年末商戦初日の銃購入希望者が最高記録を更新―オバマ再選で
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2012年 11月 30日 17:40 JST 【肥田美佐子のNYリポート】
今年も、はや年末商戦が幕を開けた。
米調査会社ショッパートラックによると、ブラックフライデー(小売業界が年最大の黒字を記録する感謝祭翌日の金曜日)に当たる11月23日の客足は昨年より3.5%増えたものの、売上高は1.8%減ったという。米小売りチェーン最大手ウォルマートや米玩具大手トイザらスなど、多くの小売りが感謝祭夜にセール開始を前倒ししたことで、売り上げが一部食われたことも一因だ。
富裕層に対するブッシュ減税の失効や歳出削減が同時に起こる「財政の崖」への懸念などもあり、ブラックフライデーの週末(11月23~25日)の自己申告個人支出は一人平均84ドル(約6900円)と、昨年の103ドル(約8500円)を下回ったという統計もある(米民間世論調査会社ピュー・リサーチ・センター調べ)。
それでも、世界最大の小売業者団体「全米小売連合」(NRF)によれば、感謝祭当日に店舗やオンラインで買い物をした人は、全米で3500万人を上回る。昨年は2900万人だった。ブラックフライデーには、昨年より300万人多い8900万人が、店舗やネットでショッピングに興じた。
多機能携帯端末タブレットや液晶テレビなど、人気商品は多々あれど、今年も2年続きで前年の記録を塗り替えた売れ筋商品が、銃である。
昨年12月9日付の本コラムでは、2011年のブラックフライデーに、それまで最多だった08年を約3割も上回る12万9166件の銃購入用身元調査依頼が米連邦捜査局(FBI)に飛び込んだことを報じた。銃フレンドリーな州では、買い物客でごった返す銃器販売店もあったというが、今年のブラックフライデーは15万4873件と、昨年より20%以上アップし、1日の依頼数では最多となった。米全国紙『USAトゥデー』(11月26日付電子版)によると、FBIのコールセンターでは、2度にわたって、14~18分間、電話回線がパンクしたという。
米国では、度重なる凄惨な銃乱射事件にもかかわらず、合衆国憲法修正第2条の武装権を錦の御旗に国民の銃所有権を主張する米ライフル協会(NRA)などの権利拡大派が力を増す中、銃規制派は追いやられる一方だ。政治家も、圧倒的な資金力を武器にして猛烈なロビー活動と政治献金攻勢を展開する支持派を前に、銃規制論議に及び腰だ。言論や報道の自由などを定めた合衆国憲法修正第1条よりも、今や武装権のほうによりなじみがある人が多いという報道もある。
銃器店も、インテリアを親しみやすくしたり、オンラインで大々的にセールを打ったりと、商魂たくましい。たとえば、拳銃やライフル、散弾銃などを対象にした夏期・年末商戦の免税措置で知られる南部サウスカロライナ州に3店舗を構えるパルメット・ステート・アーモリーのウェブサイトでは、年末商戦のサービスとして、50ドル分買っただけで、送料が無料になる。11月いっぱいは439ドルの拳銃が329.99ドルにディスカウントされるなど、値引き品も目立つ。売れ行きは上々らしく、サイト上部に赤字で、「ご注文多数により、お届けには時間がかかります」と書かれている。
ウォルマートは6年前、大半の店舗で猟銃や弾薬の販売をストップしたが、深刻な業績不振を受け、ワンストップショッピング(1カ所で、すべてがそろう買い物)の機能と男性客の呼び込みをねらい、多くの店舗で販売を再開した(本紙2011年4月28日付)。
たとえば、同社のブラックフライデー・セール品の中には、最大30ドル引きと銘打った169ドルのショットガンや、親が子どもに贈ることが多い若年用ショットガン(99ドル)、64ドルのライフルなどがある。オンラインショッピングサイト「ウォルマート・ドットコム」には、家電製品よろしく、さまざまな銃が並び、「Gun(銃)」で検索すると、弾薬やアクセサリーも含め、商品数は3000件に達する。「銃器と弾薬の米最大の販売店として、武器をあまりにも容易に調達できるようにしている」(本紙)と批判されるゆえんだ。
実質送料無料で、オンラインでも手軽に買える環境が銃販売に拍車をかけるのか、今年7月、デンバー郊外で死傷者70人余りを出す米国史上最悪の銃乱射事件が起こったコロラド州でも、ブラックフライデーの銃購入身元調査依頼数が、昨年の1日の最多件数を約70件上回る4000件を記録した。同州の地方テレビ局「9ニュース」によると、コロラド州捜査局は休みを返上し、総出で、コンピューターによる身元チェックに当たったという。銃規制の緩い同州では、夏の銃乱射事件直後、銃購入用身元調査依頼が、前週に比べ43%はね上がった。
全米で最も銃規制が緩いといわれる中西部ユタ州でも、昨年のブラックフライデーの40%増となった。オバマ大統領の勝利が決まった08年11月の大統領選後のブラックフライデーがこれまでの最高記録だったが、今年は08年の31%アップという急増ぶりだ(地元紙『ディザレット・ニュース』 11月27日付電子版)。
昨年に輪をかけた銃販売急増の裏に、オバマ大統領の再選が絡んでいるのは言うまでもない。規制強化を恐れてのことだ。オバマ氏は、10月16日の大統領選テレビ討論会で、憲法修正第2条の武装権は尊重するとしたうえで、ブッシュ前大統領が反故にした、殺傷能力が高い急襲用ライフルの使用を禁じる法律を「再導入できるかどうか検討する」用意があることを明らかにした。全米最大の銃規制市民団体「ブレイディ・キャンペーン」も、これを歓迎している。
対する共和党候補のロムニー・前マサチューセッツ州知事は、いかなる銃規制にも賛成できないとの立場を繰り返した。すでに十分な規制がなされているからだという。だが、もしそうなら、なぜ毎年、約10万人もの米国人が、乱射事件や事故、警察による銃撃などで、死傷するのか。なぜ毎年、3000人近くの子どもが凶弾に倒れるのか。なぜショッピングモールで銃の携行が必要なのか。
22日の感謝祭の夜には、テキサス州サンアントニオのデパートで、ある男性が、列に割り込もうとした別の男性をとがめたところ、言い争いになり、顔を殴られたため、銃を取り出すという乱闘騒ぎが起こっている。しかし、米メディアによると、おとがめはなしだった。この男性は、銃を外から見えないようにして携行する「隠し持ち」の許可を取っていたからだ。
丸腰の相手に銃を向けることが合法とは、なんとも物騒な話である。