2012年8月29日水曜日

ラルクアンシエルや香取慎吾の米国公演大コケはなぜ隠される?


米国メディア評は「高校の学芸会」、サクラまで動員……
ラルクアンシエルや香取慎吾の米国公演大コケはなぜ隠される?
http://biz-journal.jp/2012/08/post_505.html
2012.08.08

リサーチ/マーケティング会社NYCOARA,Inc.代表であり、小泉内閣時代には、竹中平蔵経産大臣の発表資料作成にも携わったアメリカ在住の田中秀憲氏が、ニューヨークのブロードウェイ最新事情を通じて、日本のエンタテインメントビジネスについて解説する。 

 先日、女優の米倉涼子氏がブロードウェイのステージに立ったということが、大きな話題となった。これは、例年この時期にはメインの俳優陣が夏休みを取ることもあり、ブロードウェイで上演される人気ショーの主役に、世界各国から俳優を招聘し、それらのショーの人気を、あらためて世界中でPRしようとするもの。そこに米倉氏も一員として抜擢されたわけなのだが、なんといっても世界に名だたるブロードウェイ。しかも大人気のショーの主役というのだから、本当に驚嘆せざるを得ない。

 ショーを見に来た一般の客【註1】には、日本語まじりの内容はやや内輪ネタ的で理解できない方が多かったようだし、ショー自体の評価も、そもそもが上記のような企画であることから、専門誌が辛口になる傾向もあるが、概ね成功であったと言ってよいだろう。

 いずれにせよ前人未到の快挙であり、世界トップレベルのエンタテインメントの舞台への日本人進出。サッカーや野球同様、かつては「あり得ないこと」を実現していく彼らには、心より賞賛の声を送りたい。同じ日本人として誇らしい気持ちでいっぱいだ。

 このように、科学技術やスポーツ分野に限らず、芸術/娯楽文化でも日本の海外進出は活発になってきた。最近のアニメブームはいうまでもなく、音楽/映画を含む日本発の芸能文化ビジネス分野の海外での評価は高い。諸外国に日本発の「アニメ」や「マンガ」の熱狂的なファンがいることは知られており、その成長にも期待が持たれている。事実、米倉氏の今回の快挙も、ショービジネスを含めた芸能文化面における「日本の高品質」が評価されてのことだろう。

アジア諸国に後れを取る日本の海外進出

 だが、この分野における日本ビジネスの海外進出は、まだまだ散発的。基盤を築くというところまでは行き着いていない。そして、実はほかのアジア諸国にも遅れを取りつつあることをご存じだろうか。

 ところであまり知られていないが、ニューヨーク市には2つのチャイナタウンがある。1つはガイドブックなどにも当然のように記載されている、マンハッタンのやや下方に位置する有名な「チャイナタウン」。そしてもう1つは、クイーンズ区東方に位置する「フラッシング」だ。

 実はフラッシングは、全米でも最大のチャイナタウンであり、その規模はニューヨークはもちろん、世界的に有名なサンフランシスコのチャイナタウンをも凌駕する規模。もちろんレストランをはじめとするありとあらゆるビジネスが営まれているのは、マンハッタンのチャイナタウン同様だが、一番の大きな違いは、このエリアに居住している人が桁違いに多いということ。家賃も高くビジネスの場としての成熟が中心となっているマンハッタンのチャイナタウンに比べ、フラッシング周辺は仕事も生活も教育もすべてが密集しているエリアなのである。

 ニューヨーク近郊だけでもこれほど多くの中国人や中華系の方が住んでいるとなると、おのずとその市場へ向けたショービジネス分野の規模も大きくなる。そう、中国本土や香港、そして台湾などからやってくるアーティストたちのライブやコンサートの数は、日本人アーティストのニューヨーク進出とは比べ物にならない規模なのである。

その舞台として好んで選ばれるのは、ニューヨーク近郊のカジノリゾート。ミス・コンテストで有名なアトランティックシティをはじめ、ニューヨーク周辺にはいくつかカジノリゾートがあるのだが、そこに毎週のように中国本土や香港、台湾、シンガポールなどから中国系の芸能人たちがやってきているのだ。

