2011年9月22日木曜日

■東日本大震災:福島第1原発事故 減収2割賠償せず 観光業の風評被害、東電の基準

東日本大震災:福島第1原発事故 減収2割賠償せず 観光業の風評被害、東電の基準
http://mainichi.jp/select/weathernews/news/20110922ddm001040055000c.html
2011年9月22日 東京朝刊 
 
 東京電力は21日、福島第1原発事故で被害を受けた法人や個人事業主に対する賠償支払いの基準とスケジュールを発表した。福島、茨城、栃木、群馬の4県の観光業の風評被害は原則、昨年と比べた売上高の減収分(減収率)のうち、地震や津波、景気低迷など原発事故以外による20%分は対象外とした。政府の避難指示で休業などに追い込まれた事業者については、粗利益(売上高から仕入れ原価などを差し引いた額)をベースに、賠償の基礎となる額を算出する。東電は約30万件の申請を想定。27日をめどに受け付けを始め、10月中の支払い開始を目指す。
 公表した基準は、農漁業や製造業、観光業の営業損害や風評被害などが対象。今回は8月末までが賠償対象。9月以降は3カ月ごとに支払う。東電は8月、個人被害者を対象とする賠償指針を公表したが、事業者向けの多くは先送りしていた。
 東電のモデルによると、観光業の風評被害の場合、震災から半年間で売上高220万円だった旅館が、昨年の同じ時期に500万円だったとすると、減収率は56%。原発事故以外の要因による減収率(20%)を除いた36%が事故の影響。この旅館の昨年の粗利益をベースに賠償の基礎となる額(本来得られた利益)の300万円を算出、36%をかけた108万円が賠償額となる。
 原発事故以外の要因による減収分の算定は阪神大震災後の実績などをもとに算定。福島のサービス業の場合は3%とした。比率は津波などの影響が薄れるにつれて低下する。
 休業を余儀なくされた農漁業や製造業に対しては、減収分を賠償する。具体的には昨年の粗利益に、原価のうち休業中も負担が変わらない減価償却費などを加え、賠償の基礎となる額を算出。昨年に比べた減収率(全面休業なら100%)をかけて賠償額を決める。
 農林水産物の出荷制限に関する損害では、返品された場合はその相当額、収穫前に廃棄した場合は出荷したと見なして算出する。セシウム汚染牛など畜産物や茶農家については、生産者団体などと協議して賠償を進める。5月末までの外国人観光客の予約キャンセルは全国を対象に賠償する。問い合わせは、東電補償相談室0120・926・404。
 
 
 
■クローズアップ2011:東電賠償 事業者「再出発困難」
http://mainichi.jp/select/opinion/closeup/news/20110922ddm003040062000c.html
2011年9月22日 東京朝刊
 
 なお収束の見通しが立たない東京電力福島第1原発事故。21日、東電は事故に伴う事業者に対する損害賠償の算定基準を示したが、風評被害にあえぐ農家や観光業者の生活再建への道筋は見えてこない。
 
