2012年4月28日土曜日

■海外脱出する日本人と戻って来ない外国人  GWの列島を暗雲に包む「旅行市場空洞化」の異変


海外脱出する日本人と戻って来ない外国人
GWの列島を暗雲に包む「旅行市場空洞化」の異変
http://diamond.jp/articles/-/17527
【第366回】 2012年4月20日  岡 徳之

 ゴールデンウィーク直前となり、旅行業界にとっては“ホット”な季節がやってきた。しかし、今年の旅行市場を見ると、かつてない「異変」が起きているようだ。前年と比べて海外旅行へ出かける日本人がさらに増える一方、国内旅行へ出かける日本人や、日本を訪れる外国人が減り続けることが予想されている。各種機関のデータを見ると、そのトレンドは想像以上に鮮明化していることがわかる。昨年発生した東日本大震災の影響が、1年を経た今年のGWにも暗い影を落とし続けていることを、思い知らされる。国内で進む「旅行市場の空洞化」を食い止めることはできるのか。(取材・文/岡 徳之、協力/プレスラボ)


旅行業界にとって最もホットな季節に異変?
盛り上がる海外旅行と萎み続ける国内旅行

 「ゴールデンウィークには、ベルギーへ行く予定です。新婚旅行で行ってから15年の節目に、もう一度妻と2人で思い出の地を訪れたいと思って。この不況だから、貯金はあまりないですよ。でも、節約ばかりしていると自分自身の視野が狭くなり、小さい人間になってしまうような気がして。たまには豪華な旅行に行ってみたいじゃないですか」

 こう語るのは、インフラ機器を扱う商社に勤務している45歳の男性だ。

 ゴールデンウィーク直前となり、旅行業界にとっては“ホット”な時期がやってきた。しかし、今年の旅行市場を見ると、かつてない「異変」が起きているようだ。

 第一の「異変」は、海外へ出かける日本人の数が、例年と比べてさらに増えると見られていること。旅行業界国内最大手のJTBが行なった『ゴールデンウィークの旅行動向』で推計数値を見ると、今年4月25日~5月5日までの間に1泊以上の旅行に出かける人の総数は、前年比4.2%増の2120万8000人に上る。

 そのうち、毎年のように増え続けている海外への旅行者数については、今年は1969年の調査開始以降、過去最高を記録した2000年に次ぐ、56万3000人に上る見通しだ。冒頭の男性のように、ゴールデンウィークに海外旅行の予定を入れた人も少なくないのではないだろうか。

 今年人気がある海外旅行の渡航先は、イタリアを筆頭に欧州方面。調査によると、前年と比較して旅行者数は5.2%増だそうだ。また、北米が4.7%増、アジアが4.9%増と軒並み増加する見込み。5月1、2日に休暇を取れば9連休になる日の並び、円高により海外で安くモノが買えること、そして何より不況による「節約」に疲れて羽根を伸ばしたい人が増えていることなどが、その理由だ。韓国や台湾など「安・近・短」の定番スポットだけでなく、欧州などの遠方にも人気が集まっている。


アウトバウンドとインバウンドが逆転
春なのに……国内は「空洞化」の危機

 第二の「異変」は、これとは対照的に、国内旅行の不調が鮮明化していること。ここ数年、ゴールデンウィーク中の国内旅行は好調とは言えないが、今年も国内は閑散としそうだ。同じくJTBの調査によると、国内旅行者数は2000年以降、2100万~2200万人と横ばいを続けている。サブプライムショックやリーマンショックを経た2009年には2000万人台を割り込み、足もとでも回復の兆しを見せていない。

 その大きな原因として、昨年3月11の東日本大震災以降に広まった「自粛」「巣ごもり消費」「選別消費」などの影響が、現在も尾を引いていることが挙げられる。

 今年の国内旅行人数は2064万人と、前年に比べて4.2%増える見込みだが、これは前年の落ち込みがあまりにも激しく、見かけ上パーセンテージが増えただけ。2010年の2169万人と比べれば、いまだ震災前の水準には及ばない。震災後も増え続けた海外旅行と比べて、国内旅行の「劣勢」は明白である。

