2012年7月31日火曜日

■ヴァカンスで儲けるのは誰か?


ヴァカンスで儲けるのは誰か?
http://www.diplo.jp/articles12/1207vacances.html
ジル・ケール(ポワティエ大学経済学科准教授)訳:川端聡子

 移動性、消費、自由貿易といった観点から見ると、国際的システムにとって、観光はグローバル化の重要な要素となっている。だが、それだけではない。世界観光機関(UNWTO、国連の専門機関)によれば、観光は「社会経済の発展に必要不可欠な原動力」(1)でもあるという。2006年の「世界観光の日」に際し、世界観光機関は「観光。それは人、家族、地元、そして全世界を潤す資源」と銘打ったキャンペーンを行った。目的は、「観光のプラス効果について意識を高め」、観光によって「経済効果、人々の相互理解、農山漁村地域における雇用創出、環境保護など」をもたらすためである。「 trade, not aid」(「援助ではなく、商取引を」)は分かっている。しかしながら、私たちは「travel, not aid 」、つまり「援助ではなく、旅行を」という時代を生きているというのだ……。私たちは、かくも牧歌的な価値観を真に分かち合うべきなのだろうか。[フランス語版編集部]

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 世界観光機関は観光について、まず何といっても先進国から発展途上国にお金が流れるまたとない機会と見ている。というのも発展途上国の頼みの綱は文化資源と自然資源であり、これらは貧しい国にとって往々にして「唯一のセールス・ポイント」なのだから。そして、観光によって最底辺の人々が仕事を得られるという。高度な購買力を持つ消費者が旅行することで、小さなホテル業者や地元の生産者と接触するようになるからだ。また、大勢の女性が観光業に従事していることから、男女の不平等改善にも貢献するという(世界の観光業就業者の70%は女性である)。一方で、現地住民が豊かな環境や文化遺産の保護が重要であるとの認識を持つことにもつながるという。最後に、観光は異国間交流によって「社会的結びつきをグローバル化」し、「文化的矜持、他国人への親睦と理解、自然・文化遺産の所有意識および管理に対する責任感」を生むというのである(2)。

 こうして展開される論理には、大前提となる事実が抜け落ちている。それは、観光業界は多国籍企業によって独占されているという事実だ。たとえばTUIトラベル(3)やアコーホテルズ(4)といった企業は世界規模の巨大な商業通信網によって組織されている。2001年の世界貿易機構(WTO)のシンポジウムの際、国際観光業者協会の会長が国外旅行の総費用の平均配分値について、ベルギー、ドイツ、イギリスそれぞれでの統計を詳しく述べている。平均して旅行者の母国の利益となるのは20%ほどで、航空会社の懐に入るのは37%。旅行先の国に落ちるお金は43%にすぎず、そのうえ一定の関連輸入品額が差し引かれることを考慮に入れなくてはならない。観光客にとって必需品である飲食物、空調、テレビ、燃料……などである。しかしながら、発展途上国への旅行の80%が旅行業者の提供する旅行プランとなっている。

 一方、バカンス・サーヴィス会社の個人旅行や行動範囲の決められたパック旅行では、時間が限られ、ガイドがショッピングにも誘導する。こうした旅行では、現地の小規模な生産者との交流にはあまり積極的でない。たとえば、チュニジアの海岸1週間のパック旅行の例をみてみよう。旅行代金は、オン・シーズンでフランス人旅行者の場合、600ユーロ。うち350ユーロはチュニジアに落ちることはない。この350ユーロは、付加価値税と国内空港税、燃油サーチャージ料、旅行会社の手数料、雑費や為替手数料にあてられる。残る250ユーロは、現地空港税と付加価値税を差し引き、ホテルクラブへの料金が支払われ、さらに輸入品額と先進国への利益還元額を差し引かなくてはならない。結局、残るのは最大で150ユーロが限度で、この額が地元経済に供給される。

 別の例として、モロッコのアトラス山脈「トレッキング」1週間のパック・ツアーがある。フランスの旅行会社が扱い、エール・フランスが運行しているツアーだ。ツアー料金950ユーロのうち、540ユーロはモロッコには渡らない。チュニジアのケースとは異なり関連輸入品額は極めて少なく、「トレッキング」用品はもっぱら現地調達が原則となっている。その一方で、売上配分はきわめて不公平だ。370ユーロがマラケシュ経済に貢献し(現地旅行会社の手数料、現地ホテル一泊料金、ミニバス代、ガイドの人件費、ビバークに備え買い出す食糧の費用)、そしてたったの40ユーロが「地元」(料理人やラバ引き)へと渡る。旅行先の地元に入るのは、結局は旅行者の総支出額の5%足らずだ。

 このように、ほとんどの発展途上国が国際観光の恩恵をほんのわずかしか受けていない――そもそも、手元に残る主な利益の一部は、たいてい地元の元請けや政治家によってピンはねされている。富める国の側では観光業界が独占的に利益を享受する一方で、発展途上国のマーケット構造はバラバラだ。こうした状況の中で先進国の観光業者は、発展途上国の地元業者同士、あるいは同じ国内の地域同士で現地サービスを競合させることができる。そして彼らから付加価値の大半を奪い取っているのである。


(1)世界観光機関アジア太平洋センター公式サイト http://www.unwto-osaka.org/ 参照。
(2)「観光と貧困軽減」2002年、世界観光機構マドリード本部。
(3)ヨーロッパ最大手、イギリスの旅行会社[訳注]。
(4)世界最大のホテルチェーン[訳注]。
        
(ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子版2012年7月号)
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