2012年12月8日土曜日

■村上隆 「クールジャパンはアホすぎる」


村上隆(下)「クールジャパンはアホすぎる」
「未来国家・日本」が抱える大問題
http://toyokeizai.net/articles/-/12029
2012年12月07日 佐々木 紀彦 :東洋経済オンライン編集長

日本の新しいモデルを創る「新世代リーダー」とはどんな人なのか。どんな能力、教養、マイ ンドセット、行動が必要となるのか。国内外のリーダーを知り尽くした、各界の識者たちに「新世代リーダーの条件」を聞く。
第4回目は、現代美術の世界でグローバルに活躍する、アーティストの村上隆さんに、世界で勝つために重要なことは何か、について聞く。



日本はSFの管理社会そのまんま

――日本は「未来国家」だと指摘していますが、どういう意味でしょうか?

悪い意味でです。民主化を超えたスーパーフラットな監視社会が自然発生的にでき、そのストラクチャーは草の根ゆえに強固です。成功者を妬み、引きずり下ろし、失敗をあざけり笑い、楽をしたいと思い、だらだらと生きている者たちが心の平静を保つ。

国家債務が限界を超えても、その責任を取ろうとするコンセプト1つ出てこず、大衆は文句を言い続けながら怠惰な生活を留保し続けられると信じている。批判精神さえ持ち続ければ自分は、世界は正義なのだ、という無軌道な信心がある。これ、SFに出てきた未来の管理社会の風景そのまんまじゃないですか。

そして、これだけのデフレ社会でも、人々の幸福度がおそらく20年前よりも上がっている。その異常事態に気がついていない住人としての日本人は、未来社会を生きているといえます。


――世界で勝つためにも、まず戦勝国のルールを学ぶべきだと提唱しています。

え?そんなこと言ってないです。コンテンポラリーアート界を牽引しているのは、戦勝国のアメリカとイギリスです。だからそこを学べと言っているわけであって、曲解してしまうとダメですよ。

あくまでアートの世界の話であって、ほかはどんなもんか。じゃあ、中国はどうよ、となるでしょう。とはいえ、今も欧米が経済のルールを作り、改変するダイナミズムを持っているので、マイノリティがいくら頑張っても、搾取はある程度行われてしまう。それをしょうがないと思ってあきらめるか、ルールを学んで二枚舌で頑張るかのどちらかしかないですね。

マイナーな国々でも、独自のルールに誇りを持ち続けています。その国にフィットさせるためには、言語を習得するといった技術面だけでは不十分です。「相手が何を望んでいるか」を集中して考えれば、ピピッとそのフュージョン(融合)の勘所がわかるではないかと思います。


――村上さんは、中東でも積極的に活動しています。

カタールですね。すごく親日的です。砂漠なので、日本人が生活していくには厳しい環境ですが、日本と文化をすごく交換したがっています。中東は、多くの宗教が発祥した土地であり、自然の極限状態の中で人間社会を組織しているので、学ぶべきことがたくさんあると感じています。


2012年2月、カタール政府が首都ドーハで日本との国交樹立40周年記念として村上氏の個展を開催。全長100メートルの五百羅漢図が話題を呼んだ。 (C)Chika Okazumi


――今の日本で、期待しているリーダーはいますか? 橋下徹さんを支持する発言をしていますが。

石原元都知事との合体する前の維新の会には期待していました。政治なので、ああ言ったりこう言ったりは仕方がないと思いますので、今は期待しつつも静観し、結果を出していくプロセスを見てみたいと思っています。

なにせ、僕は原発がこの社会からなくなってほしいと念じ続けている人間なので、その争点がブレた時点では維新の会への熱が冷めたことは事実です。あと、アイデアマンの猪瀬直樹さんには、ぜひ東京都知事になってほしいですね。


――ビジネス分野で、注目しているリーダーはいますか?

ビル・ゲイツの小規模原発事業の拡散に興味があります。僕の大嫌いな原発を使って、世界平和、特に貧困と闘う武器にしようとしています。短期的なショック療法でしか、世界の貧困は快癒できないと見立てて、実行しようとしているのか。その争点が知りたい。また、アメリカにある非営利の特にものすごい金額を集めている医療団体に興味があります。そういう人々は日本には出てきているのかしらって。

まったく別の話ですが、先日、ある成功者の新刊本を読みました。ある章で、僕の大好きなホリエモン(堀江貴文)を批判していました。「ああいう奴が出てくるから、日本が駄目になる」と。でもそうなんでしょうか?

ホリエモンの登場によって、日本の資本主義の盲点、落とし穴が発見され、日本は資本主義の王道を本質的には輸入できていないことが露呈した。そこを彼や村上ファンドは利用したんです。法が裁いた事例ですから、そこへの異議反発はありませんが、世の中も批判だけしてハイ終わりな状況に納得できません。

日本がダメになった理由はああいった特異点の登場を、嫉妬の対象に仕立て上げ、経済の仕組みの欺瞞を暴くところまで到達出来なかったことだと思うので、なんか日本の経済人は、自分がよけりゃ、仕組みの歪みにまで着手するガッツがないんだなぁ~と、けっこうあきれています。で、成功譚と批判とは、おそまつです。


構造改革を行う者こそ、真のリーダーであるんです。


学校で資本主義を教えよ

たとえば、『週刊少年ジャンプ』的、大規模な漫画ビジネスのシステムの現在のサバイバル方程式は、『週刊少年ジャンプ』の鳥嶋編集長が集英社で作り上げたもの、と言えるのではないかと思います。

