2012年6月2日土曜日

■高知・梼原町 雲の上でエネルギー維新 観光客を「志士」が案内


高知・梼原町 雲の上でエネルギー維新 観光客を「志士」が案内
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO41961950Z20C12A5EL1P01/
2012/5/30付 [日本経済新聞夕刊2012年5月30日付]

 ペリーが来航し、開国か攘夷(じょうい)かを巡って日本が大きく揺れた江戸末期。維新を夢見る坂本竜馬は同志とともに1862年3月、高知の土佐藩を脱藩、四国山脈を越えて伊予の国(愛媛県)にたどり着いた。梼原(ゆすはら)町は竜馬が通った維新「脱藩の道」として知られてきたが今、この小さな町がエネルギーの自給自足など21世紀の“エネルギー維新”を掲げ、様々な自然エネルギーを活用する試みに挑んでいる。

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「雲の上」で回っているようにも見える風力発電施設

 梼原町は四国カルストに抱かれた「雲の上の町」だ。人口は約3800人。町の91%を森林が占め、清流四万十川の源流域でもある自然豊かなところだ。

 町の特徴を知るには、市民団体「坂本龍馬脱藩の郷 ゆすはらであいの会」にガイドを依頼するのが便利だ。現れたのは、編み笠に帯刀、袴(はかま)を身につけた幕末の志士姿の内田昭彦さん(69)と中越一平さん(65)。2人に「町中環境コース」を案内してもらった。

 最初に訪れたのは「維新の門」。ここでは主に風力発電施設の説明を受けた。高さ50メートルの支柱に3枚の大きなブレードがついた風車が標高1300メートルの高原に2基立つ。年間平均風速7.2メートルの風を受け、1基で1時間に最大600キロワットの電気が作れる。「2050年までに風車を40基に増やす計画」(内田さん)という。

 発電した電気は現在は四国電力に売電。年間の売電益約3200万円は、町内の住宅の屋根に設置する太陽光発電システムの補助などに使われているそうだ。

 太陽光発電システムは役場などの公共施設のほか一般家庭にも取り付けられており、「普及率は16軒に1軒、約6.3%にのぼる」(同)という。確かに町を歩くと屋根にパネルを設置した家が目立つ。現在は111戸に導入されているが、2050年には500戸にまで増やす予定という。

 続いて梼原川沿いの道を行くと対岸に小水力発電施設が見えてきた。4年前に稼働したシステムで落差6メートル、毎秒1.2立方メートルの水力を利用して発電。出力は53キロワット。ここで作った電気は、昼間は町内の中学校で使用、夜間は町内に82基ある街路灯をともすのにも使われている。

 内田さんによると、地中熱エネルギーの活用も同町の特徴。深さ100メートルの地中にパイルを27本打ち込み、熱伝導システムで地中の熱を吸い上げ、水温30度の「雲の上のプール」を公設民営方式で運営している。

 このほか豊富な森林資源を生かし、第3セクターの「ゆすはらペレット」では、間伐材を細かく砕いて固め「木質ペレット」という固形燃料に加工。公共施設で冷暖房システムや園芸ハウス用の温風機などに活用している。太陽光発電やペレットストーブなどを備えトータルで二酸化炭素(CO2)を出さないモデル住宅が2棟あり、観光客らが宿泊することも可能だ。


 町内には梼原維新の道社中(歴史民俗資料館)、維新の「六志士の墓」や高知県唯一の木造芝居小屋「ゆすはら座」などの見どころもある。同町によると、2010年度はNHKの大河ドラマ「龍馬伝」効果で観光客が前年度の1.5倍の41万人訪れた。

 翌年はやや減ったが、「東日本大震災に伴う原発・エネルギー問題への関心の高まりなどから、最近は行政団体などの視察、観光客の訪問が目立つ」(環境整備課環境モデル都市推進室)。「環境」が新たな観光資源になっている形だ。

 数々の取り組みによって、同町は現在28.5%の電力自給率を2050年に100%にまで高めたい考えだ。「小さな町の大きな挑戦」は、38年後にどんな形で実現しているのか。再訪してみたい思いに駆られる。



<旅支度>事前予約で見学コース

 梼原町へはJR高知駅から路線バスで2時間半余り。町内のガイド依頼は「坂本龍馬脱藩の郷 ゆすはらであいの会」(電話0889・65・1187)。1週間前までに申し込む。約3キロ、1時間半のコースで料金は3000円。風力発電施設見学はコースに含まない。
 梼原維新の道社中(歴史民俗資料館電話同)は入館料一般300円、小中学生150円。
 ゆすはらペレット見学は梼原町森林組合(電話0889・65・0121)。事前に予約が必要。視察料1人1000円。



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