2012年7月17日火曜日

■【コラム】 日本を滅ぼす超高齢社会(17)―進む公的年金加入者の低所得化


【コラム】 日本を滅ぼす超高齢社会(17)―進む公的年金加入者の低所得化
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2012&d=0717&f=column_0717_019.shtml
2012/07/17(火) 09:55
       
 「国民皆年金」体制を根底から掘り崩してしまいかねない最大の要因は、未納者の増加であることは想像に難くない。納付率がすでに6割を下回ったという深刻な事態は、「国民皆年金」体制がすでに総崩れし始めていることを雄弁に物語っている。

 では、なぜ未納者がこんなに増えているのか。公的年金に対する不信感が高まっていること、公的年金の役割を十分に理解していないことなどのほか、所得が低く保険料を納める経済的余裕がないということも要因の一つである。

 未納者のなかで高級住宅に住み高級車を乗り回していても故意に保険料を納めないような人もいて、保険料納付の督促などきちんとした措置を採らなければならない。一方、払いたくても払えないようなことはより深刻に受け止める必要がある。

 厚生労働省は2010年11月から2011年2月まで全国の公的年金加入者の所得状況を調査した。その結果から気になる点は以下のようにいくつかある。

 (1)被保険者間に大きな格差が存在する。1人当たり平均年収は297 万円となっており、これを加入種別にみると、第1号被保険者が159 万円、第2号被保険者等が426 万円、第3号被保険者が55 万円となっている。第2号被保険者は主に正規雇用者であり、その所得は非正規雇用者・無職者も多く入っている第1号被保険者のそれを大きく上回っており、その差は2.68倍にも達した。第3号被保険者は第2号被保険者の被扶養配偶者であり、その所得はもっとも低い。

 (2)低所得者が非常に多い。年収階級別加入者数の分布をみると、「50万円以下」が
22.3%、「50万円超100万円以下」が10.7%と多くなっている。つまり、年収100万円以下の低所得者は両者を合わせると、33%に達し全体のちょうど3分の1相当である。

 (3)第1号被保険者の低所得化は目立つ。公的年金加入者の加入状況ごとに年収分布をみると、第1号被保険者の場合、「50万円以下」が38.0%で最も多く、100 万円以下の者が5割を超えている。

 (4)就業形態は所得格差の要因の一つである。就業形態別に年収階級別加入者数の分布をみると、「自営業主」、「家族従業者」、「臨時・不定期」、「非就業者」は「50万円以下」が最も多い。「会社員・公務員」は「250万円超300万円以下」が最も多いが、このうち「フルタイム」は「300万円超350万円以下」が最も多く、「フルタイムでない」は「50万円超100万円以下」が最も多い。

 厚生労働省は国民年金の加入者に所得の低い人が増えているのは推測していたが、今回の調査で、具体的な実態が初めて裏付けられた。

 国民年金の保険料は2004年の制度改正によって毎年280円引き上げ、2017年度以降は毎月1万6900円に固定することとなった。今年度の保険料は月額1万4980円だから、年間は17万9760円となる。低所得者は国民健康保険などほかの保険料も支払わなければならないので、この国民年金保険料はかなり重い負担になっていると想像できる。

 被保険者の所得が低い状態にあることは、当然ながら年金の受給状況にマイナスの影響を及ぼす。

 第一に、低所得の第1号被保険者は経済的余裕がないことを理由に保険料を納めない。すると、将来、低年金受給者または無年金者にならざるを得ない。

 第二に、厚生年金・共済年金は報酬比例であり、年金額は支給乗率、被保険者期間の月数、スライド率に左右されるのはもちろんのことだが、さらに現役時代本人の収入を反映した平均標準報酬額と平均標準報酬月額に大きく左右される。つまり、現役時代に収入の高い人は多い年金、収入の少ない人は少ない年金を受給することになる。低所得の第2号被保険者は比較的少ない保険料を納めているため、将来低年金受給者になる。

 ここではふたたび厚生労働省の「公的年金加入者等の所得に関する実態調査」の結果に戻り、なかの老齢年金受給者の年収を見てみよう。

 ここでの年収とは、給与収入、事業所得(マイナスの場合は、ゼロ)と公的年金等収入の合計値としている。年収階級別老齢年金受給者数の分布をみると、1人当たり平均年収は189万円となっており、「50万円超100万円以下」が25.1%、「50万円以下」が16.5%となっている。つまり、100万円以下の人は全体の41.6%にも上る。こうした状況から、国民の老後生活保障における公的年金の役割はかなり萎んできていると考えるべきである。

 通常、公的年金の受給額は不十分な場合、預貯金など独自の資産形成・資産運用を通して将来の老後生活を支えるようなことが言われてきた。しかし、公的年金加入者の低所得化が進んでいる以上、独自の資産形成・資産運用は非常に困難である。経済的に余裕のない人に対していくら素晴らしい金融商品を提示しても、買ってくれる可能性はそれほど高くない。

 たとえば生命保険は、経済保障的側面を有し、また安心して生活するための安定機能も持っているところから、公的年金など社会保障が有する性格と類似した側面もあるといえる。しかし、生命保険商品の保険料の支払いは生活に余裕のない人々にまで十分に及ばないことを考えれば、一定以上の所得のある中流階級以上向けの商品設定を中心としたものとならざるを得ない。

 こうして公的年金はいまの経済社会情勢と密接に連動していることが改めて浮き彫りとなった。

 公的年金加入者の低所得化は明らかに日本経済の停滞および所得格差の拡大に起因するものである。これまでに「国民皆年金」体制を維持するために採ってきた対応策はほとんど保険料を中心としたものである。国民年金保険料の納付率向上や免除制度・猶予制度の導入はいずれも「国民皆年金」体制の本来果たすべき機能を保とうとするものであることはいうまでもない。そして基礎年金給付費の国庫負担は3分の1から2分の1に引き上げられたこと、さらに基礎年金給付費の全額国庫負担に関する議論や税による最低保障年金構想も「国民皆年金」体制を今後もなんとか持続させたいためである。

 日本の経済情勢はこれからどう推移していくのか、なかなか見通しが立たない。今のままでは、「国民皆年金」体制は極めて高い確率で崩壊していくだろうと思われる。

 したがって、国民の老後生活保障において公的年金の機能を一定以上のレベルで発揮させようとすれば、小手先の見直しではなくて、思い切った方向転換はどうしても必要になる。基礎年金給付費の全額国庫負担への移行や最低保障年金の構築はその意味で重要かつ有効な選択肢になり得るといえる。ただし、国民はそのための税負担を背負う用意があるのか、真っ先に問われる。(執筆者:王文亮 金城学院大学教授)



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