2011年11月22日火曜日
■国民の幸福度 ブータンにも学びつつ
国民の幸福度 ブータンにも学びつつ
http://www.shinmai.co.jp/news/20111120/KT111119ETI090001000.html
11月20日(日)
ブータン国王夫妻の来日で、この国への関心がぐんと高まった。特に、心の充実感を指標とする「国民総幸福量(GNH)」についてである。
ヒマラヤ山脈の東端にあり、広さは九州ほどだ。人口は約70万人と少ない。
1人当たりの国民総所得は、2020ドルで貧しい。だが国勢調査では、90%以上の人が「幸せ」と答えている。
国民総幸福量の考えは、現国王の父・前国王が提唱した。国民総生産(GNP)や国内総生産(GDP)を価値基準とする世界の大勢に対し、仏教理念に基づき国民の総幸福を目指す。
指標として経済発展と開発、伝統文化の継承・振興、自然環境の保全と持続可能な利用、良い統治が柱となっている。
現国王は2006年に王位を譲位された。08年には、国民総幸福量の考えを盛り込んだ新憲法を国民議会が承認し、王制から立憲君主制に移行している。
GNHは世界的にも注目されるようになった。ブータン的な幸福に視察が相次ぎ、世界各地で関係のシンポも開かれる。暮らしの質や伝統、環境などに多くの目が向いてきた意義は大きい。
日本でも国民の幸福度指標の検討を始めた。首相の交代で立ち消えにしてはならない。生活の利便性、安全性、環境への配慮、休暇の取りやすさなど日本にあった指標を設定して、幸福度を高める弾みにするべきだ。
ブータンとの交流にも目を向けたい。栽培植物学者・中尾佐助さんは1958年に調査で入国。その報告「秘境ブータン」(今は北大出版会の著作集に収録)で状況が伝わった。教え子の西岡京治さんは長年農業を指導し、食料自給率と農業生産性を高めた。
ブータン国立図書館顧問を務めた今枝由郎さんの「ブータンに魅せられて」(岩波新書)で、暮らしと信仰がよく分かる。
この国も今、都市化や地域格差の問題に直面している。格差是正のための地方開発でも、環境破壊や物的な豊かさだけの追求に走らず、みんなの幸福感を大切にする政策を続けてほしい。
忘れがちな心の豊かさをブータンから学びたい。日本にも自然や食べ物、祭り、人情など誇れる宝物がある。生かせば地域が活性化し、幸せ度も高まる。
同国の高僧は「ゆっくりと。自分も他人も追い詰めてはダメ。少し立ち止まってみては」と語る。心にとめておきたい。
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