2012年9月18日火曜日

■中国の賃金上昇はメキシコに有利か 違法ドラッグ問題など課題も


中国の賃金上昇はメキシコに有利か 違法ドラッグ問題など課題も
http://jp.wsj.com/Economy/Global-Economy/node_513339?mod=WSJFeatures
2012年 9月 17日  16:37 JST

 中国の上昇する賃金と経済成長の減速はメキシコにとって、この10年の間に安い労働力を求めて太平洋を横断した企業を一部呼び戻す好機となっている。

 10年前、中国の賃金はメキシコの4分の1だった。だが今、メキシコはすでに米国市場向け製品をより低コストで製造できる場所になっている可能性があると指摘するのはボストン・コンサルティング・グループだ。同グループは中国の製造業の平均賃金は今年、生産性を考慮するとメキシコのそれを抜いたと予測している。メキシコの労働者は典型的に中国の労働者より1時間当たりの生産量が多い。加えて、米国と近接する位置関係は、中国に比べてより速く、より安いコストで米消費者に製品を届けられることを意味する。

 米セントルイス本拠のプリント基板EMS大手バイアシステムズ・グループはこの1年間に、中国からメキシコに製造部門の一部を戻した。「中国でのコストの上昇に顧客が対応するのに数年を要した。しかし今、ここで製品を作ることに間違いなく一層の興味をもっている」と、メキシコのバイアシステムズで責任者を務めるオメロ・ガリンド氏は話す。

 だが中国は依然として、数億人の消費者といった利点を含む大きな強みを持っている。中国の賃金が上昇すれば、こうした消費者はただ他国のための製品を製造するだけでなく、自分たちが製品を買うお金をもっと持てるようになる。

 またメキシコに製造業者が大挙して戻ってくると予想する向きはほとんどいない。違法ドラッグを巡る紛争が企業を震え上がらせているうえ、メキシコには熟練された労働力の層もなければ、サプライチェーンも構築されておらず、中国の製造業の力量に本気で挑戦するには心もとない。

 しかし中国の賃金が上昇するなか、メキシコは最良の場所に見える。コンサルティング企業アリックス・パートナーズが2011年12月に発表した調査によると、メキシコ以外の中南米諸国をすべて合計した規模を越える製品を輸出しているメキシコは、米国向け製品の製造で最もコストがかからない場所になっている。

 米国との国境近くで操業する工場からは、アジアからよりも早く米国市場に製品を供給できる。特にカスタムデザインが重要なものや、流行に左右されやすい製品ではなおさらだ。

 また、かさ高のものや、輸送にコストがかかる製品にとって、メキシコは魅力的だ。メキシコでの自動車生産は記録を更新した。日産自動車やフォルクスワーゲンといった米国以外の自動車メーカーも数十億ドルをかけた工場の建設を予定している。

 この10年でメキシコほど中国の台頭による打撃を受けた国はない。1994年に発効した北米自由貿易協定(NAFTA)に署名して以降、メキシコは新興国市場の先駆者だった。メキシコは当初、自由貿易協定の恩恵を受けた。しかし、メキシコに業務を移転した企業の多くは後に、メキシコの関税面での利点を相殺しても、なお余りある安い賃金を求めて中国へと移動していった。

 中国は現在、世界へ向けて年間約1兆9000億ドル(約149兆円)相当の製品を輸出している。これはドル建てベースでメキシコの約5倍だ。10年前、中国の輸出はメキシコの約2倍だった。シンガポールに本拠を置くエレクトロニクス機器メーカー、フレクトロニクス・インターナショナルによると、中国の平均賃金は2000年の1時間当たり0.6ドルから2.5ドル(福利厚生含む)へ上昇した。同社はメキシコに4万人、中国に10万人の労働者を擁している。

 同社によると、メキシコの平均賃金は1時間約3.5ドル(同)だという。同社は向こう数年のうちに、中国の賃金はメキシコを追い抜く可能性が高いとしている。

 メキシコが敬遠されている主な理由は暴力だと話すのは、米フロリダ州本拠のエレクトロニクス機器メーカー、ジャビル・サーキットの製造部門でエグゼクティブ・バイス・プレジデントを務めるビル・ムーア氏だ。昨年、メキシコでは違法ドラッグにからむ殺人で1万6000人が命を落としたとみられており、この5年ではその数は5万人を超える。2011年の国連リポートによると、前年にメキシコで起きた殺人の割合は10万人当たり18.1人で、米国の5人や中国の1.1人よりはるかに多い。

 自動車や航空産業といった分野では、メキシコに強力なサプライチェーンが構築されているが、中国と競合するにはまだサプライヤーの多様性に乏しい。

 2001年から11年の間に、メキシコは世界経済フォーラムの国際競争力ランキングで16位順位を落とし58位になった。一方の中国は39位から26位に上昇した。2001年のランキングは両国とも同じような順位だったが、安全性(139位)、労働市場の効率性(114位)、教育の質(107位)といった分野でメキシコは中国と差がついた。

記者: David Luhnow、Bob Davis



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