2012年9月20日木曜日

■【オピニオン】中国の反日デモ―7年前とは違う不安要因


【オピニオン】中国の反日デモ―7年前とは違う不安要因
http://jp.wsj.com/Opinions/Opinion/node_514877/?tid=anti-Japan0912
2012年 9月 19日  17:03 JSTリンダ・ヤーコブソン ウォールストリートジャーナル

 最近、中国各地で起きている反日デモの参加者の映像を見ると、北京市の大通りを数千人の中国人が行進した2005年4月のことを思い出す。筆者は当時、大通りに面した家に住んでおり、その様子をバルコニーから眺めていた。7年前、日本を非難するために数万人の中国人が各地で街に繰り出した。それは1989年の天安門広場のデモ以来、最大規模の市民運動だった。しかし、今回は事情が異なっている。

 2005年の反日運動は概して穏やかなものだった。当時の北京の雰囲気は強硬な抗議活動というよりもカーニバルを連想させた。それでも、今回と同じように、激昂した中国人デモ参加者が日本人を攻撃したり、日系商店を破壊したり、日本車をひっくり返したりといった報道がなされ、どちらかというと無害な抗議活動というイメージは引き裂かれた。

 7年前の反日運動のきっかけとしては、日本の国連安保理常任理事国入りに中国が反対したこと、日本政府が戦時中の残虐行為を控えめに扱った歴史教科書を承認したことがあった。今回の反日デモに火が付いたのは、日本政府が東シナ海にある5つの無人島――尖閣諸島(中国名:釣魚島)――のうち3島の購入を決めたあとのことだった。

 日本政府がその3島の購入を決めたのは、強硬な超国家主義者として知られる石原東京都知事の発案で東京都が独自に購入するのを阻止するためだった。(尖閣諸島は、米国から日本に返還された1972年以来、民間人に所有されてきた。)しかし、中国政府からすると、日中両国が領有権を主張する尖閣諸島に対して日本が主権行使のために断固とした手段をとったということになる。中国政府はすぐにその海域に6隻の海洋巡視船を送った。この感情的な領有権問題には別な側面もある。尖閣諸島の周辺海域は石油や天然ガスの宝庫と考えられているのだ。

 現在のデモの規模は2005年のときほど大きくはないが、今回起きている反日感情の噴出は、当時よりもはるかに重大な影響をもたらすかもしれない。

 第一に、日本の歴史教科書に対する怒りが軍事衝突を引き起こすことなどあり得ない。しかし、現在の緊迫した状況には、海洋事件に発展するリスクが確実に存在する。日中両国のさまざまな法執行機関の指揮下にある艦船が領土を守るという名目で係争水域に派遣された。中国の国営ラジオ局は17日、1000隻の漁船も尖閣に向かっていると報じた。

 中国も先週、尖閣諸島周辺で独自に定めた領海基線を公表するという断固たる手段に出た。中国側からすると、これで尖閣諸島は法的に中国の支配下に置かれ、どの船舶が領海を航行できるかも決められるようになった。中国の底引網漁船と日本の海上保安庁の巡視船が衝突したあとに起きた2年前の外交危機を覚えていれば、こうした一触即発の状況下でまた海洋事件が起きると、軍事力の行使にもつながり得るということを考えざるを得ない。

 第二に、今日の中国政府内の政治的状況は、胡錦濤氏が国家主席になってすでに3年が経過していた7年前よりもかなり緊迫している。中国共産党は新世代への権力移譲の準備を進めているが、さまざまな派閥に分かれている党幹部はこう着状態に陥っており、いくつもの重要な問題、たとえば、失脚した薄煕来前重慶市党書記をどう扱うべきか、最高意思決定機関である中央政治局常務委員会の委員を誰にすべきか、などで合意形成ができていない。

 それぞれが一定の影響力を持つ中国の過去、現在、未来の指導者たちのあいだでまだ意見が一致していないため、党大会の日程すら発表されていない。激しい政治論争が続いており、政治局常務委員の座を狙う幹部たちの多くはさらに強硬な日本への対応を支持する可能性もある。

 日中間で事件が起きれば、胡錦濤氏と次期最高指導者に内定している習近平氏にとってかなりの不利益となる。中国の政治において、国内問題で政敵を批判するのは難しい。しかし、国際問題での誤った対応は非難の対象となり得る。胡錦濤氏も習近平氏も現在の日本とのにらみ合いに対して融和的解決策を提示することができないのはそのためである。そんなことをすれば、弱腰だ、中国の国益を裏切る行為だという批判にさらされることになるだろう。

 第三に、社会的不公正、貧富の格差、腐敗、加速するインフレなどに対する国民の不満は7年前よりも深刻で蔓延している。共産党指導部は2005年の時点でもすでに実存的不安を抱え、より有能で公平な政府を求める市民のデモ行進の結果、権力の座を追われることになるのではと怯えていた。

 現在、中国共産党指導部の脳裏にはソビエト連邦崩壊の記憶が蘇っている。成長こそ共産党の正当性の基盤であったにもかかわらず、経済が減速しているからである。2005年当時、中国経済はまだ年率10%ほどで成長していた。今ではその成長率が8%を下回り、反日デモは工場閉鎖やきつい労働に抗議する反政府デモに一瞬にして変貌しかねない。さらに言えば、日中間の強い経済関係が反日感情によって長期的に損なわれる可能性もある。

 最後に、中国国民はソーシャルメディアの普及によって自分たちの考えを表明できるようになったばかりか、7年前には想像もつかなかったような形で対話ができるようになった。2005年当時、筆者はインターネット上で日本の国連安保理常任理事国入りに反対する署名が1000万件も集まったことに驚愕したものだった。今日、ソーシャルメディアに登録している中国人は3億人を超えている。ソーシャルメディアの動員力を得た市民の力は、中国と日中関係をかなり不安定化させ得るということが証明されるかもしれない。



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