2012年12月20日木曜日

■今度という今度、アメリカの銃規制論議は動き出すのか?


今度という今度、アメリカの銃規制論議は動き出すのか?
http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2012/12/post-512.php
2012年12月19日(水)11時45分 冷泉彰彦

 12月14日(金)、コネチカット州ニュータウン町のサンディフック小学校で発生した乱射事件では、小学校1年生のクラス20人の生命が奪われるという衝撃的な結果に、全米はまだ激しい感情の中で揺れています。事実関係に関しては、まだまだ不明な部分が多いのですが、そんな中、今度という今度は「銃規制論議」を正面切って行うべきだ、そんな機運が出てきているのは事実だと思います。

 とりあえず現時点での動きや論点を箇条書きに整理しておこうと思います。

(1)オバマ大統領は腹をくくったようです。事件直後に涙ながらの声明を出して「有効な対策を講じる」と宣言して以降、週末のビデオ会見、週明けに現地入りしての追悼集会でのスピーチなど、「銃規制(ガン・コントロール)」という言葉をハッキリ使ってはいないものの、その「行間ににじむ」ものとしては明確な覚悟が感じられます。

(2)では、どうしてハッキリ言わないのかというと、とにかく政治的逆効果を警戒しているからだと思います。野党・共和党は「銃の保有の権利擁護」をほとんど党是にしている政党であり、仮にオバマがハッキリした言い方で銃規制を口にしてしまえば、どこかで激しく抵抗してくる可能性があります。幼い生命が20人も奪われた国家的な「服喪期間」に、そうした政治問題化を進めるのは長い目で逆効果という判断があると思います。

(3)ちなみに、この間、2009年11月のテキサス(軍医による基地内での乱射事件)、2011年1月のアリゾナ(下院議員襲撃乱射事件)、2012年7月のコロラド(映画館襲撃事件)などオバマ政権になってからも大規模な乱射事件があったわけですが、オバマ大統領は「銃規制」を政治課題にすることには極めて慎重でした。それは何よりも「国論分裂」を恐れたからであり、また「銃保持派」の活動を刺激することは大統領選などの政局には不利という計算もあったと思われます。ですが、今回の事件はその総てを吹き飛ばすインパクトがあったと言えます。

(4)一方で、政界での議論はスタートしています。口火を切ったのは、ダイアン・ファインスタイン上院議員(フロリダ、民主)です。この11月の総選挙で再選されたばかりの彼女は、1月の新議会に「アサルトライフル(自動小銃)および連射用マガジンの禁止」を議員立法として提出すると宣言しています。1994年から2003年まで有効であったこの規制をとりあえずは復活させようということです。

(5)ジャーナリズムの世界では、現時点ではネットやケーブルTV、新聞の論調を中心に「銃規制の推進論」が展開されています。ただ、主要な論客は、ニューヨークのブルームバーク市長、映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』で銃社会を告発したマイケル・ムーア監督、そして英国人としてアメリカを客観視する役回りを与えられているCNNのピアース・モーガンといった顔ぶれであり、従来から銃規制論者として有名な人々が中心です。3大ネットワークなどは、あくまで「銃規制論議が起きていること」を報道するというスタンスに留めています。

(6)こうした中で、12月17日(月)から18日(火)にかけては、事件のあったニュータウン町の住民が、一致団結して「ワシントンへ向けて銃規制の実施を訴える」運動を開始すると表明しています。これは動きとしては相当なインパクトを持つと思われます。

(7)18日(火)にNRA(全米ライフル協会)が声明を出しています。その中では、規制を受け入れるとは一言も言っていないものの「ライフル協会として再発防止のためにあらゆる協力を惜しまない」と述べるなど、この協会にしては異例の「低姿勢」を見せています。また21日(金)にはNRAとして代表が会見するということで、注目が集まっています。ちなみに、この間、協会として沈黙を守ってきたことについては「礼節を示すため」ということです。

(8)基本的には、ファインスタイン議員が提案したようなアサルトライフルの禁止という1994~03年まで続いた規制を復活させるということが直近の課題として浮上しています。規制推進派としては、当面の作戦としてはここに集中して成果を出そうという構えです。一方、NRAなど銃保持派としては、そのあたりを妥協点にして、それ以上の規制には発展しないように防戦する構えを取ってくるのではないかと思われます。

(9)本当はアサルトライフルなどという強力な武器については、販売を禁止するだけでなく、豪州が実施したように「社会から一掃する」ための努力も必要です。それは、しかしながら「次」の課題になるのだと思います。



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