文化支援は税金のムダ遣いか
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/120729/ent12072913220004-n1.htm
2012.7.29 13:18大阪観光コンベンション協会会長・津田和明
財政が苦しくなると、削減対象になるのは文化予算のようだ。国家予算は文化庁が頑張るので極端に減ることはないが、地方は首長の意思次第で大きく変わる。その典型が大阪市である。橋下徹市長は職員労働組合や教職員組合の既得権を徹底的に排除して大きな成果を挙げた。歴代市長ができなかった改革を成し遂げたのは立派だが、文化事業への支援を同じ手法でバッサリ削っては営々と育ててきた大阪の文化を枯らしかねない。
民主党政権になって、財政再建のために「事業仕分け」の場面がマスコミに再三登場した。「効果を数字で表せないものはムダ」と、独立行政法人や政府系の団体に仕分け人たちがコストカットを迫る姿は小気味よく、国民は拍手を送った。惰性的に使われていたムダな経費が随分縮減されたと思う。
しかし、数字で表れないものをムダと決めつけられると成り立たない分野がある。代表的なのは文化事業である。食料は胃袋を満たし、文化は心を満たすといわれる。「楽しい」「うれしい」「癒やされた」といった思いを、数字で表すことはできない。
橋下氏は26日、大阪府知事時代に「2度目は行かない」と冷たく言い放った文楽を観劇した。補助金には関係ないというが、伝統文化の理解に前向きな態度は出てきたようだ。文楽が大阪にどのような貢献をしているのか、十分検討して結論を出してほしい。
文楽は数度の存亡の危機に耐えて今日まで400年間生き続けている。一貫して大阪に本拠を置き、全ての詞章は大阪弁で語る徹底ぶりである。大阪一色に染められた世界無形文化遺産を、大阪市のトップは大切にすべきだと思う。
クラシック音楽やバレエといった特別なジャンルに税金を使うことは欧米でも悩ましい課題だが、ロンドンやパリなど文化先進都市では市民サービスと割り切っている。高品質の音楽や芝居の入場料を少しでも安くして、鑑賞しやすくしているのだ。聴衆が増えれば芸術や芸能の品質はますます良くなる。客が芸を育てるのは洋の東西を問わない。
観光客誘致で都市間競争は今後ますます激化する。文化の薫りがする都市は人を集めるが、文楽公演が国内外で盛んに行われれば大阪のイメージもあがる。
新聞社は報道機関であるとともに、芸術展や芸能公演などを行う文化機関の役割も担ってきた。中立報道は重要である。と同時に自ら文化にかかわる立場を表明し、応援旗を振ることはできないか。
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【プロフィル】津田和明
つだ・かずあき 昭和9年大阪府出身。大阪大法卒。元サントリー副社長。
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