消費税増税で、大阪名物たこ焼きがピンチ!?
産経新聞 7月29日(日)
消費増税が実現すると、大阪名物のアツアツのたこ焼きがピンチを迎えるかもしれない-。その原因は、消費税増税に伴って導入が検討されている「軽減税率」の存在だ。消費税は所得の低い人ほど負担が重くなるが、これを緩和するのが軽減税率。世界各国では食料品などの生活必需品に限って税率を低しているが、各国の基準は実に曖昧だ。例えば、モノが温かいか冷たいか、持ち帰りの個数が5個を超えるかどうか…。すでに英国では庶民に人気のパイに適用するかどうかで論争が起きた。軽減税率が導入されば、大阪でも“たこ焼きをめぐる暴動”が起きるかも!?
英国で論争となったのは、肉や野菜を包んで焼いた半円形のパイ「パスティ」。街角で200~500円で売られている。英国には、日本の消費税に当る付加価値税(VAT)があり、モノを買ったり、サービスを受ける際に20%の税金がかかる。食料品などは原則、非課税だが、調理された食べ物を、店内で食べる外食の場合は標準課税となる。つまり基準は、温かいのか、そうでないのか。では、外食と食料品の「中間」にあたるテークアウトの総菜などはどうなるのか。原則に従えば、温かい食べ物は標準課税の20%がかけられ、温かくないものは0%。温かいものでも、品質を保つ目的なら非課税となる。
例えば、パン屋で買った持ち帰り用の冷たいサンドイッチは非課税。ファストフードのハンバーガーは20%がかかることになる。財政再建のひとつとしてパスティへの課税が検討されたのだが、国民は猛反発。結局、課税は見送られた。カナダも英国同様、食料品は非課税だが、レストランなどの外食サービスでの飲食は課税の対象となる。ただ、ファストフード店など、テークアウトが可能な店では持ち帰り用か、店内で食べる外食なのか判断が難しい。
このため、カナダ人の好物というドーナツでは課税の有無にユニークな基準を採用している。ドーナツを購入した個数が5個以下なら、その場ですぐに食べることができるため、外食とみなされて課税。6個以上なら食べきれないから、持ち帰りの食料品として非課税という仕組みだ。
消費税の歴史をひもといてみよう。1960年代後半から70年代に欧州各国で導入され、日本では89年に税率3%で消費税を導入した。世界的には現在、100以上の国や地域で採用されている。欧州各国の導入時の税率は10~20%程度で、日本のスタート時に比べてかなり高めだ。93年以降、標準税率を15%以上にすることが定められたEU(ヨーロッパ連合)諸国では20%前後で推移している。2012年1月現在の欧州諸国の税率は、高福祉国家として知られるスウェーデンとデンマークの25%を筆頭に、イタリア21%▽英国20%▽フランス19・6%▽ドイツ19%-など。アジアでは中国が94年の導入以来17%で、韓国も77年の導入から10%。タイやシンガポールは7%で、現在の日本の5%は国際的には低い水準だ。
消費税は収入が少ない人ほど、負担が重くなる「逆進性」の高さが問題視されている。このため、標準税率が20%前後となっている英国などの欧州諸国では、食料品など生活必需品に対しては税率を軽減する「軽減税率」を導入する工夫を施している。
フランスでは食料品が5・5%、ドイツでは7%に抑制。新聞や雑誌などにも軽減措置がとられている。いずれも低所得者をさらに苦しめない工夫だ。日本でも現在、国会で消費増税を柱とする社会保障・一体改革法案が論議されているが、同法案では平成26年4月に8%に引き上げる際に、低所得者向けの給付措置を導入。27年10月の%引き上げに向けた低所得者対策などは決まっていないが、軽減税率も検討対象になっている。
ただ、軽減税率に対しては、日本政府内では「対象品目の線引きが難しく、税収減につながる恐れがある」との反対論が根強い。実際、フランスではバターは軽減税率だが、マーガリンは標準課税。また、チョコレートに含まれるカカオの量によって税率が違うなど、かなり複雑だ。軽減税率が日本でも採用されれば、どのような形になるのか。実は関西人にとって気になることもある。各国の基準を当てはめると、たこ焼きが課税の対象になりそうだからだ。
たこ焼き店の多くは、鉄板をはさんで持ち帰り用を販売する一方、客は周辺で立ち食いするか、片隅に置かれたテーブルやいすで食べることもできる。カナダのドーナツと同様、持ち帰り用の食料品と判断するのは難しいのだ。ドーナツ5個を、一人で食べきれる量とするカナダの基準も不思議だが、仮に個数を基準にする「カナダ方式」と、温かさを基準にする「英国方式」がともにたこ焼きにも適用されれば、課税を避けるために「冷めた5個以下のたこ焼き」なんてものが出現する可能性もある。金銭感覚が鋭く、商魂たくましいとされる大阪人。さてどうなるか…。
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