クローズアップ:潜在力秘める西日本クルーズ市場、寄港増加を背景に
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2011年9月15日(木)
西日本に寄港する外国船が増えている インバウンド誘致の一環として、クルーズ船の誘致に取り組む自治体が増えており、西日本ではその傾向が顕著だ。例えば、大阪港や境港、高松港、別府港、高知港の西日本5港は9月13日に客船誘致で連携した取り組みを展開する組織を立ち上げている。国土交通省の「2010年の我が国のクルーズ等の動向について」でも、2010年の港湾別寄港回数で上位10港のうち、1位の横浜、同率10位の東京以外は2位の神戸を筆頭にすべて西日本。外国船社に限ると横浜は7位に下がる。地域内での寄港回数が多くなれば、クルーズの周知につながる。今回は西日本の最大市場である関西の旅行会社の販売担当者に、市場動向や展望、さらに日本のクルーズ市場の課題、可能性について聞いた。
関西発着のフライトがクルーズ市場に影響
PTSクルーズ&レジャー事業部営業三課PTSクルーズデスク西日本担当担当課長の富樫菜穂子氏は、関西のクルーズマーケットの特徴について、「発着地にこだわる方が多く、フライ&クルーズは関空から出発したいという人が多い」と話す。同社は外国船クルーズのフライ&クルーズを中心に販売しているが、設定する商品は首都圏発着の割合が高い。人気のカリブ海クルーズも、例えばロサンゼルス出航/帰港のコースの場合、関空/ロサンゼルス線の定期便がないため、成田経由もしくは仁川経由になる。その時、「成田よりも関空から出国したいという方もいるため、仁川経由を案内している」というのが現状だ。
また、福岡からの旅行者は福岡/関空線のフライトが減少しているため、成田を利用する場合が多いという。「関西だけでなく、その先の地方からの集客を考えても、関空発着のフライトが増えれば(西日本の)クルーズ人口は拡大していくのでは」とみる。
外国船が日本寄港する場合、関東よりも神戸、大阪、福岡、長崎など西日本に寄港するケースが多い。「瀬戸内海は外国人の人気が高い。また、壱岐や隠岐、五島など飛行機では行きにくいポテンシャルのあるエリアも多い」と富樫氏。西日本からクルーズの魅力を発散していく可能性も期待できる。
コース変更で新たな市場活性化の可能性も
郵船トラベルクルーズ部クルーズセンター大阪所長の澤田晋一氏 一方、日本籍船をメインに販売する郵船トラベルのクルーズ部クルーズセンター大阪所長の澤田晋一氏によると、日本船は配船自体、横浜港発着が圧倒的に多いという。例えば、夏のクルーズでは、飛鳥II、にっぽん丸、ぱしふぃっくびいなすがともに青森のねぶた祭りと花火大会を観賞できるコースを設定しているが、敦賀発着のぱしふぃっくびいなす以外は横浜発着だ。需要も高く、毎年人気のコースだが、「以前は発売と同時に売り切れたこともあったが、近年は空室も見られるようになってきた」という。
これについて澤田氏は、新たなコース設定を提案する。「同じ時期に1船でも神戸発着のクルーズを設定すれば、状況が変わるのではないか」とし、市場活性化にもつながると見込む。
実際に、人気の定番コースを変更するケースもある。飛鳥IIのニューイヤークルーズが今年初めて航路を変更した。例年、グアム、サイパン、小笠原をまわる航路が定番だったが、今年は鹿児島を出発して香港をめぐるという。市場に新鮮な印象を与えることで、リピーターへのアピールはもちろん、クルーズの新需要創出の可能性も生まれる。1年先など、前もって予約する必要があり、なかなかコースを変更しづらいクルーズ商品において、「スケジュールの変更は画期的なのでは」と期待を示す。
外国船の日本発着コース設定でマーケット全体の拡大へ
PTSクルーズデスク西日本担当担当課長の富樫菜穂子氏 2012年は西日本を中心に、外国船による日本寄港や発着クルーズが増加しそうだ。ロイヤル・カリビアン・インターナショナル(RCI)のレジェンド・オブ・ザ・シーズに加え、15万トン級のボイジャー・オブ・ザ・シーズもアジアに配船し、日本には100回近く寄港する予定だ。特にボイジャーは2012年6月から10月の上海と天津発の20航海中に、福岡と長崎、沖縄、神戸などへ32回寄港することから、日本発着の特別設定クルーズも期待できる。このほか、クルーズプラネットとオーバーシーズトラベルは共同で、ホーランドアメリカのザーンダムをチャーターし、神戸発着で2本を運航。募集型企画旅行など商品化して販売している。
外国船の日本発着クルーズが増えることで「(日本発着クルーズを好んで)日本船を選んでいた人の選択肢が増える」と話すのは富樫氏。日本船よりも料金が安いため、「今までとは違うマーケットが掘り起こせるのでは」とも期待する。例えば、アメリカでは若いカップルやファミリーなどの利用が多く、日本でもこうした客層がクルーズを身近な存在に感じてもらえれば、マーケットが伸びると見込んでいる。
一方、澤田氏は外国船と日本船の価格差が認識された際の影響を指摘する。例えば、レジェンド・オブ・ザ・シーズの博多発着クルーズ10日間の販売額は約15万円で、1泊1万5000円程度と日本船と比べてリーズナブルな設定だ。個人的な見解としながら「クルーズ振興のためには日本船の価格を下げる努力が必要なのでは」と話し、例えば、「チップ制の導入などで人件費を抑えればクルーズ価格を下げることにつながる」とのアイディアも示した。
また、日本発着コースでは、クルーズでしか行けない都市や街など「寄港地の工夫も必要」と富樫氏は提案する。現在、定番の寄港地となっている屋久島も、鹿児島経由のフライトやフェリーが必要で行きにくい状況にあったが、そこを逆手にとってクルーズに組み込んだことで人気コースとなった。今後は、ユネスコ世界遺産に登録された小笠原諸島など、話題性もあり、需要も高く、さらにアクセスしにくい場所が寄港地となれば、クルーズの付加価値となり、販売しやすくなるはずだ。
旅行会社もクルーズのイメージ払拭を
両氏が今後のクルーズ販売の拡大に向けて共通するのは、「なぜクルーズがよいのか」というポイントを消費者に対して明確に伝える提案力が必要だということだ。
澤田氏は、一般的に思われている「豪華客船に乗る、という呼び込みをやめて、スタンダードルームもスイートルームもあると多面性をアピールしたい」という。また、前述のねぶた祭りと花火大会では、通常のツアーでは宿泊施設を確保するのが困難であり、会場から2時間ほどかかる場所にならざるを得ないケースもあるが、クルーズは港に停泊するので花火大会の会場に近く、「ホテル付きで移動できるメリットを旅行会社の担当者が提案できていないのでは」と指摘する。また、もっとクルーズを知ってもらうためにも「市民クルーズや、体験してもらう機会づくりが必要」だという。
客層の拡大については、富樫氏は「若年層でもハネムーナーの需要はある。ハネムーン自体、旅行会社を通じた申し込みが多いので、クルーズもひとつの選択肢として提案できる」と話す。クルーズのメインの顧客層となっているのはシニア層だが、裾野が広がり始めている今、メインの客層以外にもクルーズが売れるということを認識して販売に当たることが、今後のクルーズ販売には必要となってくるだろう。
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