅先の買い物が楽しい」と、みんなが感想を述べ合っていた。話題はやはり山梨にも夜店を開くべきだかどうかというところに集中した。「通年は無理でも、シーズン中に開店するという期間限定の夜店の街であってもいい」といった意見も出た。

表から見えない地元の地道な努力

 少子高齢化の日本では夜店を作るという構想を実現するには、ハードルがあまりにも高いかもしれない。しかし、低迷する今の局面を打破するためには、思い切った発想と行動力が求められる。

 中国人観光客を誘致したい。もっと来てもらいたい。しかし、中国人観光客が、中国の観光地でどのような観光環境に囲まれているかを知っている日本の地方観光当局関係者や旅行業者は、そうはいない。その意味では、中国の主要観光地を掘り下げて視察してほしい。屯渓老街のような夜店的な施設を含め、よく研究してみたらいかがだろうか?

 昨年、延べ3040万人(うち海外からの旅行者が130万人)が訪れ、観光収入が250億元(3250億円)だった黄山の人気ぶりには、表から見えない地元の地道な努力があったはずだ。屯渓老街はそのヒントのひとつに過ぎない。




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