2013年3月2日土曜日

■韓国の高齢者に忍び寄る貧困


韓国の高齢者に忍び寄る貧困
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2013年 2月 28日 11:59 JST  By IN-SOO NAM

 【ソウル】韓国の朴槿恵・新大統領は就任演説でより公正な社会の実現を約束したが、同大統領にとって最大の難題の1つは拡大する所得格差への対応であろう。同国では高齢者のほぼ2人に1人が貧困状態に陥っている。

 朴大統領は25日の就任演説で、経済的により厳しい時代が今後到来することに言及し、同国の経済の奇跡における新しい章について語った。経済の奇跡は、朝鮮戦争後の数十年にわたる急速な成長で多くの韓国人を貧困から脱却させた一方で、格差を深刻化させた。

 韓国社会の経済格差は、若者と高齢者との間で最も顕著だ。この問題は朴氏が勝利を収めた大統領選挙における主要なテーマだった。韓国の高齢者は従来、引退後の生活を家族からの支援に頼ってきた。しかし、韓国人は教育費など差し迫った費用を優先するため、同国の貯蓄率はアジア最低だ。また近代化に伴い、数世代にわたる家族構成は一般的でなくなってきている。このため、高齢者はますます自活しなくてはならなくなっている。

 元兵士のヨー・ジュンナムさん(72)は生活のため、ソウルの建設現場で日雇い労働者として働いている。

 ヨーさんは「政府の退役軍人基金から月に15万ウォン(約1万2700円)が支給されるが、交通費と食費の一部にしかならない。建設現場で働いて稼いでいても、やりくりは難しい」と話した。子どもたちも生活していくのがやっとの状態なため、ヨーさんを金銭的に支える余裕がないという。

 韓国の高齢者の貧困率は、経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国で最悪だ。入手可能なもので最新となる2011年のデータによると、65歳以上の高齢者で、家計所得の中央値の半分に満たない額で生活している人の割合は45.1%に及ぶ。OECDの平均は13.5%で、6年前の42%からも増えている。

 韓国の定年年齢の平均は57歳。国民年金制度に加入している人々(通常は元サラリーマン)は61歳から年金を受け取れる。前の李明博政権は昨年12月、退職年齢を引き上げる必要性を示唆していたが、具体的措置については提案しなかった。一部の政府系ないし民間のシンクタンクは最近、年金の支払い開始年齢を68歳に引き上げることを提案した。

 朴大統領は14年7月に資産調査に基づく新制度、国民幸福基金(National Happiness Pension)を導入して、高齢者の低所得問題に対応する計画だ。国民幸福基金は現行の国民年金を補う制度になる。新計画では、65歳以上の高齢者は所得水準に応じ、月に4万から20万ウォンを受け取れる。現行の老齢基礎年金は9万4000ウォンだが、他に所得がない人にしか支給されない。また、同国政府はがんなど年齢に関係がある4大疾病に対する医療サービスを無償で提供する計画だ。

 この計画は論議を呼んでいる。新政権は新たな支給にかかるコストが向こう5年間で40兆ウォン前後に達すると推測している。韓国の国家財政は概して健全で、債務のGDP(国内総生産)に対する比率は33.4%と低いが、朴宰完前企画財政省長官など前政権の当局者は、高額な社会保障関連支出により、財政の持続可能性が大きく損なわれると警告していた。

 韓国はまた、世界最低クラスの出生率という難題も抱えている。低出生率は年金資金拠出の面で、若い世代にかかる負担を増大させる。政府は保育や育児休暇への補助金など、出生率を上げるための各種予算を11-15年で50兆ウォンと、2倍以上に増やした。

 企画財政省のシン・ジェユン次官は今月、同国が世代間の衝突という困難に直面していると述べ、これが1950年から53年までの朝鮮戦争をきっかけとして始まった急速な工業化がもたらした「社会病理」だと指摘した。

 アナリストたちは、新政権が深刻な問題に直面すると指摘し、朴大統領は財政の健全性を維持しつつ、高齢者の生活向上に向けた巧みな経済手腕を示すことが必要だと述べている。

 政府系のシンクタンク、韓国開発研究院の研究員であるヨン・ヒースク氏は、「わたしは新たな社会保障制度によって支出が大幅に増えないことを期待しているが、意図した目的を達成できないと思う」と話した。

 既存の国民年金制度である韓国国民年金(National Pension Service)の12年末時点の資産額は約392兆ウォン。一部の民間のシンクタンクは、現在の人口動態の傾向に基づくと、資産額が2043年のピークを境に減少に転じ、2060年までに枯渇すると推測している。

 このため、若い世代は自分たちの老後を心配している。

 小売企業に務めるサラリーマンのオー・ウォンムンさん(30)は、「高齢者はここ何十年の経済成長に貢献したことへの報酬を欲しがっているが、若者が金銭的にこれほど大きな負担を背負うのは不公平だ」と述べた。

 オーさんは「国民年金の資産額が減少したり、枯渇したりすることがあれば、わたしのような若者は支給開始年齢の遅れや支給額の大幅な削減が避けられないかもしれない」と話した。




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