2012年8月28日火曜日

■アップルの勝利でパワーバランスに変化も


アップルの勝利でパワーバランスに変化も
http://jp.wsj.com/Business-Companies/Technology/node_501517?mod=WSJ3items
2012年 8月 27日  18:32 JST ウォールストリートジャーナル

 【サンノゼ(米カリフォルニア州)】特許侵害を巡る訴訟で米アップルが韓国のサムスン電子に圧勝したことは、携帯電話業界でのアップルの支配的地位を揺るぎないものにさせた。また通信業者や米グーグルにとっては、製品計画と戦略の見直しを強いられる可能性がある。

 陪審員や法律の専門家らへの取材を通して明らかになったことは、24日の陪審団の評決はサムスンにアップルへ10億5000万ドル(約827億円)の賠償金を支払うよう求める以上の意味をもたらしたということだ。

 9人の陪審団による評決は、企業が電子機器の基本的なデザイン要素を取り入れる際には、特にそれらが機器の見た目と感触に影響する場合は、これまで以上に注意深く取り組む必要があるとのサインを送ることになった。

 評決後の27日、韓国の株式市場でサムスン株は6.8%下げて始まった。

 アップルが次のスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)「iPhone(アイフォーン)」を発表する数週間前のタイミングで出された評決は、アップルの市場での支配力とすでに戦っている通信業者との問題をさらに複雑化させる可能性がある。2007年以降、アップルはアイフォーン関連事業から1560億ドルを超える売り上げを計上し、現在は時価総額で世界最大の企業となった。

 特許専門の弁護士らは、陪審団の評決がすでに殺到しているテクノロジー分野での特許申請をさらに加速させ、あらたな訴訟の素地を作ることになった可能性があると指摘する。裁判所を舞台にした戦争はスマホやタブレット端末のメーカーにとってコスト高につながり、市場に投入される製品の減少、ひいては価格の上昇を招くことになる、と一部弁護士や市場ウォッチャーらは指摘する。

 自社製品の形やスタイルを守るため、アップルの司法システムを利用した自己防衛法に倣う企業は増える可能性がある、と弁護士事務所ケイ・スカラーLLPで知的財産関連を担当する弁護士、アラン・フィッシュ氏は指摘する。

 サムスンだけではなく、グーグル――とグーグルの基本システム(OS)「アンドロイド」を搭載するほかのスマホのメーカー――は特許の衝突を避けるためにスマホの機能を手放すか、または変更することを、自ら選択するかもしくは強いられることになりそうだ。

 開発者の一部からは、評決がアンドロイド用ソフトウエア制作のコストを押し上げる可能性があるとの声も聞かれる。「(アンドロイド)システム用に作ったものを変更しなければならないかもしれない」と話すのは、新規事業投資家で自身も起業家であり、個人金融関連アプリメーカーを率いるハワード・リンドゾン氏だ。


スマホの世界シェアの変遷

 しかし一部弁護士も同じくらい声高に、エレクトロニクス関連の製造業者が一層多くのオリジナル製品を発案することが可能だと説く。アップルだけが革新的なデザインを思いつく会社であるわけではなく、裁判所での勝利が競合他社のイノベーションを一層鼓舞する可能性があるからだ。

 市場調査会社のIDCによると、アンドロイドを搭載したスマホの出荷量で見た第2四半期の市場に占める割合は68%で、アイフォーンは17%だった。大企業の複数の幹部は、今回の評決がこの流れを変える可能性は低いとみている。

 アップルは、グーグルを訴えないことに決めたが、理由は明らかにしていない。だが特許専門の弁護士らはハードウエアを消費者に販売するサムスンのような企業に金銭的打撃を与えるほうが容易だとしている。収益のほとんどをオンライン広告から得ているグーグルは、スマホやタブレット端末メーカーに対しソフトウエアの使用料を課してはいない。

 グーグルの広報担当者は文書のなかで、今回のケースで侵害があったとされたほとんど特許権は「アンドロイドの中核となるオペレーティング・システムに関係がない」としている。

 同広報担当者はさらに「モバイル産業は展開が早く、新参者を含むすべてのプレーヤーは数十年来存在し続けているアイデアを形にしている」と述べている。

 すでに多額の販売奨励金をアップルに支払っている携帯電話事業者は今回の裁判により携帯機器の販売差し止めや、特許に関連するイノベーションの使用禁止などがあった場合のことを懸念していた。

 24日の評決以降、これらの業者は沈黙している。しかし通信業者はこれまで、アイフォーンとの取引でより強い影響力を発揮できるよう、アイフォーンの競合他社の発展に寄与してきた。

 米携帯電話大手ベライゾン・ワイヤレスは、ライバルのAT&Tがアイフォーンと独占契約を結んでいたため、グーグルと密接な関係を築き、多くをアンドロイド搭載の携帯電話に頼っていた。AT&Tは今、米マイクロソフトのOSを搭載するフィンランド・ノキアの携帯電話を展開している。

 ベライゾンの弁護士らはこれまで特許問題に関しては特に声高に主張してきた。長引く法的闘争は市場に出回るスマホの数を削減し、消費者に打撃を与えるというのがその理由だ。ベライゾンはコメントを控えた。

 サムスンにとっては短期的な雨雲がかかることになった。特許侵害に関わる賠償金額として史上最高規模の1つとなった賠償額が科せられたことに加え、陪審団は意図的な特許の侵害が5件あったとしているため、賠償額がこの3倍になる可能性があるからだ。

 一方、アップルは27日までに販売の仮差し止めを要求するサムスンの機種を特定する予定だ。販売の差し止めを要求する機種は最新型ではないが、同じ連邦地裁でアップルはサムスンに対して、今回の裁判より最新の技術についても訴えを起こしている。これは、ほかの国や地域で係争中のアップルの訴えでも同様だ。

 アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は評決後、従業員に宛てたメールのなかで、「裁判中に提示された証拠の山は、サムスンの模倣行為はわれわれが知っているよりもずっと根が深かったことを示した」としている。

 サムスンの訴えはすべて退けられた。サムスンは判決後の異議申し立てを行う構えで、必要であれば控訴も辞さない意向だ。

記者: Jessica E. Vascellaro、Don Clark



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