2012年5月21日月曜日

■【底流】国内LCC、値引き合戦勃発 価格競争際限なし


【底流】国内LCC、値引き合戦勃発 価格競争際限なし
http://www.sankeibiz.jp/business/news/120520/bsd1205200700001-n1.htm
2012.5.20 07:00

 今春から国内路線が相次ぎ就航している日系格安航空会社(LCC)の間で、早くも「空の価格破壊」が始まった。すでに福岡、新千歳(札幌)、那覇などの「ドル箱路線」では運賃の値引き合戦が勃発、LCC同士の消耗戦の様相を呈してきた。安値を武器に新幹線や高速バスの顧客を奪うという思惑とは裏腹に、際限のない価格競争の幕が開いた。

 最低価格「1円」

 日本航空系のジェットスター・ジャパンが4月17日に開いた国内線運賃の発表会は、この手の発表会とは一風変わった雰囲気が漂っていた。何しろ発表場所は流行発信の街、東京・秋葉原。「絶対に何か仕掛けてくる」。業界関係者の多くはそう感じ、メディアに混ざり、ライバルの全日本空輸関係者もお忍びで姿を見せた。

 業界関係者の予感は的中する。カンパニーカラーのオレンジ色の看板に示された運賃は国内最安値の「1円」。発表後、すぐにインターネットのウェブサイトを通じて、1万席分の片道航空券が発売された。驚く出席者を前に、鈴木みゆき社長は「低運賃の提供により、観光業に新たな事業機会を創出し、就航都市に経済効果をもたらしたい」と、してやったりの表情を浮かべた。

 同時に発表された最低運賃(片道)は、7月3日就航の成田-新千歳線が4590円、成田-福岡線は5590円。関西空港-福岡線の3590円は、3月1日に関西空港を拠点に就航した全日空系のピーチ・アビエーションの運賃を190円下回った。

 後出しじゃんけん

 同区間の運賃は、ピーチの井上慎一最高経営責任者(CEO)が「高速バスより安い料金にしたい」との判断で、高速バスの安値(約4千円)に見劣りしない価格に設定した。後出しじゃんけんに負けた格好のピーチは7月以降の関西-福岡線の最低運賃をジェットスターと同額まで引き下げざるを得なかった。

 大手旅行会社の幹部は「『ジェットスターがLCCで最も安い』というイメージが消費者に刷り込まれた」とみており、ジェットスターは一気にLCCの主役に躍り出た。

 両社で繰り広げられた価格競争について、鈴木社長は「低運賃を提供することで、お互いが市場を拡張できると考えている」と述べ、旅行者にとって選択肢が広がるとみる。

 実際、3月1日のピーチ就航から1カ月間の平均利用率は83%、大型連休の4月27日~5月6日の利用率も90・8%だった。利用者からは「乗り心地は思ったより良く、従来の飛行機と遜色ない」(大阪府の男性会社員)などと好評だ。高速バスや新幹線を利用する「飛行機未体験者」がピーチを利用したとみられ、今のところLCCは巡航飛行を続けている。

 露呈した弱点

 一方で、LCCの先行きを暗示するかのようなトラブルも発生している。ピーチが第1便を飛ばした3月1日、自動チェックイン機のシステム障害が相次ぎ、最大1時間ダイヤが遅延。同28日には長崎空港で発生した機体トラブルで、関空から長崎、福岡の2路線で計9便が欠航した。

 LCCは、少ない機材を短距離路線で効率よく運航し、往復回数、利用率を高めて収益を確保する。だが、いったんトラブルが発生すると代替機が工面できず、後続便に遅れや欠航が出るという弱点が露呈してしまう。海外のLCC事情に詳しい東洋大の島川崇准教授は「日本の利用者は乗り継ぎの利便性など高いサービスを望んでおり、LCCが受け入れられるかどうかは未知数だ」という。

 さらに、LCCの生命線といえるコスト削減を阻む要因もある。新たに雇用したパイロット、整備士は、経営破綻した日航など大手からの転職組が多く、人件費もそれなりに高い。客室乗務員をすべて契約社員とし、「転職を容認する」(ピーチ)など人件費抑制に努めているが、業界関係者の間には「安全運航にしわ寄せがくるのでは」と懸念する声もある。

 国際線に目を転じれば、航空会社が路線や便数が自由に決められる「オープンスカイ」が25年度からスタートし、成田空港を中心に参入する海外LCCとの競争が待っている。だが、今のところ、国内LCCには安さ以外の武器はなく、このままでは際限のない価格競争に巻き込まれることは必至だ。

 8月から成田を拠点に就航する全日空系のエアアジア・ジャパンの岩片和行CEOは「安いだけではすぐにあきられる」と肝に銘じている。LCCが日本の空で大きく飛躍するためには、いかに付加価値を付けるかにかかっているが、各社ともその答えをまだ持っていない。



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