2012年7月16日月曜日

■再び「南海ホークス」の悲哀 電話一本、切り捨てられる小劇団


再び「南海ホークス」の悲哀 電話一本、切り捨てられる小劇団
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/120715/waf12071507010003-n1.htm
2012.7.15 07:00 [文楽]


10万円の助成も「凍結」

 「来年度は凍結です」

 現代演劇やダンスなどの公演に対して大阪市が支援する助成制度がある。助成対象を審査する委員に急遽(きゅうきょ)、審査会の中止の連絡が入ったのは2月初旬、開催の1週間前。

 審査委員で演劇評論家の小堀純さん(58)は「ギリギリになってからの電話一本での連絡。あまりにも突然過ぎる」。助成は個人と団体を対象に、経費の2分の1を上限に最大20万円を支援。すでに69件の応募があったが、「文化行政のあり方を府市で議論することになったため」(市担当者)と中止された。

助成あっても赤字なのに…

 芝居にはどのくらいの経費がかかるのだろうか。

 大阪・ミナミの小劇場「ウイングフィールド」で3日間4公演行った場合、劇場使用料約20万円に加え、照明や音響機材費、PRチラシなど安く見積もってもトータルで140万円はかかる。1公演あたり満席(80人)で、チケット代が2500円とすると、収入は80万円。赤字は60万円だ。同劇場代表の福本年雄さん(58)は「橋下徹市長の改革がこんな小さな劇団にまで及ぶとは思わなかった。少額の助成でも、若い劇団には世に出るチャンスの一助だった」と話す。

 1980年代半ばから大阪でも小劇場演劇ブームが花開いた。南河内万歳一座、劇団☆新感線(しんかんせん)…。東京の演劇とはひと味もふた味も違う個性を武器に、全国から演劇ファンを集めた。そこから羽野晶紀(はのあき)さんらスターが誕生、若者文化のムーブメントが起こった。

 しかし、昨年3月には市内で唯一の公立劇場「精華小劇場」が閉鎖、そして今回の助成金の凍結で人材が流出、ドーナツのように大阪から文化が抜け落ちることを危惧する声が上がる。

日本最古の公立吹奏楽団も自立迫られ

 日本で最も古い歴史を持ち、唯一の公立吹奏楽団「大阪市音楽団(市音)」。前身は明治21年、大阪に設置された陸軍第4師団軍楽隊に遡(さかのぼる)る。大正12年に廃隊したが、存続を望む市民の声が大阪市を動かし、市音楽隊として組織された。所属する楽員36人は「音楽士」といわれる市職員だ。

 市音は、他のオーケストラだと数十万円はかかる演奏会を約6万円という低料金でサービス。「春の選抜高校野球入場行進曲」の演奏など地味ながら大切な仕事を担ってきた。

 ところが今年1月、橋下市長は、現在の市直営方式を平成25年度で廃止し、自主運営に切り替える方針を示した。22年度、人件費と事業費で年間約4億3千万円を市が市音に支出しているのに対し、歳入は4800万円。大幅な赤字が廃止の理由だった。

 辻浩二団長(59)は「自主運営については覚悟している。ただ、その自立化を助けてほしい。市の音楽団として長年精いっぱい演奏してきたのだから」と無念さをにじませる。

「僕の感覚」だけでは危険

 大阪市が見放し、独立を迫られる大阪市音。小規模ながら突然の助成金凍結に揺れる小劇場演劇界。

 さらに橋下氏の大阪府知事時代から、移転・廃止など方向性が検討されてきた府立上方演芸資料館(ワッハ上方、大阪市中央区)についても25年度の方針決定が迫る。

 現在、ビルオーナーである吉本興業が指定管理を受け持つが、年間入館者が40万人を超えなければ「廃止」される。昨年度は“吉本流”の企画で入館者は16万人を超えたが、それでも40万人には程遠い。

 スピードを増す大阪府・市の文化行政改革。サントリーの元副社長で、大阪観光コンベンション協会会長の津田和明さん(78)は「橋下市長は『僕の感覚』という言葉をよく使うが、僕の感覚だけで文化行政をつかさどるのは危険なことだ」と語る。

 大阪大学大学院の橋爪節也教授(54)は「約20年前、南海ホークス球団が消えたときの寂しさは今でも忘れられない。橋下市長は知事時代に文楽を見たときに『2度目は行かない』と発言したが、一つの演目を見ただけであり、大阪の広告塔であるトップの発言としては疑問を感じる。経済性だけで芸術や文化を評価すると、大阪に何も根付かなくなる。改善すべき点は指摘して、積極的に応援すべきではないか」と話している。



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