2012年7月4日水曜日

■「龍馬」から「よさこい」へ 外国人への訴求ポイントを変えた高知県の決断


「龍馬」から「よさこい」へ 外国人への訴求ポイントを変えた高知県の決断
http://diamond.jp/articles/-/20746
【第110回】 2012年6月28日  莫 邦富 [作家・ジャーナリスト]

 2012年1月26日アップされたこのコラムのタイトルは「外国人観光客の誘致を成功に導いた 北海道の地道な努力と山梨県の“脱信玄”」だった。そのなかで、私が信玄と風林火山という2枚看板から脱皮した山梨県のインバウンド戦略に触れ、下記のように振り返った。

日本人に受けるキーワードは
外国人観光客に通用するか

 「私が観光推進会議の委員を務めるなどかかわりが多い山梨県は、以前、地元の観光資源を宣伝する際に、武田信玄と風林火山を枕詞のように口にする傾向があった。しかし、外国人の私から見れば、これはやはりおかしいと思う。中国人を含め果たしてどれぐらいの外国人観光客が、戦国武将・武田信玄や風林火山の意味を理解できるのか、いつも疑問に思っていた。」

 なぜかというと、日本人向けなら十分通用するこの二つのキーワードは、外国人には理解できないものになってしまう恐れがある、と思っているからだ。そのため、私は関係会議に出るたびに、外国人には、むしろ東京との近さ、アクセスの容易さを強調した方がよいのでは、と主張していた。

 こうした批判の声に耳を傾けた山梨県は、やがて「週末は山梨にいます。」というキャッチフレーズを開発し、自らの存在をこういう形でアピールするようになった。2006年から始まったこのキャンペーン作戦をいまでも続けているのを見ると、この戦略が相当功を奏していると見ていいだろう、と思う。「空港をもっていない県なのに、外国人宿泊数が高位にある。この実績はまさしく山梨県観光関係者の努力の結晶だと言っていいだろう」と、私はコラムの中で評価している。

 実は、1月26日アップされた例のコラムの最後のところに、「今でも一部の地方では、地元の歴史上の有名人物を切り札のように持ち出して、外国人観光客に懸命にアピールしている。こうした光景を目にする度に、山梨県の成功経験や北海道の地道な努力を伝えたくなる。外国人観光客を効果的に誘致するために、場合によっては、外国人向けのキャッチフレーズやコンテンツの制作を考える必要があるかもしれない」と、暗に一部の地方自治体を批判している。


坂本龍馬から
「よさこい」をツールに

 ここで打ち明けよう。実は坂本龍馬を懸命にアピールする高知県の観光行政を批判していたのである。

 2年前、同県の招きで観光資源を取材・視察に行く私の手元に、視察スケジュール表が届いた。空港を出てから帰りの便に乗り込む直前まで、スケジュールがびっしりと組まれている。しかし、キーワードは一つしかない。坂本龍馬だ。まさに龍馬尽くしのメニューそのものだ。

 郷土の名士である坂本龍馬に対する愛情とそのネームバリューを利用して、観光業を振興させたいその気持ちは分かる。日本語を専攻とし、日本に20年以上も暮らしてきた私一個人の立場から見れば、それもそれなりに面白いところがあると思う。しかし、初めて日本を訪れる外国人は、よほどの日本好きでないと、まずは龍馬に対して関心を持たないだろう。海外へ観光誘致の情報発信をしようとすれば、龍馬を持ち出すことはまったく意味のない作業になってしまう恐れがある。

 ただ、批判するだけでは、問題の解決にはつながらない。海外で高知県の知名度を高めるためには、よりわかりやすくインパクトのあるツールが必要だ。そこで私が目を付けたのは、全国にも名高い「よさこい」なのだ。「なぜ、よさこいをツールとして海外に向かって観光情報を発信しないのだろうか」という私の質問に対して、高知県の観光行政に携わる関係者たちは口をつぐんでいた。

 しかし、高知県の観光行政の関係者たちは、素直に私の意見を受け入れた。今年に入ってから、台湾の観光イベントに、よさこいチームを出したりするようになった。近々、中国にもプロモーションに行く。よさこいをツールとして活用しながら、高知県を売り出そうとしている。私が観光大使を務める安徽省からは、すでにこの秋に、よさこいを安徽省の観光イベントに呼ぼうという内諾を得た。

踊りには見る人を
陶酔させる神秘的な力がある

 夢中になってよさこいを踊る高知県の女性たちの写真や映像などをたくさん見た。踊る女性のあの輝かしい顔は、東京、いや日本の町を歩く人々のあの沈んだ表情とは打って変わり、希望と元気さに満ちている。よさこいもさることながら、阿波踊りも大好きだ。あの、懸命に踊る大群衆が醸し出した活気と元気の良さに、あの美しい衣装に、あの汗びっしょりになっても笑顔を絶やさずに踊る女性の大軍団に、見る人を陶酔させる神秘的な力がある。

 しかし、こうした観光情報はまだローカル情報の域を出ていない。阿波踊りにしても、よさこいにしても、少なくとも中国ではほとんど知られていない。高知県や徳島県に至っては、まだ無名に近い存在だ。北海道のような存在感を獲得するには、時間と工夫が必要だ。その意味では、よさこい、阿波踊りをインバウンド誘致に有効なツールとして活用したら、と思っている。



0 件のコメント:

コメントを投稿