 ◇補償細切れ、金額不十分
 
 「県民が被った損害が十分に反映されていない」。21日、福島県の松本友作副知事は県庁に説明に来た東電の鼓(つづみ)紀男副社長に強く抗議した。文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会が8月に中間指針を示していたが、あくまで一つの目安で、実際の賠償はもっと広がると県は期待した。だが東電の結論は中間指針の枠にとどまった。
 この日、福島市内では、警戒区域などに指定され避難を余儀なくされた事業者向けの説明会があった。約200人が参加し、福井県から8時間かけて来た人もいた。賠償額は過去の売上高を基に算定されるが、放射線量の高い地域の事業者からは「休業中の売り上げ補償だけでは、避難先で一から再開するのは無理」とあきらめの声も聞かれた。
 双葉町で衣料品店を営んでいた女性(62)は在庫商品を店に放置したまま避難した。支払いも抱え、廃業を覚悟している。「3カ月ごとに補償を受けられると分かりほっとした。でも原発事故さえなければ、店を生涯続けられた」。浪江町の葬祭業、三浦一男さん(64)も「出直そうにもローンも組めない」とため息をつく。県商工会連合会の担当者は「細切れの補償では移転資金の工面ができず、再出発に踏みきれない人もいる。東電や行政は他の対策も練ってほしい」と訴える。
 観光業では、減収の2割は地震や津波が要因だとして、賠償金を減額された。県旅館ホテル生活衛生同業組合の菅野豊理事長(64)は「福島の観光客が減った原因は100%が原発事故による風評被害だ。これではきつい」と漏らす。郡山市で経営するホテルは家族連れが激減、従業員を半数に減らした。8月だけで組合員の4軒が廃業した。
 「減収から2割を除く」という計算式は茨城、栃木、群馬の観光業者にも適用される。しかし、栃木県日光市では東日本大震災の余震が多かったのは4月まで。市内にある鬼怒川温泉でホテルを経営する男性は「納得できない。5月以降の客足の鈍化は原発事故の影響以外の何物でもない。東電は観光業界にもっと実情を聞くべきだ」と話す。
 一方、農産物への風評被害について、賠償基準のリストでは福島、茨城、栃木、群馬、千葉、埼玉の6県を補償対象に明記したが、稲わら汚染が新米の出荷に影を落としている宮城県は含まれていない。東電は21日の記者会見で「交渉の余地がない、というわけではない」としながら「(審査会の中間指針で)風評被害が認められないと判断されている。風評被害が出ているのか確かめるところからスタートしなければならない」と、他の6県よりもハードルが高いことを認めた。
 こうした東電の対応について、宮城県有数の米どころ、登米市の須藤彰さん(50)は「怒りを感じる。セシウムは未検出だったが、消費者心理が不安だ」。涌谷町の黒沢伸嘉さん(35)も「コメを個人販売している農家には注文のキャンセルが出ているという声も聞くのに」と話す。
 JA宮城中央会の尾本満雄・営農農政部次長は「誠意を持って賠償に応じるのが加害者である東電のあるべき姿ではないか」と、農家に被害の「立証」を迫るような東電の姿勢を批判した。【河津啓介、浅見茂晴、宇多川はるか】
 
 ◇線引き曖昧、判定難航か
 
 東電が示した賠償基準は対象が広範に及ぶ上、線引きも明確とは言えず、被害額などの判定は難航しそうだ。
 東電は事故責任を踏まえ、賠償を広く受け付ける方針。広瀬直己常務は21日の会見で「(中間指針で示された)対象県以外の風評被害も(原発事故との)因果関係があれば対象となる」と述べ、風評被害の対象地域を限定しない考えを示した。外国人観光客の予約キャンセルなどは、福島、茨城、栃木、群馬の4県以外でも賠償に応じる。農業や製造業も風評被害の賠償の対象品目を限定しない。
 その分、請求ごとに賠償の是非を判断する必要があり、事務作業が膨らみかねない。東電は賠償対応にあたる人員を5100人から6500人に増強するが、請求件数は想定の30万を上回りそうだ。
 一方で、基準は被災者から「不公平だ」との批判を招きかねない。福島など4県の観光業の風評被害については、昨年比の減収分の2割を原発事故以外が要因とみなし、賠償額から除外するが、被害の大きい福島県の観光業者の反発が予想される。また、減収が2割以下の場合は賠償金を受け取れない。さらに、外国人観光客のキャンセルの影響は、通常のキャンセル率と比較して算出するが、実態をどこまで反映できるかははっきりしない。
 納得できない事業者が訴訟を起こすケースも想定され、東電内でも「長期化は必至だ」との声が漏れる。賠償事務が滞れば、支払いが遅れかねない。
 既に賠償基準を発表した個人向けでは約6万世帯に発送した請求書用紙が60ページ、記入方法の説明書も156ページに及ぶなど、煩雑な手続きへの批判も出ている。枝野幸男経済産業相からも改善を要請され、広瀬常務は「大変申し訳ない」と謝罪したものの、「被害項目が多く、一つ一つ丁寧に説明を加えると分厚くなる」と釈明。広瀬常務は「申し出があれば出向いて説明する」と述べたが、対応には限界もあり、今回の事業者向け賠償でも零細事業者には手続きが負担になる可能性がある。
 
 
 
 

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