2012年8月3日金曜日

■中国人観光客がもたらすのは福か災いかどこもかしこも「団体さん、いらっしゃい」の落とし穴


中国人観光客がもたらすのは福か災いかどこもかしこも「団体さん、いらっしゃい」の落とし穴
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35710
2012.07.24(火)姫田 小夏

 地方のフラワーパークを訪れたときのことである。幹部職員が「うちも中国人観光客向けのインバウンドビジネスに力を入れていきたい」と真剣な顔で語った。

 筆者は正直、「大丈夫だろうか?」と心配になった。そもそも地方の小規模なフラワーパークに、海外の観光客を呼び寄せるほどの魅力があるのだろうか。中国人観光客に「行ってみたい」と思わせる何かがあるのだろうか。

 誘客にはコストもかかる。最近は「時流に取り残されるのではないか」と不安を抱く事業者も散見されるが、どこもかしこも中国人観光客を呼び寄せようとする風潮には、危険な落とし穴がひそんでいないだろうか。


家電量販店を回るだけの団体観光客

 全国の地方自治体では、購買力旺盛な中国人の団体観光客を呼び込もうと様々な施策が展開されている。自治体の観光部署なら、今やどこでも「金持ち中国人観光客」をターゲットにした企画立案に余念がないと言っても過言ではない。

 「しかし・・・」と、ある自治体の職員Aさんは言う。

 「中国人観光客はもちろんウェルカムだ。だが、“団体さんを大量に呼び込む”ことにどんな意味があるのか、もう一度よく考え直した方がいい」

 観光立国を目指す日本政府は、2020年はじめまでに訪日外国人数を2500万人まで増やすという目標を掲げている。その目標の達成にも、中国からの団体旅行客はなくてはならない存在だ。

 だが、中国人観光客を受け入れる現場では、過度な数字至上主義を懸念する声も上がっている。

 例えば福岡県の博多港には、千人単位の中国人観光客がクルーズ船に乗って日帰り旅行にやって来る。だが、3000人を超える大型船ともなると、入国審査を済ませて上陸するだけで何時間もかかってしまう。朝8時に船が到着し、夕方には出発ともなれば、ごく限られた買い物時間しかない。それは地元経済にどれだけの効果をもたらすのだろうか。

 また、福岡県在住の旅行業関係者は次のように語る。「団体観光客の上陸後の行動は、最初から旅行会社のオプショナルツアーで囲い込まれている。港で下船しても、地元で食事をしたり観光するわけではない。結局は家電量販店を回るだけ。地元の個人商店がメリットを享受することは難しい」


「しばらく沖縄に行くのはやめようと思う」

 大挙して押し寄せる中国人観光客にホクホク顔の自治体もある。その代表格が沖縄県だ。

 2011年7月、外務省は「沖縄数次ビザ」の発給を開始した。「最初の訪日で沖縄県内に1泊以上すれば、3年間は何度でも訪日可能」としたものだ。ビザの発行直後、「北京~那覇」便が就航し、「上海~那覇」便も増便。クルーズ船の寄港回数、旅客定員数も増え、中国人観光客が一気に増加した。

 2011年度の中国人観光客は3万3000人。2012年6月には単月だけで4600人が沖縄を訪れた。2010年同月比で1050%の伸びである(数字は沖縄県観光振興課)。

 ただし沖縄では、「大挙して押し寄せる中国人団体観光客」に賛否両論があることも事実だ。

 歓迎しているのは、地元の観光バスやみやげ物店、家電量販店などの業界が中心だ。一方で、ホテルや旅行社などは意外に否定的な見方をしていることが県の資料から浮かび上がる。

 例えばホテルは、中国の旅行社が要求してくる単価の引き下げ要求に辟易している。また、中国人観光客のマナーの悪さが国内の観光客を遠ざけてしまうことも危惧している。どこも諸手を挙げて中国人観光客を歓迎しているわけではない。

 こんなこともあった。埼玉県在住のBさんはこの連休を沖縄で過ごした。沖縄の歴史的文物を愛好するBさんは筆者に電話でこう漏らした。「しばらく沖縄に行くのはやめようと思う」

 Bさんが、世界遺産に指定された首里城に行ったところ、周りは中国からの団体観光客と修学旅行の学生たちであふれ、とにかく騒々しい。落ち着いてじっくり見ることもできず、失望して帰ってきたという。

 こうした状況は沖縄県にとっても痛し痒しだろう。中国人観光客を呼び込んで経済を活性化させることも大事だが、同時に「持続可能な観光産業」のあり方も検討していく必要がある。


「過度な依存」を懸念する声も

 上海との交流が長い横浜市でも、中国人観光客を大量に呼び込むことが本当にプラスなのかどうか、という空気が一部から出始めている。

横浜市では従来、行政と民間が協力体制をつくり、中国人観光客をどう呼び寄せるかについて議論を重ねてきた。ところが、ここに来て一部の高級老舗店舗から「我々の求める客層とは異なる。中国人の団体客は本当に必要なのか」という声が上がるようになったという。

 一口に中国の「富裕層」と言っても、中身は十人十色だ。マナーを理解し、店の雰囲気や周りの客に配慮できる人もいれば、自国の中華料理店にいる感覚で騒いでしまう人もいる。中国人観光客が「成熟した消費者」と認められるまでには、まだまだ時間がかかるだろう。

 中国人観光客を中心としたインバウンドビジネスに詳しい専門家は、次のように指摘する。「中国から団体観光客を受け入れる際は、他の利用者に迷惑がかからないようにする工夫が必要だ。適正規模なら貸し切りにする、あるいは個室で対応するなど、リスク回避のための智恵を絞るべきだ」


 中国人観光客への「過度な依存」も懸念材料である。

 尖閣諸島事件のように日中間にひとたび問題が起きれば、訪日旅行の「大量キャンセル」が発生する。政治的問題の影響を直接被るのが観光業だ。そのリスクを回避する方策が求められている。

 「日本人客の3~4倍もの買い物をしてくれる中国人観光客は確かにありがたい。しかし、彼らの消費は乱高下が激し過ぎる。現在、会社としては、日本人客に対する施策を再構築しているところです」(日本の大手小売業)

 中国人観光客をターゲットにした「インバウンドビジネス」は緒に就いたばかり。空気に流されない、市場を見据えた戦略が必要になるだろう。



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