2012年4月3日火曜日

■最後の大型ブランドが上陸 ファストファッション戦争再燃か



最後の大型ブランドが上陸 ファストファッション戦争再燃か
http://diamond.jp/articles/-/16873
2012年4月2日 週刊ダイヤモンド編集部

ファストファッションの最後の大型ブランドといわれる、アメリカンイーグル(American EAGLE OUTFITTERS)がついに日本に上陸する。欧米ファストファッションブームが再び巻き起こる可能性がある。ただ各社、ブームの成否とは関係なく、定着、拡大期に移行しつつある。


 「アメリカンイーグルの日本での成功は間違いない。まずは50店舗の出店を目指す。3年で売上高100億円を確保したい」

 日本における総販売代理店であるイーグルリテイリングの山内秀樹ディレクターは自信を持って語る。イーグルリテイリングは紳士服の青山商事と住金物産の合弁会社だ。

 欧米大手ファストファッションで唯一、日本未上陸だったアメリカンイーグルが18日、東京・原宿の神宮前交差点に面した一等地にできる商業施設「東急プラザ表参道原宿」内に出店する。ジャスティン・ビーバーらアメリカンセレブ御用達のカジュアルブランドとして人気が高く、米国の大学生・高校生の定番ブランドだ。ファッション性が高い割に価格は安い。日本での販売価格は内外価格差をほとんど設けず、ジーンズなら4900~5900円で販売する予定だ。

 山内氏が成功に確信を持っているのは、優れたビジネスモデルがあるからだ。

 ファストファッションといっても、同ブランドは半年以上時間をかけてものづくりするSPA(製造小売り)の色合いが強く、価格以上の品質に自信を持つ。店舗管理のマニュアルは厚さ10センチメートルを超えるものが10冊以上ある。セールストレーニングの方法からディスプレー方法、マネキンの着せ替え方、バックミュージックの音量、香りやライトの当て方まで事細かに規定している。こうした念入りな店舗の雰囲気づくりが米国の若者の心をくすぐるのだ。


Gapの第3ブランド
オールドネイビーも上陸

 日本にファストファッションブームが巻き起こったのは2008年のこと。安くて多店舗展開するファストファッションといえば日本ではユニクロが有名だが、世界にはより巨大なファストファッションが存在する。その1つであるH&M(Hennes&Mauritz)が08年に東京・銀座に初出店し、09年には「1万円あればキュートな服からバッグ、靴までトータルコーディネートできる」を合言葉にしたフォーエバー21(FOREVER21)が原宿に進出。「黒船襲来」と称され、両店とも連日入店待ちの行列ができるほどの盛況となった。

 現在は行列ができることは少なく、落ち着いてきたがアメリカンイーグル以外にも話題のファストファッションが進出を控えており、ブーム再来の兆しがある。

 「家族全員が楽しめる製品を魅力的な価格で提供したい」

 日本進出は1995年と比較的古いGapは、手の届く高級感が売りの第2ブランド、Banana Republicに次いで、第3ブランド、オールドネイビー(Old Navy)を今夏以降に日本に投入する。Gapは日本で定番になっているが、欧米ファストファッションが次々と上陸する中で割高感が出てきた。そこで弟ブランドで低価格帯のオールドネイビーを米国以外で初出店させて、日本市場の深耕を狙う。話題となるのは必至だろう。

 ちなみにオールドネイビーが出店するのは19日に東京・お台場にオープンする商業施設「ダイバーシティ東京プラザ」。日本初出店4店舗を含む154店舗の大型施設で、ファストファッションとしては、アメリカンイーグル、H&M、フォーエバー21、ZARA、Bershka、ユニクロが一堂に会する。事業主体の1社である三井不動産は、「1店舗当たり1500平方メートル以上ある広い店舗が多いため、まとめて1ヵ所で見られる商業施設はなかった。買い回りしやすく、集客の核の1つになるだろう」と期待している。


 出店ラッシュは続く。H&Mは4月に一挙に4店舗を出店。フォーエバー21は、4月に3店舗を出店するだけでなく、「日本での成功には満足しているが、さらに上を目指している。市場にはまだ多くのチャンスがある。今年は飛躍的な成長を遂げるために準備しているところだ」と大量出店に意欲的だ。相次ぐ出店で、08年のようなファストファッションブームが再燃しそうだ。

今もなお高収益
郊外などに展開へ

 ところで欧米のファストファッションは本当にもうかっているのだろうか。アパレル業界関係者の中には、メディアへの露出が少なくなったことから、「外資の撤退が相次ぐのではないか」とささやく人さえいる。

 しかしコンサルティング会社、ディマンドワークスの齊藤孝浩代表は、「多くのブランドは今でも高水準の売り上げ効率を保っており、まだまだ日本市場で拡大の余地があるだろう」と分析する。

 例えば、H&Mの11年度の日本の売上高は15店舗で15億スウェーデンクローナ(約194億円)と、わずか4年で中堅アパレルの域に達した。1店舗当たりの売上高は13億円と驚異的な数字だ。


 上図のH&Mの日本事業の推計を見てほしい。四半期ごとの売上高を店の面積で割ることで、坪(3.3平方メートル)当たりの売上高が推測できる。

 日本進出時は坪当たりの月商は222万円だった。通常、都心の店舗なら坪当たりの月商が30万円、郊外の店舗で同10万円あれば十分に採算ラインであることから考えると、莫大な利益を生んでいたことがわかるだろう。

 その後、ブームが落ち着いてきたことで同19万円まで落ちたが、直近では同28万円まで回復しており、今でも十分に利益が出ているもようだ。


 H&Mは「日本の業績は他国に比べても高い水準にあり、成長の余地がある。地方の主要都市を中心に、郊外、路面店、ショッピングセンターなどあらゆる立地で出店のチャンスがある」と、今なお重要な市場に位置付けている。

 ただし小島健輔・小島ファッションマーケティング代表は、「ファストファッションといっても、きちんとしたものづくりをしていない会社は日本では受け入れられないだろう。撤退する会社も出てくるのではないか」と手厳しい。小島氏が独自に試算したところ、ユニクロの原価率は38%程度であるのに対して、欧米のファストファッションは20%台が中心になるという。

 ユニクロというクオリティが高いアパレルが存在するため、品質を向上させたり、日本人の体形やファッション性に合った日本仕様の商品を投入したりしなければ、撤退を余儀なくされるファストファッションも出てくるだろう。


 上表で取り上げた欧米企業の日本での売上高は合計で1000億円強とみられる。9兆円といわれる日本のアパレル市場ではまだシェアは小さい。ただし成長性は高く、1店舗の売上高が10億円を超えることもあるため、周囲のアパレルへの影響は甚大だ。

 主に百貨店に出店する大手アパレル幹部は「着実にわれわれのパイを奪っている」と認識している。実際、東京・渋谷では西武百貨店を挟み撃ちにする形でZARAが2店舗を出すという戦略的な出店も目に付く。取れるところからは取っておくという姿勢だ。

 また大手ファストファッションは日本未投入のブランドがあり、さらなる拡大の余地がある。ファストファッションは、ブームから定着、さらに拡大期へと入り始めたようだ。




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