2012年11月2日金曜日

■中国には、国内で1千万人の雇用を創出する日本企業が不可欠


中国には、国内で1千万人の雇用を創出する日本企業が不可欠
http://news.infoseek.co.jp/article/businessjournal_20121029_10001
Business Journal(2012年10月29日06時05分)

 日本政府による尖閣諸島国有化に対する中国での反日デモを契機に、日本企業の間では「中国とどう向き合うか?」という、中国リスクに対する対応策に大きな関心が高まっている。

 改革開放路線から20年間、中国は豊富で安価な労働力による人口ボ-ナスの恩恵と、日本や欧米先進国による積極的な外資導入をテコに、高度経済成長を続けてきた。しかし、ここにきて中国は、このまま中進国にとどまるか、それとも先進国入りできるか、重大な岐路に立っている。

 中国では、経済成長の最大の原動力といわれる農村の余剰労働人口が、2013年から減少に転じ、それ以降はこれまでの人口ボ-ナスの恩恵から人口減少が経済不振をもたらす人口オ-ナス(高齢人口が急増する一方、生産年齢人口が減少し、経済成長の重荷となる状態)へと移行する。その結果、労働力不足と労賃の上昇により、経済成長に大きなブレ-キがかかる「ルイスの転換点=成長の壁」(英国の経済学者ア-サ-・ルイスが提唱)に直面する。

●深刻な「過剰」に苦しむ中国
 すでに数年前から中国の人件費の急激な上昇と人民元高で、中国製品の国際競争力は急速に低下している。とりわけ、中国の輸出製品は労賃の安さを武器にした低付加価値製品が多いこともあって、国際競争力は長期低下傾向にある。そのうえ、2008年に起こったリ-マン・ショック後の4兆元規模の景気対策による副作用もあり、鉄鋼や造船など、国営企業や地方企業ともに深刻な設備過剰・人員過剰・在庫過剰の問題に苦しんでいる。

 中国政府は、これまでの安価な余剰労働力と低付加価値製品に依存した産業構造を、生産性向上を実現して高付加価値製品に支えられたハイテク産業に転換しようとしているが、現実はなかなかうまくいっていない。それどころか、不動産バブルなど数百兆円という膨大な不良債権を抱え、中国経済は崩壊するのではないかととの指摘さえある。

 中国がルイスの転換点を乗り越えられるか否かは、そのまま中進国にとどまるか、それとも先進国入りに飛躍できるかどうか、歴史的な転換点に立っていることを意味する。

 欧米先進国や、日本・韓国・シンガポ-ルなどアジアの先進国は、ルイスの転換点を克服して先進国入りを果たした。先進国入りに必要な要件として、その決定的なカギを握るのは、

 (1)経済成長を長期にわたって支える政治的・社会的安定を確保し、
 (2)安価な労働力でなく高い労働生産性により経済成長を実現していく「生産性革命」

の実現である。(1)の政治的・社会的安定に関していえば、尖閣問題に端を発した反日デモはまったくマイナスに働き、中国社会を深く蝕んでいる貧富の格差・不平等や役人・官僚の汚職問題と共に最大の中国リスクとなる。

●反日デモが阻害するものとは?
 中国はこれまでの歴史において近代化運動に3度挑戦した。第1回は清朝末期の洋務運動で、清朝政府の腐敗と列強侵略により挫折。第2回は中華民国の近代化運動で、これも日中戦争や内戦などにより挫折。そして第3回は共産中国での近代化運動で、文化大革命により挫折した。中国にとって今度で4度目の近代化への挑戦となるが、ここにきて勃発した偏狭なナショナリズム、反日デモは間違いなく近代化挑戦を阻害する重大な要因となる。

 現在、中国社会が抱える深刻な貧富の格差・不平等、役人官僚の腐敗・汚職問題などを考えると、反日デモは何かのきっかけで容易に反政府デモに転化しやすく、深刻な政治的・社会的な不安定をもたらす。持続的な経済成長は政治的・社会的な安定なくしてあり得ない。それに、国家間の国境・領海・領土問題は古今東西にわたって軍事的な武力行使や偏狭なナショナリズムの扇動で円満に解決した事例は歴史上一つもない。時間をかけて粘り強く知恵を絞り、政治力や外交力を駆使して話し合いで解決するしかない。
 (2)の生産性革命についていえば、中国が近代化を成し遂げ、先進国入りするのに不可欠な「生産性革命による経済成長・発展」を実現するには、トヨタやパナソニックなどもの造りに精通した日本企業の技術協力なくして非常に難しいということだ。中国は日本を抜いてGDP世界第2位になり、「もう日本に配慮する必要はない」というおごった気持ちや自信があるのか、この厳しい現実をよく理解していない。

 現在中国に進出している日系企業は、大企業から中小企業まで含めて2万数千社、これら企業が雇用している現地従業員は400~500万人に上る。そのうち製造業が6割以上を占め、従業員の家族を含めると、日系企業は1000万人以上の中国人の生活を支えている。

 製造業はこれまでも、そしてこれからも中国人の雇用と経済成長を支える最大の産業である。もし、日本のメーカーが撤退したり、生産性革命を実現できず国際競争力を失って多くの中国企業が倒産したりすれば、大量の失業者が溢れる。彼らは反政府活動や政治的・社会的不安定の最大の温床になる。中国が政治的・社会的不安定に陥り、経済的にも生産性革命に失敗すれば、中進国の罠に陥って4度目の近代化挑戦=先進国入りも不可能になろう。

●日本の技術協力なくして、中国の発展はない?
 中国経済の最大の原動力である製造業において、低付加価値の産業構造のままにとどまるか、生産性革命を実現して高付加価値の産業構造に転換できるか、いまその正念場にあるといってよい。「製造業における生産性革命」を実現するのにきわめて重要な技術・ノウハウ・経験・人材・事例(成功事例も失敗事例も)を豊富に持っている日本企業の技術協力なくして、中国の先進国入りは難しいとさえいえる。この事実を中国は冷静に考えるべきであろう。同時に、日本にとっても中国との関係は国内市場が縮み傾向にある中、今後の成長・発展の大きな力になることは間違いない。

 中国リスクがあるからといって、日本企業が反日デモに反発して中国市場から安易に撤退するのは決して得策ではない。軍事用語で核抑止力という言葉があるが、中国との経済取引・貿易関係にはかなりの「したたかさ」が必要である。多少の政治的・外交的な緊張や軋轢があっても、日本との協力なくして中国の発展はないと彼らに思わせ、中国の圧力や脅威を押さえ込めるだけの「経済的抑止力」を持つことが大事になる。

 経済的抑止力とは、先進技術での圧倒的な優位性、核心技術のブラックボックス化、知的所有権の行使、粘り強い技術交渉力、経験豊富な人材による技術指導・教育訓練、日本ブランドの浸透力と宣伝活動などを組み合わせた総合力を確保し、中国リスクに対して確実な抑止力を発揮できるようにすることである。情緒的・感情的に対応したほうが、負けである。




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