 また、楽天トラベルの調査によると、日本人による国内旅行のトレンドは、「1泊2日」が38%、「2泊3日」が33%となっており、おおむね3日間以内の短期旅行を計画している人がほとんどのようだ。予算についても「3万円未満」と回答した人が半数以上となり、節約志向が根強いことがうかがえる。

 ある中堅出版社に勤める33歳の女性が、本音を語る。

 「本来は、国内旅行も好きですよ。でも、最近はあまり気分が乗らなくて……。昨年末に部内旅行で太平洋沿岸の温泉地へ行ったのですが、勝手がわからない土地ということもあり、『突然、地震や津波がやって来たらどうしよう』とずっと不安でした。温泉に浸っていても芯からリラックスできないし、長く滞在する気は起きない。それよりも、いっそ海外に長く滞在して、パーッとお金を使いたいですね」

 つまり現在の旅行事情は、日本人が海外へ行く「アウトバウンド」が加速する一方で、国内を敬遠する風潮が広まり「インバウンド」が縮小するという、「空洞化現象」が鮮明化していると言える。1年のうちで最も消費が盛り上げる時期の1つだけに、ゴールデンウィークにおける「旅行市場の空洞化」は、日本経済にとって由々しき問題だ。


頼みの外国人旅行者が戻って来ない!
それこそが日本にとって最大の不安

 それでも日本人であれば、国内旅行に行かなくても、日常生活で普通に消費はするから、まだマシだろう。問題は、長らく低迷する国内消費を支え続けてきた外国人旅行者が、日本へ戻って来ないことだ。これが「空洞化」不安に拍車をかけている。

 背景には、放射能不安などで「ジャパンリスク」が広く認知されてしまったこと、実質実効為替レートの影響を割り引いて考えても、震災後の円高により日本への旅行費用が以前より高くつくようになったことなどの要因がある。

 その深刻さは、具体的な調査結果を見てもよくわかる。日本政府観光局のデータによると、2010年における訪日外国人旅行者数は861万人だった。ところが、大震災を経た2011年の外国人観光客数は、これまで過去最高であった前年の2010年から27.8%も減少し、621万9000人に落ち込んでしまった。前年からの減少率としては、これまで最大であった1971年を上回り、過去最大の下げ幅となった。

 観光庁が取りまとめた主要旅行会社58社における2012年2月の旅行取扱状況を見ても、日本を訪れる外国人旅行の取扱額は、前年比で10.4%も減少している。

 実際、訪日外国人旅行者数の落ち込みはすさまじい。昨年の訪日人数を国別に見ると、韓国は32.0%の減少を記録。香港でも、震災直後となる昨年4月に、月別の減少率としては過去最大の87.6%を記録した。減少幅は徐々に縮小しているものの、昨年12月も単月で11.7%と減少に歯止めがかからない。

 こうなると、心配なのは国内消費への影響である。

 訪日外国人旅行者の消費額を見ると、2011年は8135億円となっており、前年と比べて29.2%も減っている。内訳は、中国が164億円(前年比21.4%減)、韓国が1254億円(同36.5%減)、台湾が1059億円(同19.7%減)、米国が813億円(同29.8%減)、香港が430億円(同27.4%減)と、日本にとっての「お得意様」が落としてくれるおカネが、急激に減っていることがわかる。


 昨年は外国人旅行者の減少が、国内のホテルや旅館の経営にも打撃を与えた。帝国データバンクの調査によると、2011年1月~11月のホテル・旅館の倒産は119 件、負債総額は959億2500万円に上っている。そのうち、震災関連倒産の負債額が256億9900万円というから、何とも悲惨な状況だ。とりわけ、アジアからの観光・ビジネス客の玄関口となっている「九州」「中部」で倒産の増加が目立った。


「クールジャパン」はすでに頓挫
日本はいつ信頼を回復できるのか?

