2013年5月14日火曜日

■安倍政権、雇用制度改革に向けた計画が尻すぼみ


安倍政権、雇用制度改革に向けた計画が尻すぼみ
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2013年 5月 10日 21:14 JST
By MITSURU OBE

 【東京】安倍晋三首相は来月、待望の成長戦略を発表するが、労働制度の見直し計画については静かに脇に退けてしまった格好だ。こうした労働制度はかつて優勢だった日本企業が直面する難題の多くの元凶とみられている。

 成長戦略について、安倍首相は日本経済の最近の回復を持続可能な景気拡大に発展させる上で不可欠だと指摘、こうした取り組みの一部には硬直した雇用制度の見直しが含まれるべきだと主張してきた。

 首相は3月、「成熟産業にみんなが固執していては、みんなが職を失ってしまう」と述べた。

 しかし、こうした案の草案作成に取り組んでいる規制改革会議のワーキング・グループ(WG)のひとつである雇用WGのメンバーは、座長の鶴光太郎慶応大学教授も含め、雇用制度改革は少なくとも現時点では含まれないと話す。

 鶴教授は「みんなタブー視し、言った人がたたかれる。議論ができない。言ったとたんにたたかれる」と話し、タブーの話題だと続けた。

 日本の大手企業の雇用は、伝統的な終身雇用や女性の就業率の低さ、厳格な労働法などをはじめ、先進諸国で最も柔軟性に欠ける。こうしたことが重なり、法的な問題が生じかねないことや文化的な問題も含まれてくることから、企業が余剰労働力を削減することが難しくなっている。企業は社会での役割の一部として、株主に価値を生み出すことを期待される以上に、できるだけ完全雇用に貢献するよう期待されている。

 2011年12月の経済白書では、企業は実際に必要ない社員約460万人を抱えているとの試算が示された。中堅どころの転職が非常に少なく、起業に貢献する機会もあまりない。日本での新興企業の割合は経済協力開発機構(OECD)加盟国のなかで最低水準となっている。

 OECDは最近の報告書で、日本経済の回復に向けた方法について、「日本はもっと柔軟な雇用と、年齢ではなく能力主義に基づき、生産性の高い労働者の雇用維持を促進する賃金体系を目指すべきだ」と指摘した。

 安倍首相は、ネットでの医薬品販売と石炭火力発電所に対する規制緩和や、働く母親のためのデイケアの設置など、他の分野では経済の見直しを推し進めている。景気押し上げには役立つだろうが、エコノミストらは、こうした取り組みは、日本の景気低迷の中心とも言える硬直した労働状況に直接対処するものではないと主張している。

 世界的な競争に苦戦する日本の電機メーカーの抱える問題については、政府当局者らも、労働移動の欠如が引き起こす問題の象徴として指摘してきた。雇用をめぐる懸念のために、極端な再編は難しく、企業は最も有望な製品部門に焦点を絞るのではなく、複数の事業部門を維持するよう強いられている。

 少なくとも日本の電機メーカー7社は損失しか出ないのに引き続き薄型テレビを生産している。しかし、業界幹部の一部は非公式に、こうした不採算のテレビ部門の雇用者のために社内で他の仕事を見つけなけなければならないことから、採算性の悪い事業を切り捨てるわけにはいかないと話してきた。

 エコノミストらは、企業に過度な負担をかけ、起業精神や競争を阻んできた制度を日本政府が改革する必要があると指摘、新興企業は既存の優勢な企業にチャレンジし、景気活性化の一助となろうと主張している。オリエンタル・エコノミスト・リポートのエコノミスト、リチャード・カッツ氏は「日本に必要なのはさらなる競争で、古い企業に取って代わるもっと多くの新興企業だ」と述べた。

 今年に入り、政府の成長戦略の作成を担当する政府委員会は「限定的な正社員」の創設を提案した。この提案では、伝統的な雇用よりも労働者にとっての保護項目が少なくなっている。一部の委員はまた、雇用の金銭解決交渉を容易にする規定を求めた。

 経済政策に関する安倍首相への親密なアドバイザーであり、自民党の経済戦略作業部会の主要メンバーである山本幸三衆院議員は、われわれは労働問題など首相の既得権益グループが反対する問題について首相が決断することを望むと話している。

 しかし、社員の削減を容易にする案は批判を受けやすく、反対派は企業の利益に資するだけだと主張している。反対派の議員、山井和則氏は「雇用の安定なくして成長ない」と言い、「どこで雇用の受け皿を作るのか、どう雇用を増やすのか、新しい産業は何なのか、そうした議論が行われてないのに、解雇規制の緩和や人を切ることがメーンになっている」と話した。

 野党の議員らは、議会でこうした案について、安倍首相に方向転換を迫った。安倍首相は先月、他の政党の幹部との初の協議で、「解雇を自由化しようなんてことはまったく考えていない」と述べた。

 政治アナリストらは、7月に参院選が控えていることを考慮すると、方向転換は理解できると指摘する。安倍首相は労働改革についての主要な決断は、参院選後まで先送りする見通しだ。

 改革支持者にとっては現行制度の問題は、人員削減できずにいる過剰な社員を抱えた企業よりも深刻だ。これは、日本で一層の起業家精神を育てる問題につながってくる。

 慶応大の教授で、産業競争力会議のメンバーである竹中平蔵氏は労働移動が新興企業の促進に一助となろうとの見方を示した。同氏は「いろいろ人を解き放たないと新しいものは生まれない。日本は解き放たないようにしよう、しようという政策を取ってきた。今回、解き放とうとしているが、経済界の一部がまた反対している」と話し、提案されている改革のペースは遅すぎるとの考えを示した。




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