2012年4月22日日曜日

■「大阪商人」じゃなくても知りたい「大阪締め」


「大阪商人」じゃなくても知りたい「大阪締め」
2012/4/22 7:00 日経Web

 春本番となり、歓送迎会やお花見などの機会が増えた。関東出身の記者が気になっていたのが、宴席の中締めなどで耳にする独特の手締め。いつも聞いていた一本締めや三本締めと違い、独特の掛け声が覚えにくい。聞くと「大阪締め」という大阪ならではの手締めらしい。

 大阪のオフィス街の中心地、北浜。土佐堀川沿いのおしゃれな店では、夜が更けるとほろ酔い気分の人たちがテラスに集まってくる。「せっかくだから、あれ、やりましょか」。皆で円陣を組み、手を掲げた。「打ちまぁーしょ」……。独特の口上と手拍子が夜空に響く。

■天神祭では行き交う船が手拍子送り合う

 さっそく「大阪検定」を運営する大阪商工会議所に問い合わせてみた。「一番多く大阪締めに接する機会があるのは天神祭です」と話すのは地域振興部の中野亮一部長。大阪天満宮(大阪市北区)の天神祭は日本三大祭りの1つで、約120万人もの観光客が訪れる。川面に約100隻の船を浮かべる祭りの目玉「船渡御(ふなとぎょ)」で行き交う船が互いに手拍子を送り合う光景を見たことがある。

 まず手を掲げ、手拍子の準備。「打ちまぁーしょ」の掛け声とともに「パン、パン」と2回手を打つ。次に「もひとつせぇ」で「パン、パン」。最後に「いおう(祝う)てさんど(三度)ぉ」の掛け声に「パパン、パン」と打ち返す。これまで関東で聞いたことのある「いよーっ、パン」や、「パパパン、パパパン、パパパン、パン」を3回繰り返す三本締めに比べ、セリフが多いのが特徴だ。

 船渡御は神体や神霊を船に乗せて川や海を渡す神事だ。「神聖なことと関係があるに違いない」とにらみ、生国魂神社(大阪市天王寺区)、通称「いくたまさん」を訪ねた。

■生国魂神社の手締めが発祥

 神主の中村文隆さんが快く応じてくれた。「実は大阪締めの発祥は生国魂神社の例祭で用いられていた手締め。これの短縮バージョンが、天神祭を通じて、今の『大阪締め』になったと言われています」

 生国魂神社に伝わる手締めでは前述の大阪締めに続きがある。「いおうてさんどぉ」の手拍子は「パン、パン、パン」。その後「めでたいなぁ」「パン、パン」「本決まりぃ」「パン、パン」と続く。全部で節が5つなのだ。「川の流れが速く、船がすれ違う時間内に間に合わないので3つに減ったのではないかと言われています」と中村さん。

 江戸時代になるとビジネスの場にも広がった。船場や堂島などの“大阪商人”は商談成立を祝って「ここらで手ぇうちましょか」と言って手締めをしていたようだ。契約を文書に残す習慣が普及していなかった時代。北回り船などの航路に乗って人の口から口へ、北は北海道、南は九州まで伝わった。今でも大阪締めと拍子のよく似た手締めが残る地域があるという。

■大阪証券取引所が復活させる

 とはいえ、大阪締めが以前ほど頻繁に見られなくなっていることを、上方落語協会の小山暁生事務局長は残念がる。司会などで呼ばれた落語家はパーティーや宴席で必ず大阪締めをするが「事前に練習してもだいたい拍子のタイミングがずれてしまう」。伝統を守り伝え、威勢の良い掛け声で関西の証券業界を盛り上げようと、大阪証券取引所は2001年、新年祝賀会で恒例だった三本締めをやめ、大阪締めを復活させた。

 「過去を大切にすることが大阪の未来の発展につながるのでは」と中村さんは話す。様々に変遷しながら、何百年も受け継がれてきた大阪締めを廃れさせてしまう理由はない。もっと手軽に楽しむ機会は見つかるはずだ。さて、私も今回の取材を無事に終えたところで、お手を拝借。「打ちまぁーしょ」……。


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