カジノやディナーに無料クーポンまで配布

 毎週金曜日の夜ともなれば、両チャイナタウンには何台もの大型バスが列をなし、それぞれの目的地へと客たちを連れて行く。しかも大型バスに詰め込まれて現地へ赴く彼らの交通費は大抵が無料、場合によってはギャンブルや食事などのクーポンの配布さえある。少々の出費など、彼らが週末に費やす金額から見れば取るに足らないもの。家族全員どころか親戚一同で週末のカジノリゾートに向かうことも珍しくなく、そのため、現地では若い新人から熟年のベテラン歌手、ロックバンドやアイドルグループ、有名女優のディナーショーやトークライブ、女性向けには男性タレントのショーもあれば、子供向けのアニメショーなど、本当にさまざまな催しが開催されている。

 中国のショービジネスは、米国内の中国系の人々だけを対象にしてビジネスが成立するほど巨大な市場に成長しつつある。そして、それに引っ張られるように、他のアジア諸国のショービジネス市場もまた急激に拡大。各国共に、かつては国内市場のみをターゲットとしてきたこの分野だが、今後はアメリカが主戦場となってもなんら不思議ではない。国内市場が小さい他のアジア諸国ならなおのこと。しかも彼らは日本のそれとは違い、本気でビジネスをするためにやってきているのである。

 ニューヨークでは、日本からもアイドルタレントの舞台公演や、人気バンドのライブなどが相次いで行われている。しかしその実情が、日本国内で伝えられるそれとは大きく乖離していることに、毎回のように驚かされる。

 専門誌による評価は総じて低く、SMAPの香取慎吾氏主演、三谷幸喜氏演出の『TALK LIKE SINGING』などは「高校の学芸会」などと評価されていた。だぶついていたチケットは無償で配布されていたものの、日本国内向けの報道写真を配慮したのか「日本人“以外”の方であれば差し上げます」と伝わってきた。

報じられない日本人アーティスト公演の不評

 日本では人気のビジュアル系バンド、ラルクアンシエルのコンサートの場合は、同様にチケットの売れ行きがよろしくないために、開演直前に、「客席中央付近で騒いでくれるアルバイト~50ドル」とサクラまで雇う始末。しかし、いずれも日本国内で美化された報道がされるかどうかだけが重要。現地での生の評価が国内に伝えられることはない。

 その一方で、中国を筆頭とするアジア諸国の手法は、まさにシビアな「ビジネス」。

 韓流人気を日本のみならず世界へ広げつつある韓国はもとより、香港や台湾。さらにはこれまでは第三勢力以下と思われていたタイやインドネシア、インドやシンガポールなどの国々から、米国市場への本格参戦が相次いでいる。そして日本を含め、それぞれの自国内市場の成熟度を鑑みた場合、その差には驚かされるばかり。彼らはあくまで「それでいくら儲かるのか?」をしっかり計算し、実際に利益を生み出そうとしている。

このように米国市場を他のアジア諸国に浸食されていく中、日本はといえば海外での事業目的がすべからく国内での宣伝広告のためとなれば、現地で自らの収益構造を確立することなどそもそも望めるはずがない。

 以上見てみると、日本ではエンタテインメント、ショービジネスの分野でも、国内事情ゆえのさまざまな閉塞性や意図的な歪曲が、その産業が本来持つべき可能性を損なうという状況が続き、そしてそれが、せっかくの商機をみすみす失う事態につながっているようにも見える。もちろん国内のみでもその市場は十分大きく、海外進出の必要性が低いという事情も、理由のひとつとして挙げられることは確か。しかし国際化が急速に進む今、自国内だけの閉じられたビジネスに未来があると考えるのは、あまりにも楽観的にすぎる。困難を乗り越え新たな扉を開いた米倉氏の奮闘を無にしないためにも、そして日本再興のためにも、「ビジネス」として海外へ進出すべきではないだろうか。

【註1】その観客数が年間1250万人を超えるブロードウェイのショー。NYC近郊からの来場者が過半数を超え、海外からの来場者は1割ほど。残りが、アメリカ国内の他の地域からの観客だ。(「broadwayleague.com」による)
(文=田中 秀憲/NYCOARA,Inc.代表)



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