2012年7月16日月曜日

■【ナニワ文化の遺伝子 消滅か存続か(下)】


【ナニワ文化の遺伝子 消滅か存続か(下)】
東京は15分で完売、大阪は売れない“芸術温度差”
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/120716/waf12071607010000-n1.htm
2012.7.16 07:00

文化は橋下改革の“象徴”か

 「橋下市長は『アーツカウンシル』で文化と行政の関係を変えようとしている。スピード感を持って発信することにこだわり、大阪から日本を変える象徴の一つにしたがっている」

 橋下徹大阪市長のブレーンとして市の文化行政を調査する特別参与で立命館大学准教授の山口洋典さん(36)はこう説明する。

 大阪の文化行政が揺れる中、昨年12月、橋下市長は就任早々、「アーツカウンシル」の設置を明言した。

 誰もが聞き慣れない「アーツカウンシル」。1946年、イギリスの経済学者、ケインズが設立したが、そこにはヨーロッパの暗い過去が影を落としていた。ナチス・ドイツ時代にヒトラーが芸術を政治的に利用した歴史の反省からの産物だった。

 「アーツカウンシル」は有識者で構成された第三者機関で、自治体と一定の距離を保ちながら芸術文化への助成の分配を決定する。

 イギリスでは導入当初、音楽や絵画などハイカルチャー(高級芸術)に偏っていたが、その後、サブカルチャーまで多様化。現在では欧米をはじめアジアではシンガポールなどで採用されている。

 山口さんは「大阪の『アーツカウンシル』は、評価する人材も積極的に市民から募る。それが最終的に市民が文化や芸術を支えることになる」と説明する。

動き出した「アーツカウンシル」の枠組み

 今年1月、NPO法人の主催でシンポジウム『大阪の転機にアーツカウンシルを』が開催され、イギリスの先例などが紹介された。

 同会世話人の一人でNPO法人「こえとことばとこころの部屋」代表、上田假奈代さん(42)は「漫才、落語、ロック、ストリートパフォーマンス…範囲をどこまで広げるのか。また、その価値を評議する人材の確保はどうするのか。ただ問題点を解決して実現すれば大阪の芸術文化にとって素晴らしいことだ」と説明する。

 現在、本格的に「アーツカウンシル」の枠組みづくりが始まっている。来年度からはアーツカウンシルが動き出し、大阪フィルハーモニー交響楽団も、文楽も査定される予定だ。

上がり始めた「何かしなければ」の声

 5月中旬、阪急梅田駅のビッグマン前に美しい弦楽器のハーモニーが響いた。

 大フィルが6月の大阪城で開催する野外コンサートのPRのため、4人の女性楽員がモーツァルトの曲を披露する“ゲリラ公演”を行った。約65年の歴史で初めてのことだ。楽員は「みんな自分たちも何かしなければと思っている。これからも積極的に街に出たい」。

 文楽も改革の声は上がり始めている。人形遣いの桐竹勘十郎さん(59)は「お客さんの立場で考えると、まだまだできることはある。もっと親しんでもらえる芸能にしていきたい。われわれはどこにでも行きます」。三味線の人間国宝、鶴澤清治さん(66)は「たとえばプロ野球のように一軍、二軍制にして技芸が向上すれば一軍にあげる。そういう厳しさも必要。それが本来の芸の姿」と語る。

最後に支えるのは市民 文化・芸術は都市の品格

 橋下市長の“聖域”なき改革は大フィルや文楽に意識改革という課題を突きつけ、一方で市民側の問題点も明らかにした。

 大阪観光コンベンション協会会長の津田和明さん(78)は「文楽やオーケストラは街が持つ文化の厚みとして、その都市の品格に欠かせない」と話す。

 津田さんはかつて、国立文楽劇場を統括する独立行政法人・日本芸術文化振興会理事長を務めた。「一度、東京に基軸を移してはどうか」と文楽の人たちに提案したことがある。しかしその時、文楽の技芸員から「私たちは350年間大阪でやってきた。大阪を離れるつもりはない。大阪に根を下ろしてやっていく」と強い抵抗に遭ったという。

 津田さんは「文楽の人たちはそれほど大阪を大事に思い、腰を据えて大阪の文化を担ってきた。そこに市民はもっと感謝しなければならない」と訴える。

 作曲家の三枝成彰(しげあき)さん(69)は「東京では15分で完売するチケットが大阪では売れない。そういう土壌で生まれたのが、橋下市長。大阪の人たちはもっと芸術や文化に勤勉になるべきだ。芸術や文化を支えるのは最後は市民だということを忘れてはいけない」と話した。



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