「名ばかり高収入」 家族旅行が家計圧迫…でもお金には代えられない
http://www.sankeibiz.jp/econome/news/120729/ecd1207291131001-n1.htm
2012.7.29 11:30
年100万の貯蓄減老後は年金頼みか
3年前に部長に昇進し、年収は1400万円を超えた。東京近郊にある住まいは4200万円の一戸建てだ。繰り上げ返済を重ね、住宅ローンは7年後に完済する。2000万円に及ぶ貯蓄もある--。
これが大手エネルギー系企業でコンサルティング業務に従事する石山賢介氏(仮名、47歳)の現況である。身なりに派手なところはない。ピンストライプのスーツとナイロン製の鞄は実用性の高さから選ばれたのだろう。澱むことなく的確に家計の実態を説明する様子からも、実務能力の高さがうかがえた。
石山氏の家計を圧迫している要因の一つは、3人娘の教育費だ。上から高校3年、高校2年、中学1年で、3人とも大学まで進学予定。塾などの教育費は月12万円にのぼる。3人はいまのところ公立だが、大学はわからない。2008年度の文部科学省の調査によると、私立大学に4年間通った場合の納付額は約442万円(全平均)。石山氏は一人当たり600万円と試算し、現在までに2000万円を貯めた。だが、それでも安心はできないという。
「大学だけではなく、成人式や結婚式を考えると恐ろしくなってきますね。いつ発火するかわからない爆弾を抱えているようなものですよ」
貯蓄だけで安心できないのは、年収が激減し、毎年の「決算」が赤字になっているからだ。部長昇格後、石山氏の年収は会社の業績と大きく連動するようになった。業績悪化が直撃した昨年は、3年前のピーク時に比べて400万円減った。毎月の手取り45万円から、教育費のほか住宅ローン、食費、光熱費、家族5人の携帯電話代などを差し引くと、貯蓄まで手が回らないという。しかし1000万円超の年収でも足りないものなのか。詳しく話を聞くと、2つの出費が黒字化を妨げていることがわかった。
ひとつは、年2回の家族旅行だ。家事に追われる妻のために、「これだけは行こう」と約束している。国内が中心とはいえ、5人分の出費は痛手だ。去年の沖縄旅行でも80万円が消えた。
「でも、旅行は行くべきだと思うんです。普段は会話する時間もないし、家族が結束する意味でも続けたいですね」
もうひとつは交際費だ。異業種の人脈を広げることを目的に、週3回のペースで飲み会に参加する。さらに親しい仲間と月2回はゴルフに出かける。費用は毎月8万円程度。現在の収入に不満を持つ石山氏は、10年ほど前から転職の機会をうかがっている。社外の人脈拡大に熱心なのは、転職の際にそれが有利に働くと考えているからだ。しかし、皮肉にもこの費用が赤字拡大の一因になっている。
貯蓄残高は昨年の2100万円がピークで、この1年で100万円が目減りした。「最終防衛ライン」は1500万円という。不安はないのかと尋ねると、「悲壮感を漂わせるのは精神衛生上よくないですからね」と、ほほえんだ。
国産車にブラウン管でも借金200万円
大手情報系企業に勤務する古川卓治氏(仮名、40歳)も、「名ばかり高収入」の一人だ。新卒で就職したメーカーの待遇に不満を持ち、入社から3年後に現在の会社に転じる。昇格を重ね、年収は4年前に1000万円を超えた。4000万円で購入した駅から徒歩15分のマンションに、専業主婦の妻と小学4年の娘と3人で暮らす。
「大学の同期のなかでは比較的もらっているほうですね」
古川氏はそう自己分析したが、暮らしぶりは質素に見える。愛車は30万円で購入した国産中古車。冷蔵庫と洗濯機は独身時代に買った年代物。テレビはまだブラウン管だ。酒、タバコとは無縁。毎日の昼食は700円程度。それなのに懐が寒い。同世代のサラリーマンが、どのように家計をやり繰りしているのか不思議でならないと困惑する。
「うちのマンションにも2人の子供を私立に通わせて、外車に乗っている人がいます。勤務先を聞いても、ごく普通の会社なんですね。借金をしている様子もないし」
毎月の手取りは38万円。まず15万円を生活費として妻に渡す。住宅ローンと光熱費、娘の教育費などを差し引くと残りはわずか。古川氏は「自分の小遣いは5万円程度。贅沢をしているつもりはないんですが」という。
古川家も家族旅行が家計を圧迫しているようだ。古川氏は週末のたびにインターネットで次の旅行の計画を練る。一回当たりの出費は15万円前後。行き先は海外も少なくない。昨年は海外だけでもハワイ、グアム、中国と3カ所に行った。冬には月2回のペースでスキー場に通う。費用が比較的安く済むのは、古川氏が航空会社の上級会員資格を持っているからだ。特典航空券の取得が容易なため、週末のたびにネットで空席を探し、「せっかくチケットが取れたのだから」とホテルを手配する。古川氏は、「旅行貧乏といえば旅行貧乏かもしれませんね」と考え込んだ。
毎月の赤字は銀行のカードローンで補填している。クレジットカードの支払いも70万円程度をリボ払いにしており、借金の合計は約200万円。ボーナスで半期ごとに返済してきたが、借金額は増減を繰り返しながら徐々に増えている。しかし、まだ古川氏は慌てていない。カードローンやリボ払い残高の合計額は、「500万円までは許容できるかな」という。
余裕があるのは毎月妻に渡す15万円が貯蓄に回っている可能性があるからだ。航空会社のマイルを貯めるため、スーパーでの支払いなども家族カードで決済しており、妻が生活費を使う場面は少ない。実際、2年前に日本航空株の購入を夫婦で決めたときには、妻が300万円を用立ててくれた。株式投資は失敗に終わったが、イザというときには妻の貯蓄がある--。そう考えながら、具体的な金額は問いただしていない。
「収入がそこそこあって、極端に落ちることはないだろうという安心感があるからですね。外資系のように『明日から来なくていい』と言われる恐怖感もないですから」
2人の口から出た、似たような言葉が印象に残る。
「赤字に対する緊張感はありますが、40代でしかできないこともある。いましかできないことは、お金には代えられない」(石山氏)
「旅行を我慢すれば楽になるとは思いますよ。でも、我慢して我慢してお金を貯めて、さあこれからというときに死んでしまったら、何のための人生だったのか」(古川氏)
自分だけの贅沢など少しも考えないという2人は、赤字を解消する手立てについて今日も思案を巡らせている。
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