2013年3月3日日曜日

■ソフトパワー大国フランスの芸術教育とは


ソフトパワー大国フランスの芸術教育とは
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2013/03/03 09:20

「ソフトパワー大国」の芸術教育の現場を歩く

 「ソフトパワー」が国の魅力を左右する今の時代。米国を抑えて「ソフトパワー」トップ(2012年11月、『MONOCLE』誌)の座に上った英国の首都ロンドンと、第4位のフランスの首都パリで、芸術教育の現場を訪れた。7歳の子どもから88歳の高齢者まで、人々は日常の中で芸術を学び、それを「国のパワー」にしていた。

 「ここではかばんをしっかり抱えていてください」 パリ・メトロ4号線のバルベス・ロシュシュアール駅に降りると、ガイドが深刻そうな声で言った。ここからはパリ18区。アフリカ系・アラブ系の移民が集まって暮らしている街だ。白昼から麻薬が取り引きされ、すりや強盗が当たり前のように発生する、犯罪多発地域の一つに挙げられる。歩道の両側をうろついていた10人ほどの男のうち、1人がこちらにやって来てささやいた。「シガレット、ドラッグ」。慌ててその場を去り、公立小学校のあるエコール・ド・リショムの路地に入った。校門を開けると、はきはきとした歌声が記者らを出迎えた。ビゼーのオペラ『カルメン』の中で歌われる合唱曲「街の子どもたち」だった。駅から歩いて7、8分しか離れていないのに、ここには全く異なる世界が存在していた。

■犯罪多発地帯に響く『カルメン』の合唱曲

 悪名高き犯罪多発地帯の真ん中で響き渡る合唱は、3階の教室から聞こえていた。黒人・アジア人・アラブ人の児童18人の歌声に、教師の指示が重なった。「ハーモニーを合わせて! 二つの心臓が一つになるように!」。 合唱の授業は週に2時間のペースで、かれこれ4カ月になる。この授業を受けているフェリエル君(9)に「オペラは難しくないのか」と尋ねると「集中すれば全然難しくない」という堂々とした答えが返ってきた。

 普通の人が通りたがらない貧民街に「オペラ」の風が吹くようになったきっかけは、パリ国立オペラによるプログラム「学校での10カ月、そしてオペラ」だった。各級学校33校の児童・生徒1000人を対象に、2年単位で進められている。10カ月は学校で、その後はパリ・オペラ座で学ぶ。オペラという大きな枠の中で、歌、ダンス、衣装、音楽史、舞台美術、劇場行政に至るまで、関連分野全てに接することができる。

 簡単な絵画や童謡などではなく、貴族の芸術の頂点といえるオペラが、貧しい子どもたちに芸術の案内役となり得るのだろうか。パリ国立オペラで教育を担当しているドミニク・ロデさんは「オペラというジャンルを好きにならなくても、オペラ座の建物に親しむことから、芸術との付き合いが始まる」と説明した。「オペラという見知らぬ星での旅に慣れれば、あらゆる文化がすぐそばにあることを体感できる」

 1991年に始まったこのプログラムでは、22年間で約1万7000人が学んだ。教育費は全額無料、年間予算は80万ユーロ(現在のレートで約9400万円、以下同じ)だ。国民教育省から一部支援を受けるほか、フランス最大の製油会社「トタル」、電力・ガス会社「GDFスエズ」など企業からの後援金で賄っている。

■パリのアトリエで「誰もが芸術家」

 大人たちの日常に文化を注入するのは、アトリエ講座だ。パリ・アトリエ協会が運営する29カ所の講義室は、パリにとって芸術を息づかせる「肺」のような存在だ。昨年12月18日、チャイナ・タウンのあるパリ13区では、ブックアートとシルクスクリーンの講座が開かれていた。ブックアート講座を受講していたある中年女性は、本のページを1枚1枚、注意深くめくっていた。その女性が持っていた本は、1962年に刊行されたアンドレ・マルローの『La Tentation de l'Occident』(邦題『西欧の誘惑』)だった。1ページずつ再度のり付けして製本し、50年前の本をよみがえらせるのだ。

 アトリエは、彫刻・絵画・デッサン・染色・デジタルアートなど年間550の講座を開講する。韓国のメドゥプ(伝統の組みひも)の講座もある。このアトリエ講座は、ジャック・シラク市長時代の1977年に始まった。受講料は、3分の2を市が支援する。年間受講料は最低170ユーロ(約2万円)から。一律補助が出るのではなく、財産・年齢・所得に応じて受講料が決まる。受講者数は、下は7歳から上は88歳まで、年間約5000人に達する。

■「芸術は満ち足りた後に」という認識を変えるべき

 オペラプログラムやアトリエ講座の共通点は、初めは極めて細々としたものだったということだ。パリ国立オペラで教育を担当するクリスティン・エセンブレナさんは「最初の3年間は、企業の後援の約束もなく、ほとんど『意志の力』だけで5クラスを運営した。長期的なビジョンがなければ、今の成果はなかっただろう」と語った。パリ・アトリエ協会のドミニク・セラジ・ディレクターは「芸術とは消費ではなく、自己完成のための手段。文化生活は腹を満たした後にやるもの、という考えを変えて初めて、日常の中に文化が芽生える」と語った。

■パリ国立オペラの教育から2年後

生徒の90%は「自信がついた」、60%は「文章力が向上」

 パリ国立オペラは「学校での10カ月、そしてオペラ」プログラムを「人文主義者プログラム」と呼んでいる。特定の芸術ジャンルを教えるより、各生徒の人生の案内役になることに重点を置く、という意味だ。教育担当者のローハン・フージュさんは「舞台化が目的なのではなく、文化に目覚めているという精神を植え付けることが重要」と語った。パリ国立オペラによるアンケート調査の結果、これまでにプログラムを受講した生徒のうち90%は「自分に自信がついた」と答えた。「他人と意思疎通するのに役立った」と回答した生徒は80%、「文章力が向上した」と回答した生徒も60%に達した。

 今年6月には、参加を希望する全ての生徒が登場する大規模なフェスティバルが計画されている。また2015-17年には、ほかの欧州諸国とも連携し、プログラムの内容を拡大する予定だ。




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