中国から夜逃げした韓国企業の裏事情
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/08/26/2012082600190.html?ent_rank_news
2012/08/26 10:17 朝鮮日報
中国江蘇省無錫市にある韓国企業が最近、10日間にわたり「無政府状態」に陥った。先月19日、この企業に資材を供給してきた地元業者が押し掛け、大型トラックと乗用車で会社の出入り口を封鎖したため、工場の操業がストップした。地元業者が動員したデモ隊約70人が工場内をうろつき、工場の従業員が片側3車線の道路を占拠してデモを繰り広げた。地元業者は代金の支払いを、従業員は未払い賃金の支払いをそれぞれ要求した。このうち工場内のパソコンや器具、資材を勝手に持ち去った人もいたが、それを制止する人はいなかった。事態の拡大を受け、当局が介入し、工場への立ち入り禁止措置が取られ、全ての資産が差し押さえられた。現在工場には持ち去られずに残った設備だけが無秩序に放置されている。
問題の企業は、サムスン電子の下請け会社「世信科技」だ。借金を踏み倒して夜逃げした悪徳企業として批判にさらされた同社は「事態の責任はサムスン電子の中国法人にある。全責任を我々になすりつけられた」と主張。これに対し、サムスンは「支援しようとしただけで、責任はない」と反論している。双方の間で一体何が起きたのか。
■差し押さえられた工場
世信科技は、31年にわたりサムスン電子に納品してきたセストが1988年に中国に設立した現地法人だ。サムスン電子が江蘇省蘇州市に現地法人を設立したのに伴い進出した1次下請け会社で、冷蔵庫、洗濯機など家電製品の外装材、包装材を供給してきた。しかし、2008年の金融危機以降、累積赤字が200億ウォン(約14億円)を超えるなど、世信は経営難に直面していた。
世信は昨年3月、サムスン電子の現地法人に支援を要請した。サムスンからの受注拡大と資金支援がなければ、工場の操業は不可能だとして、支援を受けられないなら、工場を買収してほしいと申し入れた。サムスン現地法人の調達担当幹部は「追加発注も資金支援も困難だ。サムスンが下請け企業を買収した例はない」とあっさり要求を拒否したという。
世信は当時、銀行から借り入れた債務150億ウォン(約10億5000万円)に加え、未払い賃金、資材代金など合計250億ウォン(約17億5000万円)の債務を抱えていた。これに対し、面積3万5000坪の敷地など工場の資産価値は300億ウォン(約21億円)近くあった。このため、世信は資産と負債をまるごと引き継いでもらえれば、現金30億ウォン(約2億1000万円)で工場を売却する方針だった。世信が操業を中断すれば、サムスンの生産にも支障が出るため、サムスン幹部は1カ月後、「世信を買い取る企業を探すから、工場を売却してもらいたい」と述べ、仲介役を務める意向を表明した。
同幹部の紹介で、今年4月には中国企業数社が工場を訪れ、資産査定を行った。サムスン幹部は売却代金を18億ウォン(約1億2600万円)に引き下げようと提案し、世信もそれを受け入れた。その後、中国企業H社と具体的な売却交渉が進められ、4月末には覚書が交わされた。H社は中国人経営の下請け企業で、交渉はサムスン幹部の通訳を務めていた韓国人L氏が代理人を務めた。
世信は5月に2回に分け、H社から売却代金18億ウォンを受け取り、6月1日にH社の代理人L氏と本契約を結んだ。仲介したサムスン幹部が世信側に会社の名義変更を約束するなど、売却はほぼ完了したかのように見えた。
だが、その翌日に問題が発生した。代理人はH社ではなく、別の中国企業D社の関係者を連れてきて、工場の接収作業を行った。D社の関係者は「うちが工場の新オーナーで、L氏はD社の代理人だ」と主張し、世信の社内組織まで変更した。しかし、D社は世信の従業員による反発で、10日余りで工場から追い出された。世信の関係者は「D社は基礎的な運転資金も持参せず、世信が保有していたサムスン下請け企業の資格をD社に変更しようとしていた事実が従業員によって暴露され、追い出された」と証言した。
D社の関係者が撤収すると、サムスン側は「売却先が見つからなければ、世信の筆頭株主であるセストによる破産手続きに踏み切ろう」と提案した。これに対し、世信は「5月からは経営権がサムスン幹部とH社の代理人に移行されており、売却代金まで受け取っているため、セストによる破産手続きは受け入れられない」と突っぱねた。そして、世信の経営陣は6月末に韓国に引き揚げた。
双方が対立する間、世信には債務の返済期限が到来したが、債務を履行できなかった。さらに工場売却の過程で2カ月分の賃金が未払いとなっている従業員、資材納入元の業者が実力行使に出て、世信の工場は操業を中断し、先月末には差し押さえ措置が講じられた。その結果、サムスンの現地法人も生産に支障が出ているほか、世信の工場にあったサムスン側の設備にも損失が出たという。
■責任の所在めぐり紛糾
世信側は工場の譲渡先としてD社が突然登場するなど、サムスンの売却仲介に不透明な点があったと指摘する。サムスン幹部と中国企業の間に何らかの裏取引があり、それが思惑通りに進まず、今回の事態が起きたと主張している。すでに売却代金まで支払っていたH社との契約が履行されていれば、何の問題もなかったはずなのに、なぜ突然D社が登場したのか理解できないとの立場だ。
世信の関係者は「サムスンの現地法人は、本社とは異なり、駐在員が中国業者のロビー攻勢に無防備にさらされているなど、道徳性に問題がある。中国業者の代理人を務めたL氏は、サムスン幹部の大学の同窓生で親しい仲だった」と指摘した。
これについて、サムスン側は「生産への影響を最小化するため、工場売却を支援しようとしたが、世信が資産価値を水増ししたため、売却が何度も不調に終わった。順調に行かなかったのは世信が欲を見せたからだ」と反論した。また、サムスン幹部と中国企業の裏取引疑惑についても「事実無根の主張であり、世界的な企業としてあり得ないことだ」と一蹴した。
双方は世信の経営難が深刻化した背景についても見解が異なっている。サムスンは「世信の品質競争力が他社に劣っていただけでなく、親会社の経営能力も低かった。にもかかわらず、過去数年間にわたってサムスンに無理な支援を要求してきた」と主張する。
しかし、世信は「サムスン電子の進出に伴い、メキシコにも工場を建てたが、多額の赤字で撤退し、中国からも満身創痍(そうい)で引き揚げてきた。サムスンと現地企業の癒着で多くの韓国企業が被害を受けているが、弱い立場にあるため黙っているだけだ」と反論した。
世信の親会社セストは、忠清南道瑞山市で塩田、製材所、設備業者を運営していた実業家ペク・チョンギ氏が1982年に設立した企業で、ペク氏と李健熙(イ・ゴンヒ)サムスン電子会長は、ソウル大学校師範大学付属高校の同窓生だったという。すでに他界したペク・チョンギ氏に次いで、現在は弟が代表を務めており、昨年の売上高は1740億ウォン(約122億円)だった。
0 件のコメント:
コメントを投稿