慶應義塾幼稚舎に受かる理由、落ちる理由
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2009年02月25日
落ちる理由はないが、受かった子には明確な理由がある
慶應義塾大学までの一貫教育と、集まる子供のレベルの高さ、得られる人脈の強さと素晴らしさから、私立小学校の中では抜きん出た地位を守り続ける慶應義塾幼稚舎。小学校受験を考える親子にとっては最高峰の存在であり、常に憧れの的です。しかし、その狭き門から「受かるのは宝くじに当たるようなもの」とも言われますが、本当にそうなのでしょうか?
毎年多数の慶應幼稚舎合格者を輩出する「ジャック幼児教育研究所」の理事、大岡史直氏から、幼稚舎受験の実態を伺いました。大岡氏によると、「幼稚舎に落ちる理由はないが、受かるには理由が必要」とのこと。果たして、その真意とは?
受かる子が当てはまる3つのパターン
「慶應幼稚舎はコネがないと絶対に入れない」など、様々な噂が飛び交っていますが、その中には核心を突いたものも、全くの想像でしかないものもあります。
大岡氏いわく、幼稚舎に受かる子供は、次の3つのうちのどれかに当てはまるそうです。
(1)慶應幼稚舎に縁がある子供
親が慶應幼稚舎出身、または兄弟姉妹が慶應幼稚舎に入っていれば、6~7割前後が合格します。
(2)縁はないが、入れると慶應にメリットがある子供
大企業経営者、政治家、著名人の子息など、入れることによって後々慶應全体にメリットをもたらすと思われる子供です。
(3)縁もメリットもないが、一目見て魅力があるとわかる子供
本当に優秀な子供は飛び抜けて魅力的なオーラを放っているため、一目見てわかるそう。塾で「慶應に受かるとすればこの子」と判断していた子供は、やはり合格していくといいます。
縁故があれば必ず入れるわけでもありません。例えば、兄弟姉妹が慶應幼稚舎に入っていても、3割の子供は落ちてしまうわけです。この差は何かというと、強力な親を持つ(2)の子供がライバルだった場合です。縁がある家庭の長男がすでに入っていれば、はっきり言えば、次男は取らなくても、慶應的には問題はありません。そこで、縁はないが多大なメリットをもたらすと予想できる親の子供が受験した場合、縁ある家庭の次男より、そちらが優先されることになるのです。
幼稚舎合格者のほぼ1/3を輩出する塾「ジャック」とは?
2009年度、慶應義塾幼稚舎の定員144名(男子96名、女子48名)に対し、ジャック幼児教育研究所からは50人の合格者が出ています。なんと、約1/3が1つの塾から出ているのです。しかも、ジャックは大きな宣伝もしないのに、クチコミで生徒が集まるのが特徴。毎年、幼稚舎に合格した親から聞いたり、薦められたりしてやってくる親子がほとんどです。
2009年度の幼稚舎の試験では、お祭りのBGMが流れる中に縁日のような屋台がいくつも出て、そこで自由に行動できるという試験が出ました。子供たちはヨーヨーすくいなどの縁日でひたすら自由に遊べばいいのですが、そこで試験官に見られているのは「どれだけ夢中で楽しく遊べているか」。試験の内容は絵を描く、運動、遊びなど毎年様々ですが、どれだけ勉強ができるかはほとんど問題にされません(ペーパーテストはなし)。勉強よりも、いかに夢中になって物事に取り組めるか、磨けば光るという可能性を感じさせてくれるかが大事なのです。
またジャックからの合格者のうち、約30~40人は何かしら慶應との縁がある子供で、全く縁がない子供は10~20人ほどだといいます。つまり、縁がない場合、いかにこの10~20人の中に入るか?というのが最も大きな問題です。慶應幼稚舎の倍率は男子が約15倍、女子が約20倍。女子は募集枠が男子のほぼ半分なので、縁故なく受かるのはまさに至難の業です。
「ジャックがほかの塾と異なるのは、受かる資質を持つ子供が多く集まってくるということが1つあります。しかしそれ以上に大きいのは、残りの10~20名の枠に入る子供を育てられる、原石を磨き上げるノウハウを、長年かけて蓄積していることなのです。」(大岡氏)
元々体操教室から出発し、すでに40年の歴史がある「ジャック」。慶應幼稚舎だけでなく、早稲田実業学校初等部、青山学院初等部、学習院初等科など毎年多数の有名小学校合格者を出しています。そのノウハウとは、一体どんなものなのでしょうか?
