「金融事業化」する日本の奨学金制度 「返済できない若者」が急増
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130226-00000301-bengocom-soci
弁護士ドットコム 2月26日(火)7時24分配信
生活苦から学生時代に借りた奨学金の返済に困っている人が増えている。不景気で就職難やリストラなど働く環境が悪化していることが影響しているとみられる。なかには、奨学金の返済遅延が足かせとなって、夢をあきらめたり、結婚ができなかったりする若者も少なくない。この問題に詳しい弁護士は「日本の奨学金制度の抜本的な改善が必要だ」と指摘している。
奨学金事業を請け負う日本学生支援機構の資料によると、奨学金の返済が遅れている要返還者と未返還者を足した人数は、2004年の198万人に対して2011年が334万人と、7年間で130万人以上も増えている。奨学金を返せない人は、ここ数年で急増しているのだ。
奨学金には、返還義務のない「給付型」と卒業後に返還義務が生じる「貸与型」の2種類があるが、日本では全体の約9割が貸与型だとされる。しかも無利子ではなく、「有利子」の貸与型を利用せざるを得ない学生が多いのが、日本の特徴だ。日本学生支援機構による奨学金では、有利子が7割を超えている。
「日本の奨学金制度は『金融事業化』してしまっている」と指摘するのは、奨学金問題に詳しい岩重佳治弁護士だ。「欧米では奨学金とは給付型のことを指し、貸与型については『学資ローン』と呼んで区別している」と語り、日本は本来の奨学金制度とは違う方向に進んでいると批判する。
●返済に苦しむ人への「支払督促」が増えている
岩重弁護士によると、もともと奨学金事業を担っていた日本育英会から日本学生支援機構に引き継がれた2004年以降、奨学金が「金融事業」と位置づけられ、その後、金融的手法の導入が進んだという。奨学金に占める有利子の割合や民間資金の流入が拡大。返済金の回収も強化され、2010年度からは返済が滞れば、滞納者として「全国銀行個人信用情報センター」に登録されるようになった。
回収の強化といえば、近年、裁判所を使った「支払督促」を申し立てられる奨学金滞納者が急増している。2004年にはわずか200件だった支払督促の申立件数が、2011年には1万件と、この7年間で50倍に拡大しているのだ。
この背景について、岩重弁護士は「最近は債権管理部ができたり、債権回収会社を利用したりするなど、回収が徹底されるようになった。おそらく、財務にかなり焦げ付きがあり、回収強化に乗り出したのだろう」と推測する。その上で「本来であれば、雇用情勢が悪化しているのだから、救済手段の強化や制度を柔軟化するなどの対応を取るべきだが、そこの見極めができていないため悲劇が起きている」と苦言を呈した。
返還猶予制度の運用にも問題があるようだ。日本学生支援機構の奨学金には返還期限を猶予する制度がある。岩重弁護士は、この制度について「非常に厳しい要件が課されている上に、運用上も様々な制限が課され、申請方法なども複雑で不明瞭なため、制度を利用できない返済困難者が多い。返還猶予制度はもっと柔軟に分かりやすくするべき」と指摘する。
●返済に困っている人が利用できる「救済手段」
返還猶予制度を利用できない返済困難者はどうすればいいのだろうか。「自己破産や個人再生などの債務整理手続きがある。お金のない人は法テラスを利用して、費用援助を受けながら、専門家の支援を受けるという方法もある」と岩重弁護士はアドバイスする。
また、人によっては時効が成立している場合もある。「返済期日から10年たつと債務の消滅時効が成立し、支払わなくてもよくなる」。ところが、時効についての知識がなく、「時効成立を知らないで、払い続けている人がいる」という。
奨学金を返せない若者が増えている現状を打破するため、岩重弁護士は全国の法律家や学者らとともに2013年3月31日、「奨学金問題対策全国会議」(仮称)を設立する予定だ。全国会議では、返済できないで困っている人の救済に個別で取り組む。
一方で、奨学金制度の抜本的な改善を求める運動を展開し、給付型や無利子の奨学金を増やすことなどを目指していく。岩重弁護士は「当事者にも声を上げてもらって、国民的議論にしていきたい」と話している。
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