2012年9月25日火曜日

■【日本版コラム】米国の「学校教育」は幼稚園から 学力を重視し過ぎとの声も


【日本版コラム】米国の「学校教育」は幼稚園から 学力を重視し過ぎとの声も
ジェンキンス沙智の米国ワーキングマザー当世事情
http://jp.wsj.com/US/node_518288?mod=Center_Column
2012年 9月 25日  12:50 JST

 9月に入り、米国の大半の学校では長い夏休みが終わって新学年がスタートしている。 町には黄色のスクールバスが戻り、朝早くから子供達の元気な声があちらこちらで聞こえるようになった。

米テキサス州オースティン近郊にあるキンダガーテンの授業風景(9月)
 筆者の5歳になる息子も、今年から日本の幼稚園年長に相当するキンダガーテンに通い始めた。家の近所の公立小学校に併設されている幼稚園で 、毎日7時間みっちり組み込まれたスケジュールをこなしている。

 日本で育った筆者の感覚では、「学校」と言えば小学校からで、幼稚園や保育園は就学前に集団生活に慣れるために主に遊びを通じて社会性を学ぶ場所と思っていた。もちろん知的な発達を促す目的もあり、その分野に力を入れている園も存在するが、日本では教科等の学習は小学校1年生からというのが一般的な見方ではないだろうか。

 しかし、米国では「入学」と言えばキンダガーテンに入ることで、授業も極めて体系的な教育カリキュラムに沿って進められる。義務教育の一環ではない州が多いが、対象年齢(5~6歳)の子供はほとんどが公立か私立のどちらかに通っており、読み書き、算数、理科などの授業を受けている。

 筆者が2010年に再渡米して初めて出会った言葉に、「School Readiness(スクール・レディネス)」という言葉がある。文字通り訳すと「就学準備性」だが、米国では「キンダガーテンに入るうえで必要なスキルをそれ以前に身につけること」という意味で頻繁に使われる。必要条件リストの有無や内容は州や学区ごとに異なるが、概して識字、数概念の理解、認知力、協調性、体の発達など様々な面で子供が入学直後から学校生活についていけるように準備することを表す。

 ただし、有識者に話を聞くと、研究者や教師、子供を持つ親など、聞く人によって「School Readiness」をどう把握しているかには大きな差があり、研究者は協調性や感情面での発達に重きを置く傾向がある一方、親は「読み書きができる」「数が数えられる」「形の名前が言える」など基礎学力を重視する人がほとんどだという。

 そのために、就学前の子供をプリスクールやプリキンダガーテンと呼ばれるコースに通わせる親が多い。これらは保育園に組み込まれていることが大半だが、授業料さえ払えば保護者の就業状況に関係なく入園できるため、仕事上の理由以外でこうした施設を利用している親はほぼ口を揃えてその動機を「キンダガーテンへの準備」という。

 教育分野における様々なテストを開発・提供している非営利機関、教育テストサービスのデボラ・アッカーマン博士によると、「School Readiness」の概念は1980年代末から普及し始め、特に「全米の児童が学習準備の出来た状態で学校に入学すること」を2000年に向けた目標と定めた1994年の教育法によって一気に広まったという。

 アッカーマン博士はその背景として、「厳しい学校教育に参加し、その恩恵を受けられるだけ学力的、社会的、精神的に発達していない児童は、キンダガーテンで学業不振に陥り、その後の小中高校でも学力に問題が生じ得ると考える親や教育者がいる」と指摘する。

 確かに、キンダガーテンの実際の授業風景を見学したが、ある程度の基礎ができていないと参加するのは厳しい内容だと感じた。自分の名前を書けることはもちろん、指定された場所にきちんと座って先生の話を聞くことや、指示された通りに活動を行うことなど、学校生活の基本が「出来るもの」として授業が進められる。また、最小限の助けのみで宿題を終わらせること、ランチタイムには、メニューから自ら選んで専用のカードで購入することなど、高い自立性も求められる。

 学力が重視されているがゆえに、対象年齢になってもすぐ子供をキンダガーテンに入れず、1年遅らせて他の児童よりも発達が進んだ状態で入学させることで、競争優位に立たせようとする親が増えているという。この「Redshirting(レッドシャーティング)」と呼ばれる手法を利用する親は1970年代から3倍以上に増えたとのデータもある。

 しかし、エール大学小児研究センターのウォルター・ギリアム博士は、この方法が子供に長期的な優位性を与える調査結果は出ていないと話す。

 同氏は、 「キンダガーテンへの準備で最も大切なことは、キンダガーテンが子供にとって居心地の良い場所になるようにしてあげること」と述べ、幼少期から学力の発達に傾倒する風潮に疑問を呈する。

 入学前から学校生活に必要な学力が備わっているかどうかよりも、「学ぶことが好きという気持ちや学校に通うことが好きという気持ちなど、充実した学校生活を送れる思考を身につけているかに目を向けるべき」というのが同氏の見解だ。

 ただ、楽しい学校生活を送りながら、やはり学力も後れを取らずに伸ばして欲しいと願ってしまうのが親心。特に、各学年の修了までに覚えなければならない単語などが決まっていることを考えれば、就学前から基礎学力を付けさせたいと親が考えるのも無理はない。教育機関がそれに答えようとするのも必然的な動きで、この循環が続く限り今後も学力重視の幼児教育に拍車がかかる可能性はある。

 かくゆう筆者の息子はすでに、「先生の指示に従えなかった」「ランチ中に正しい行動を取れなかった」「先生の話を集中して聞けなかった」などの項目に印のついたイエローカード的な紙を渡されて帰って来た。

 この紙には生徒自身と親が署名しなければならず、ルールを守れない状態が続くと問題行動の対処法が話し合われるらしいため、そうなる前に家でのしつけを見直そうと自然に親の背筋も伸びてしまう。他のクラスメートも多数渡されているらしいが、「幼稚園だから」という甘えは許されない現実を親子で実感しているところだ。




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