 日本における旅行市場の「空洞化」は、今後どうなるのか? 前述のような状況は、「大震災から日が経つにつれて着実に緩和されていくもの」と考えるのは早計のようだ。「今後も速やかな回復は期待できない」と指摘する専門家もいる。

 「震災以降、徐々に回復基調にあるとは言え、外国人旅行者に日本の安全性について信頼を回復させるには、まだ時間を要します。2012年いっぱいは震災の影響が続くのではないでしょうか。震災以前、政府は経済産業省を旗振り役にして『クールジャパン』を掲げ、日本の文化や食などの特色を打ち出していきました。しかし震災直後は、海外へ発信された被害に関する情報がうまく伝わらなかったこと、その後どのように日本の安全に対する信頼を回復していくかという方針が決まらなかったことが原因で、震災を境に『クールジャパン』熱は一気に冷めてしまったんです」(『旬刊旅行新聞』の増田剛編集長)

 こうしたなか日本政府には、国内や世界に対して、日本の安全をアピールするためのリーダーシップを一刻も早く発揮することが望まれる。足もとでは新たな対策も講じられている。

 たとえば、先ごろ閣議決定された「観光立国推進基本計画」だ。これは2012年から5ヵ年を対象にし、「観光の裾野の拡大」と「観光の質の向上」を基本計画策定の方向性に掲げ、東日本大震災からの復興へ貢献するものとして計画を実行していく。

 国際観光分野では、訪日外国人旅行者数を2016年までに1800万人、2020年初めには2500万人にすることを念頭に置く。2016年については、東日本大震災や原発事故の影響を考慮し、従来の2000万人から下方修正した。

 一方、訪日外国人旅行者の満足度については、訪日外国人消費動向調査で「たいへん満足」の割合を45%、「必ず再訪したい」の割合を60%に上昇させる、国際会議の開催件数を5割増にしてアジアでの最大の開催国を目指す、日本人の海外旅行者数を2000万人に拡大させる、という目標も掲げた。

 ちなみに国内観光分野では、日本人の国内観光旅行による1人当たりの宿泊数を年間2.5泊とし、観光地域の旅行者の総合満足度について「たいへん満足」、再来訪意向について「たいへんそう思う」を、いずれも25%程度にするという。

 観光庁が主導的役割を担う施策には、地域のブランド化や広域連携などによる魅力ある観光地域づくり、オールジャパンによる訪日プロモーション、MICE分野の国際競争力強化(MICEとはMeeting(会議など)、Incentive(視察など)、Convention(学会など)、(E)Exhibition(展示会など)の頭文字を取った造語)、休暇改革の推進が挙げられる。

 また、年度ごとに各施策の点検・評価を行なうほか、観光庁が関係省庁に対して結果を翌年の施策に反映させるよう働きかけることも含まれる。政府が展開する今後の具体策に期待したいところだ。


全国では不調でも局地的には好調
足もとで見え始めた「明るい兆し」

 日本は「旅の空洞化」を食い止めることができるのか。足もとでは明るい兆しも見え始めている。国内旅行全体は不調でも、局地的に人気が沸騰している観光名所もあるのだ。

 楽天トラベルが実施した、ゴールデンウィーク期間中の国内旅行に関する調査によると、東京ディズニーリゾートなどのテーマパークの人気が回復しているほか、東京スカイツリーや東京ゲートブリッジなどの「新名所効果」もあり、首都圏への旅行が前年より69.6%増えると予想されている。

 また東北地方では、観光復興を目的としたイベントが開催を前に盛り上がりを見せている。東北地域への旅行需要を喚起するため、官民が連携して取り組む「東北観光博」は多くの集客を見込んでおり、4月23日~5月5日頃が見ごろとなる「弘前桜まつり」プランにも、カップルの人気が集まっているという。

 ゴールデンウィーク直前、まだ予定を立てていないという読者は「ゴールデンウィーク直前割引プラン」を検討してみてはいかがだろうか。「日本の旅行業界を盛り上げよう」というほど大げさに肩肘を張る必要はないかもしれないが、日本の元気と見え始めた明るい兆しを少しでも盛り上げていくことは、気持ちのよいことではないか。



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