マンガだけでなく、テレビや映画といったマルチメディアで稼ぐ収益構造を前提として、マンガや人材育成に投資していくシステムを作り上げた。1つの完璧なクリエーティブエコシステムですよね。金儲けをして、儲けた資金で未来をつくる。そういうエコシステムこそ評価できると思います。

スティーブ・ジョブズの評価点は、資本主義というものを<ものづくり>に引きずりこんだことです。

日本は、<ものづくり>はすばらしいのに、資本主義に負けてしまっているわけです。だから、経済、資本主義が何かということを、もっと学校が徹底して教えるべきですよ。結局、商いをもっとリスペクトするような社会構造を作り、「商いは文化だ」という認識を浸透させないと、日本の文化は成長しません。


欲求のレベルがすごく幼稚

日本では、お金持ちになった人が、バカみたいに外車や改造バイク、複雑な時計を買ったり、芸能人と結婚したりしてしまう。それは、ブランドだからという理由において、決定している。自分の人生哲学はないわけです。他人の目を気にし続けている。欲求のレベルがすごく幼稚なわけです。

だから、儲けたおカネをどう使うかを、学校で教えたほうがいいと思う。経済的に成功したロールモデルのような人がたくさんいて、その人たちの生き方を学校で勉強するようになるといいのではないでしょうか。

まぁ、悪い部分ばかりじゃなくて、すごいなぁと思える面として、たとえば、居酒屋の「月の雫」の安さとおいしさのバランスは驚異的ですよ。なぜあれだけの低価格で提供できるのか。もし外国からの旅人が日本に来たら通い詰めてしまうと思います。「サイゼリヤ」とかも、どうなってんのよ?ってレベルです。

このクオリティの高い食産業のシステムは、マンガ界と同じく、国内の競争が激化しているがゆえにできあがったものです。そんな月の雫やサイゼリヤのような低価格帯の飲食チェーンの仕組みを批評的に語れるようにすることが大事です。さもないと、ウォークマンがiPodに負け、iモードがiPhoneに負けたのと同じようなことが起きてしまう。


ビッグ3による漫画博物館を

――最近は、政府による「クールジャパン」の政策を批判しています。

アホですよ。アホすぎて話にならない。今や、官僚になっていく人材も地盤沈下を起こし、憐れなグダグダな失態を世間に晒しています。ネットに上がっていた「クールジャパン」のビジネスストラクチャーのマトリックス図は、大学生のレポート以下でした。そんな複雑で可能性の低い事業に税金が使われていく様は、数十年前の原発村の起源発生を見るようで、虫酸が走ります。

そんな複雑なことはしないで、集英社、小学館、講談社のビック3をまとめあげ、東京に世界に冠たる、漫画博物館を造るべきです。ビック3をまとめあげるというまとめ方に、特別免税制を敷いて、美術館制作を民間に一時任せる。「ロード・オブ・ザ・リング」を造ったときのニュージーランドのとった政策にアイデアをもらっています。つまり、ハリウッドからの資金には課税せず、すべてを製作費に回したという離れ業。そのために、ニュージーランドへの観光旅行は増え、かつ、今やニュージーランドはハリウッドを超えるクリエーティブなスタジオを保有するにまで激変しました。そういう離れ業を行えるのが官ではないかと。今回の「クールジャパン」のファンドの旗振りはナンセンスです。

百歩下がって、アイデアを出すとすれば、コミコン(米カリフォルニア州で開かれる漫画など大衆文化のコンベンション)などで、国際的な漫画、アニメの賞で日本人が受賞するよう、ロビー活動をすべきです。海外で「やっぱり日本人のやっていたことは正しかったんだ」と認められるような、上手なコミュニケーションを促進する縁の下の力持ちを造り上げることです。

政府は、「AKBをシンガポールに持っていった」とか「われわれは漫画の味方ですよ」といったアピールをしていますが、正直、国内でも海外からでも、そうした行動に賞賛は皆無であるという事実に着目するべきです。

日本には、高松宮殿下記念世界文化賞などいろいろな賞があって、外国人に賞を上げています。それは国際交流としてはいいことです。ただ逆に、国際社会の中で、日本人が評価されるという舞台もあるはずです。そういう国際的な賞を、たとえば、任天堂のゼルダを創った宮本茂さんが受賞するといった例を作らないとまずい。日本人が日本人を表彰する自画自賛では駄目です。

とにかく無責任な日本人をゆとり教育が大量発生させてしまった後始末を、多くの気概ある日本人がアタックせねばならない。それを言いたかったとも言えるのです。

(撮影:尾形文繁)



村上隆(むらかみ・たかし)
アーティスト。カイカイキキ代表
1962年、東京生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。世界のアートシーンに新しいコンセプトを提案したSUPERFLATプロジェクトは6年をかけてロサンゼルス、パリ、ニューヨークを回り、ラストとなった「LittleBoy」(NY ジャパンソサエティ/2005 年)はニューヨークの美術館開催の最優秀テーマ展覧会賞を受賞。08年、TIME マガジン<世界で最も影響力のある100人> に選出。主なコラヴォレーションにルイ・ヴィトンや六本木ヒルズ、カニエ・ウェストがある。代表的な展覧会はベルサイユ宮殿での個展「MURAKAMI VERSAILLES」(2010年)。実写映画『めめめのくらげ』シリーズやアニメ作品「6HP」など映像監督としての作品も公開されていく。




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