2011年9月23日金曜日

■「女子向けスマホ」は「女子」を狙っているのか?

「女子向けスマホ」は「女子」を狙っているのか?
http://www.insightnow.jp/article/6768
金森 努 有限会社金森マーケティング事務所 取締役
 
 ケータイ擬人化キャラの堀北真希が「女子のためのドコモ・スマートフォン」とはっきりとCMで言い切っているソニー・エリクソンのXperia ray。そのターゲットは本当に女子だけなのだろうか。

 CM<walk with you「女子向けスマホ」ray篇>では、若い女性3人が同商品を手に取って触りながら、「なにこれ?」「かわいい!」「色いいよね!」と、外観を見て感想を口にしている。傍らに擬人化キャラの堀北真希が立って、「はじめまして、新しいスマートフォンです」といい、続けて「わたし、片手でいいんです」とこの商品の最大のセールスポイントをアピールする。USP(Unique Selling Proposition=競合には実現できない独自の価値)を提示しているわけだ。CMでも女性達は画面を触り、「ホントだ!」「親指でいけるし!」と感心している。

 ドコモのホームページにあるCM紹介では、<女子だって、スマートフォンを使ってみたい!だけど、「実際どうなの?」「重かったり、操作が面倒だったりしない?」・・・なんて心配している女の子たちにぜひ見てほしい!>とある。確かにXperia rayはスマートフォンに移行していない女性を狙ったものであることは間違いない。商品ページを見ると<100gのコンパクトボディ>も重要なウリであることがわかる。サイズは従来の携帯電話と同サイズでさらに薄い。

 2003年頃、女性の間に一大旋風を巻き起こした「ヌーブラ」。当初は「若い女性向け」をイメージさせる訴求をしていた。通常のブラと異なり、肩ひもやアンダーベルトが無いため締め付け感がない。衣服にシルエットが浮き出ず、背中部分がないためファッションの自由度が高くなる。さらにバストの谷間を強調できたり、バストトップの位置を高くできたりという美乳効果にも注目が集まった。

 裸の胸にシリコン製のカップを直接貼り付けるという従来と全く異なる使用法のため、当初はイノベーションの採用に抵抗感がない若年層が狙い通り動いた。しかし、その後に40~50代の熟年女性が購買に走り売上を大きく底上げした。

 ヌーブラが「熟年女性のバストを美しく見せる」という訴求でデビューしたらどうだったか。40~50代の熟年女性層はいわゆるバブル期に青春を謳歌した年代だ。消費と自分磨きに貪欲な人も少なくない層であり、化粧品や健康器具、新たなダイエットやエクササイズ法など自らを美しく見せるアイテムを見逃さない。だが、「熟年向け」と明言されると「体型補正のため」という効用が強調されることになり、抵抗感が先立ってしまっただろう。「若い娘も使っているんだし!」という点が重要なのだ。
 
 「コミュニケーション・ターゲット」と「ビジネス・ターゲット」という。
 
ヌーブラの場合、「オシャレでもっとキレイになりたい若い女性に!」と訴求する。すると、当然それに該当するターゲットも購買に動くが、それを見てより大きなカタマリとしてのターゲット層が動くことを期待して戦略を立てる。ターゲット設定には「優先順位(Rank)」と「波及効果(Ripple Effect)」という観点が欠かせないのである。
 
 「女子向けスマートフォンXperia ray」。ターゲットは本当に女子だけなのだろうか。
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 スマートフォンはいわゆる「キャズム(溝)」を超えて、広く一般に普及する段階に入ったといわれるようになった。日本独自仕様である従来の携帯電話を「ガラケー(ガラパゴス携帯)」などと呼ぶが、その機能を取り込んでユーザーの裾野を広げようとするスマートフォン、「ガラスマ(ガラパゴススマートフォン)」の機種も充実してきた。その段階で移行するのはどんな層なのか。
 確かに、「大きすぎる」「重い」という購買棄却理由で従来のケータイを使い続けていた若年女性層は狙えるだろう。だが、熟年女性層も大きく動くことが考えられるのだ。もっと明確にいうなら、「1・2・3」という短縮ボタンの付いた「らくらくホン」からの買い換えである。
 
 携帯電話の使用状況を見ると、残念ながら熟年男性は最低限の機能を使用するに留まっている。それに対し、熟年女性はアクティブに利用している。そのニーズを受け、「これって、もはやらくらくホンじゃないのでは?」というまでに進化している。次に来るのは、スマートフォンだ。
 そうした熟年アクティブユーザーは「1・2・3」というボタン付きである「高齢者向け」という機種のイメージに不満を持っている。故に、「らくらくスマートフォン」を作ってはいけないのだ。

 Xperia ray。それは、本格的な普及期に入ったスマートフォン市場で、イノベーション論でいうところの「アーリーマジョリティー(前期大量採用者)」を取り込むことである。
CMにあるように、「コミュニケーション・ターゲット」として若い女性に「女子向け」と訴求しつつ、「ビジネス・ターゲット」として密かに熟年女性・アクティブユーザーを狙っていると考えられるのである。
 
 
 
 

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