「本物の輝き」を放つ子供を育てる方法
ジャックが、原石である子供たちを光らせるためにとる、最も有効な方法。それは、ずばり「子供に自信をつけること」だそうです。一見簡単そうですが、親は自分の子供を毎日見ているため、子供のどこがすごいのか、どう成長したのかを客観的に見られません。
そのため、ちょっと失敗しただけで「こんなこともできないの」とか「あなたにはがっかりした」のようなネガティブな言葉を子供に投げかけます。しかし、それでは子供は「自分はできない子なんだ」と思い込み、いかに資質が素晴らしくても、伸びない原因になるのだそうです。
ジャックの教育の基本は、ひたすら自信がつく経験を重ねることで、本物の輝きを放つ子供を育てること。慶應に受かるためには短所は置いておき、長所を伸ばすことだけ考える、という教育法をとります。
例えば、あるテーマについて1分間しゃべり続けることができれば、「スーパー博士」という称号を与える遊びがあります。子供たちはそれぞれ、みんなの前に出て、自分が調べてきたことを発表するのです。
ある年長の男の子は、58秒間でビートルズのことを語りました。それが、大人も知らないような人間関係や曲の詳細までを語った素晴らしいスピーチだったため、周囲の親たちも大感動。そのような場合、子供も大人たちも惜しみない賞賛を彼に与え、「いかにあなたはすごいのか」、周囲が気付かせてあげるのだそうです。
スピーチに限らず、例えば運動だったらとにかく走るのが一番速い、鉄棒ができる、跳び箱が跳べるなど、あらゆることで自信をつけさせます。様々な課題をクリアすることで、裏付けのある自信をつけ、子供の可能性を引き出していくのです。
また知識ではなく、子供に知恵と発想力をつけるのがジャック流です。慶應にはペーパーテストがないというのもありますが、知識よりも、いかに柔軟な発想力をつけるかに重点が置かれています。何か問題に突き当たった時にそこであきらめてしまうのではなく、ほかに解決方法がないか考える。そして発想を転換することで、自分の手で問題を解決する。そんな子供に育てることを目標にしているのです。
合否に関係なく残るのは、「本物」を知った経験
子供が2、3歳の頃から教室に通わせている親は多いですが、慶應幼稚舎の場合、通わせた年数はあまり関係ありません。本当に優秀な子供は、例え1年間しか通わなくても十分光り輝き、突出した魅力をまとって合格していくといいます。
というと「うちの子供はダメかも」と思う方も多いと思いますが、慶應に受かるということはそれほど大変なことであり、むしろ「受からない方が普通」なのです。
「倍率が4倍くらいの学校では落ちるのは何らかの理由があります。しかし、慶應に落ちるのに理由はない。合格した子にだけ、受かる理由がある」と大岡氏は語ります。
では、慶應に受からなかった子供は塾に通った意味がないかというと、決してそうではありません。受験会場から帰ってきた子供たちは、口々に「すごい子たちばかり来ていた」「あの子はこんなにすごかった!」と感想を伝えます。1年間もしくはそれ以上真剣に塾に通い、「本当に頑張るとはどういうことか」「自分を信じるとはどういうことか」を学んできた彼らは、同じレベルにある子供たちがわかります。そして、お互いの中に宿る「本物」を感じ取れるようになっているのです。それは、成功体験を積んだ人にしかわからないもの。
幼くして質の高い学び方を体験した子供たちは、同世代の何もしない子供たちよりは、一歩も二歩も先を行っています。もし落ちたとしても、子供の中に確実に残る貴重な財産となるのです。
子育てに自分なりの哲学を持つ親が勝つ!
幼児の受験は「親の受験」とも言われますが、ジャックには保護者向け講座もあります。慶應が第一志望の親の中には、慶應のことしか考えられず、第二志望以下の学校が決められない「慶應病」の人も多いのです。
そういう親は、慶應に落ちて、初めて第二志望、第三志望を考えることになります。慶應に特別な気持ちを持つことは良いですが、試験直前で振り回される子供はたまったものではありません。「慶應病」にならないために、保護者の考え方をアドバイスし、高い意識を持って受験に臨めるよう、ジャックはサポートしてくれます。
また、受かる子供の親にも1つの共通項があります。それは「子育てを人任せにしない」ということ。厳しい親、優しい親など子供への接し方は家庭ごとに異なります。しかし優秀な子供の親は、「子育てに自分なりの1つの哲学を持って取り組んでいる」ことが同じなのだそうです。
ジャックの教育方針は、小学校受験にくくるだけではもったいない、「子育ての本質」を提示しています。幼稚舎受験は、決して宝くじではありません。元々魅力のある子供がジャックなどの塾を通してさらに磨かれて、順当に選ばれていたのです。
そして、結果も大切ですが、重要なのは受験を通じて、子供が一回りも二回りも大きく成長してくれること。「小学校から嫌でも勉強するのだから、幼稚園では遊ばせてやりたい」という親もいます。ですが、幼稚園だからこそ、その年代でしかできない子供の磨き方もあるのです。
大切な子供の最初のキャリアとなる、幼稚園受験や小学校受験。あなたはどう選択しますか?
大岡史直(おおおか ふみただ)
1962年東京都生まれ。立教大学経済学部卒業後、ジャック幼児教育研究所に入所。現在同研究所理事。毎年1000人を超える生徒を有名幼稚園・小学校に合格させるなど抜群の実績を誇る。著書に『子供はなぜ「跳び箱」を跳ばなければならないのか?』(小学館)など。