韓国経済の成熟、成長鈍化への対応
http://jp.wsj.com/World/Europe/node_525662?mod=WSJWhatsNews
2012年 10月 8日 13:16 JST
【ソウル】韓国は1962年、繊維産業を豊かさへの最初の踏み台とした5カ年計画に着手し、貧困からの脱却を開始した。だが半世紀経った今日、成長が減速する中で大統領選挙を2カ月後に控えているにもかかわらず、この国をどのように次の段階に引き上げるか議論する者は皆無だ。
こうした沈黙は、1つには選挙運動の圧力の反映でもあるが、他方でそれは韓国がより大きく変化した証拠でもある。つまり経済に関する限り、この国の政治指導者や政策立案者たちは壮大な構想を描くのをやめ、壮大な目標を設定することをやめ細かな目標へと移行したのだ。
スポーツ用語で言えば、韓国は経済についてオフェンス(攻撃)からデフェンス(防御)へシフトした。
1980年代に財務部長官(財務相)として経済の大きな役割を主導したベテラン政治家の姜慶植氏は、「大統領選挙後の新政権は何らかのドラスチックな措置を講じるべきだ」と述べた。同氏は現在、サービス部門が他の同様の諸国よりも遅れていることを懸念している。ただし同氏は「われわれはドラスチックな行動を予想できない」とも語った。
韓国で、多年度にわたるトップダウン方式の経済プランの時代が過ぎ去って久しいのは言うまでもない。同国の総生産は年間1兆ドル近い規模となり、世界第15位の経済国だ。あまりにも大きく多様で、政府指導者や官僚の手で厳格に形成できるものではない。
現職の李明博大統領は、壮大な経済プランが脱線しうることを学んだ。2008年に大統領に就任して2カ月後に貿易協定を締結したが、大規模な抗議行動が起き、その年の後半には世界的な金融危機が発生し、経済目標の断念を余儀なくされた。例えば一部国営企業の民営化や、経済成長率を年間約5%から7%に引き上げる計画だ。
今日、李大統領の後継を目指す大統領候補は、与党セヌリ党の朴槿恵氏、民主統合党の文在寅氏、無所属の安哲秀氏の3人だが、3人とも福祉制度をいかに充実させるかのほか、大学授業料をどう引き下げるかなど仔細なテーマについて論議している。批判的な人々は、こうしたテーマをポピュリスト(大衆迎合主義)的だと非難している。
ある意味で、経済政策の攻撃から防御への変化、つまり攻守交代は、韓国にとって重要な進歩でもあると言える。
例えば、それは政策決定者たちが資本移動に対するこの国のぜい弱さを克服したことを示唆する。それは2008年の金融危機の勃発後、韓国が直面した大問題だった。
2010年に資本流出入問題で韓国政府の顧問を務めた米プリンストン大学のエコノミスト、ヒュンソン・シン氏は、より小さな経済問題に関心を集中できることは「極めて良い兆候だ」と語った。
こうした変化はまた、政府の巨大建設事業の終わりを示唆する公算が大きい。例えば経済の推進役としての李大統領の河川灌漑(かんがい)事業や、同大統領の前任者たちの各種大規模事業だ。韓国最大の都市ソウルの市長は昨年末の就任後、資本集約型の事業を幾つか変更ないし中止した。
韓国の経済も、成長は鈍化しているが、危機に直面してはいない。08年の景気下降から、ほとんどどの先進国よりも早く回復した。
そして、ユーロ圏危機をきっかけにした成長への新たな圧力に直面しているが、それにもかかわらず、韓国の財政ポジションは極めて強く、政府の政策立案者は単純な帳簿の変更だけで刺激策を立案できるほどだ。しかも最近格上げされた国債にも脅威にならないはずだ。
しかし、大がかりな経済目標設定からのシフトにはリスクもある。急速に高齢化する人口と、韓国の輸出型モデルを真似た諸国との競争に対処する新しいアイデアが必要な時期に、経済が漂流する恐れがある。
成熟経済において成長を促進する多くの戦略には、女性や移民の雇用拡大など困難な課題に対処する政治的なコミットメントと意欲とが不可欠だ。
高麗大学のエコノミスト、シン・クワンホ氏は「われわれの経済は極めて急速に拡大した。規模の点では極めて大きい」と指摘。「しかし質の面、例えば社会における規制、その他の制度の効率面では、依然として多くの問題を抱えている」と語った。
シン氏は、米国のエコノミストのバリー・アイケングリーン氏やドワイト・パーキンズ氏とともに、韓国の急速な発展に関する著書「From Miracle to Maturity(仮題:奇跡から成熟へ:韓国経済の成長)」を執筆し、その中で過去50年間の経済モデルから、人口が近く減少する公算が大きく経済が鈍化しそうな国にふさわしいモデルへと、どのように転換できるかを論じている。
同書は、政府が製品や労働市場の規制緩和、高等教育の改革、対内投資の誘引などによりサービス部門の生産性の向上を提案。一方、同国の経済政策上の議論の的である所得較差、大企業と中小企業の被用者間の福利厚生の較差などについては触れていない。
シン氏は、「韓国経済はかつて成長率が高く所得の不均衡も小さく皆が幸せだった。今は多くの人が経済が成長しても生活が改善していないと感じている」と語った。
姜慶植元財務相は、「政府の組織は産業の規模に準じており、消費者の権利は非常に弱い。だが、消費者を中心にすえることによって規制改革や社会の変化を容易に進展させることができる」として、これまで製造業者を対象としてきた経済政策を消費者を対象としたものに変える必要があると主張した。
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記者: Evan Ramstad
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