2011年12月6日火曜日

■特集ワイド:「増殖」続くAKB 一生懸命な姿に共感、海外進出


特集ワイド:「増殖」続くAKB 一生懸命な姿に共感、海外進出
http://mainichi.jp/enta/geinou/news/20111206dde012200011000c.html

 アイドルグループ、AKB48。国内各地で続々と姉妹グループが誕生し、今月、海外進出第1弾としてインドネシアで姉妹グループ、JKT(ジャカルタの略)48が活動を始めた。AKBはなぜ“増殖”し続けるのか。

 インドネシアの首都・ジャカルタのホテルで11月2日、JKT48のメンバーの最終オーディションがあった。終了後の会見で、AKB、JKTの総合プロデューサー、秋元康さん(55)は「(インドネシアと日本は)文化、言葉、習慣などいろいろな違いがあるが、必ず成功すると確信しました」と自信を見せた。

 最終選考に残った少女51人から、自ら合格者28人を選抜した秋元さん。インドネシア人の少女たちが、日本の少女たちと同じように目を輝かせ、夢を語り、歌うのを見て、当たると直感したという。

 とはいえ、会見に集まったのはほとんどが日本のメディア。AKBの知名度も低く、韓国のKポップに水をあけられている。JKTは、今月から複数のCMに出演するなど、猛ダッシュをかける。

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 AKBは「会いに行けるアイドル」をコンセプトに05年に誕生。東京・秋葉原のAKB専用劇場でほぼ毎日公演を行っている。初回公演の観客数は7人だったが、ネットや口コミで評判が広がり、07年にはNHKの紅白歌合戦に出演。今や、テレビでAKBメンバーを見ない日はない。

秋元康さん=三浦博之撮影 姉妹グループは名古屋・栄のSKE48、大阪・難波のNMB48に続き、11月末に福岡・博多にHKT48が誕生した。沖縄や北海道、東北地方からもオファーがあるといい、日本中にAKBがあふれる。


 今後、どう海外展開していくのか。秋元さんに話を聞いた。

 「AKBは、インターネットで予想より早く世界に広まっている。肩に力を入れてプロモーションするよりも、来てくれというところを中心に展開しようと思っています」

 海外進出第2弾は台湾。TPE(台北の略)48が、来年夏に専用劇場で公演開始予定だ。タイでも準備が進む。シンガポール、上海、北京、ロシア、パリ、ロサンゼルスなどから新グループ設立のオファーがあり、既に上海、香港、シンガポール、台湾にはAKBのショップがある。

 お国柄などは考慮せず、JKTのメンバーはAKBと同じ基準で選んだ。その理由を「納豆」の輸出に例える。

 「事前にリサーチしすぎて、においを消したり、糸を引かないようにしてしまえば、納豆の良さを殺してしまう。欧米と似て非なるものを作っても相手にされないのだから、納豆は納豆のまま輸出した方がいいんです。それと同じで、今までの歌手は歌やダンスがすごくうまかったけれど、AKBはうまくない。でも、こんなに若い子たちが一生懸命汗をかいて踊っているのを海外の人は見たことがないでしょう。見たことがない--そこに面白さがあるんです」

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 それにしてもすさまじい人気だ。音楽CDが売れない中で、AKBは最近発売したシングルが3作連続で発売1週間でミリオンを達成。史上初めての記録だ。

 人気の理由をどうみているのか。「AKBはドキュメンタリーだからじゃないでしょうか。つまり、今までのアイドルやKポップのようにいいところだけを見せるのではなく、一人一人の女の子が泣いたり笑ったり悩んだりしながら頑張っている姿をリアルに見せることで、みんなが共感したり応援しようと思ったりするのでしょう」

 「前へ進め」「自分を信じろ」「がむしゃらに」といったメッセージ性の高い歌詞にも、若い世代の共感が広まっているようだ。

 すべての曲の作詞を手がける秋元さんは「50歳を過ぎたおじさんがなぜ歌詞を書けるかというと、彼女たちをずっと見ていて観察日記を歌にしているから。例えば、売れてきて次の目標を見失いかけた時期に『川を渡れ!』と歌う。詞は僕から彼女たちへのメッセージ。そこにリアリティーが生まれ、共感する人が増えていった」。


 ストレートな歌詞は、「くさい」とか「気恥ずかしい」と共感されにくそうだが。

 秋元さんは「冷めているようで意外と熱いのが今の若い人たち。こんなことを言ったら一昔前の学園ドラマみたいで恥ずかしいと思っているのは一昔前の人たちなんです」と話す。

 さらに「今は、日本経済が小さくなり、物欲では満たされない精神的な何かを求めている時代。コミュニケーションツールはあるが、本当につながっているのか、みんな疑心暗鬼。寂しくて、でも何かに必死になりたい。正月の駅伝やなでしこジャパンに注目が集まるのも、本気で汗を流していることにあこがれがあるからだと思います。AKBは、格好悪いところも見せて、それでも手を伸ばして夢をつかもうとする。AKBを見てそれが格好悪いことではないと伝わればいいし、今の子たちはそこをAKBに託しているのではないでしょうか」。



 日本文化の海外輸出に詳しい慶応大学大学院メディアデザイン研究科の岸博幸教授は、「少なくとも表面上はファンの意見を取り入れ、ファンが育てる形を取っている。それが、参加性や共感性を大切にするソーシャルメディア世代や育成ゲーム世代の流れにマッチした」と指摘する。「その結果、握手券付きCDなどで、限定された音楽市場の中に、オタク層の人々をひっぱり込むことに成功した。オタク層の人々は、ご飯はコンビニ弁当でも、好きなものには出費を惜しまない。この層に目を付けたことはすごい」と語る。

 また、「AKBはみんな似かよったコスチュームで、センター(一番前で歌う人)が差し替え可能。個人よりもグループとしての固まりが強調され、今までのアイドル以上に漫画やアニメのデフォルメされた記号的表現に近い。海外で漫画やアニメが日本的『カワイイ』フォーマットとして定着したように、AKBが海外で広まり定着していくかどうか。これは、二次元で成功したことが三次元でも通用するかを試す面白い実験だ」とみている。

 記号化された頑張るアイドルだからこそ“増殖”する。今後どうなっていくのか、予想もつかない。



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