2011年11月27日日曜日

■BSディズニー開局秒読み 「電波二等地」の打開策


BSディズニー開局秒読み 「電波二等地」の打開策
2011/11/27 7:00

 米ウォルト・ディズニーが2012年3月に日本で予定しているBSデジタル放送「Dlife(ディーライフ)」の開局が迫っている。今年10月に開局したWOWOWの追加チャンネルなどに続く第2陣で、ディズニーやJSPORTSなどが加わる。テレビの買い替えで視聴者も巻き込んだ「放送のデジタル化」に伴う新チャンネル体制が完成する。ディズニーは第1陣の免許申請で落選。

 当初計画より半年遅れで悲願のBSに乗り出す。ただし、船出は順風満帆とはいかない。割り当てられた電波はいわば「二等地」で、番組を受信できる世帯が限られるためだ。ディズニーは地上波民放などと同様、無料で手軽に番組を見られるようにする。視聴世帯のくびきをどのような戦略で乗り越えるのか、業界も注視している。


■古い集合住宅が焦点

 通称BSディズニーとも言われるDlifeの開局予定日は2012年3月17日。チャンネル番号は258。後発だけに、数字は大きくなる。

 「開局時点のリーチ(視聴可能世帯)は全世帯の50%、2500万世帯」。ディズニーの日本法人、ウォルト・ディズニー・ジャパンの子会社でBSディズニーを運営するブロードキャスト・サテライト・ディズニー(東京・港)の児玉隆志社長は18日の記者会見でこう説明した。

 CMが主な収入となる無料放送のテレビ局にとって、50%にとどまるリーチはかなり厳しい数字と言わざるを得ない。お客さん、つまり視聴者数の母数が全世帯の半分にとどまれば、媒体価値が十分に高まらず、広告単価に響く懸念がある。先発組では米FOX系も暫定的に無料放送を展開しており、競争は出だしから激しくなりそうだ。
 
Dlifeは新作を含む海外ドラマを中心に放送する(「リベンジ」より。

地上デジタル放送の移行に合わせて、全国で普及した薄型テレビの多くは、BSデジタル放送も受信できるはず。それに、衛星を使うBS放送は、上空から降らせた電波が日本列島全体に届く効率的な仕組みとされる。なぜ、ディズニーなど新チャンネルの視聴世帯が限られるのか。

 BS新チャンネルが使う電波の周波数帯域が関係している。BSディズニーなどの周波数は携帯電話との干渉問題も指摘されたこともあるほど、放送用電波としてはかなり高い周波数といえる。

 BSディズニーなどを見られない可能性が高いのは、比較的古いマンションなど集合住宅とされる。

 新BS用の電波は、国際的な会議で2000年に日本に割り当てられた。当時よりも前に建てられたマンションでは受信設備が整っていないケースがある。こうした住宅では、屋上のアンテナや増幅器、電波信号を各世帯に流すためのケーブルなどを取り換える必要があるわけだ。

 携帯電話の電波との干渉問題は、総務省などの対策で着実に改善しているという。ただ、古いマンションの受信設備の更新は一朝一夕には進まず、BSディズニーなどを悩ませることになりそうだ。

 BSディズニーが視聴者数の制約を乗り越えるための柱に据える戦略は大きくふたつ。

 質の高い番組と、デジタル配信などの活用だ。番組面では、ハリウッド製の連続ドラマを多数そろえる。具体的には、毎週30タイトルのドラマを用意。「デスパレートな妻たち」や「LOST」といった日本ですでに知られている番組を「第1シリーズから全エピソードを放送する」(編成部の柏木恒二部長)という。「リベンジ」など国内で初めて放送される作品も投入する。

Dlifeが放送を予定している主な番組

ドラマ デスパレートな妻たち
 LOST
 アグリー・ベティ
 グレイズ・アナトミー
バラエティー アメリカン・ダンスアイドル
 ジャパニーズゲームショー「マジで!?」
アニメ ミッキーマウスクラブハウス
報道 BBCワールドニュース


■「女性にやさしいチャンネル」

 想定する主な視聴者は「30~40歳代の女性とその家族」(マーケティングシニアマネージャーの久保智子氏)。大半のドラマをふき替えで放送、家事や仕事で忙しい主婦らも楽しめる「女性にやさしいチャンネル」を目指すとしている。「ミッキーマウス」など親子で見られるアニメ番組も放送する。

 エンタテインメント(娯楽)番組を中心とする「総合編成チャンネル」を標榜。国内外の出来事に関心を持つ視聴者にこたえるため、報道分野もカバーする。パートナーとして組むのは、英公共放送BBCだ。BBCの国際放送番組を午前などに放送する予定で、「日本国内のニュースも検討している」(柏木氏)という。

 児玉社長は「はじめは人気番組の力を借りて、視聴者を増やしていく」と強調。番組を見たい視聴者が増えれば、マンションなどの改修も徐々に進むと期待する。

 第2の柱のデジタル戦略では、番組のネット配信などを拡大。さらに、CATVや光ファイバーを使ったネットワーク系放送サービスを通じた番組の再配信でも視聴者の上積みを図る。児玉社長はすでにネットワーク系で「500万世帯を確保した」と話した。

 ディズニーは2009年の審査で、BS免許の割り当てを受けられず、今年秋の新チャンネル開局第1陣に乗り遅れた。受信環境が必ずしも良好でないことを知りながら、あえて再挑戦したのは、自ら番組を編成できるBSの可能性に懸けたためだ。

 もともと、米ウォルト・ディズニーにとって、放送事業はディズニーランドなどテーマパーク事業と並ぶ重要な消費者との接点(タッチポイント)。堅調さが目立った2011年7~9月期決算でも、テレビ部門が業績をけん引した。少子高齢化などで日本市場の成長鈍化も懸念されるなか、一部の慎重論を押し切ってBS参入を決めた。

 東日本大震災で東京ディズニーランドも被害を受け、BSへの期待は一段と増したといえる。児玉社長は「10年以内にリーチを70%、3500万世帯に増やしたい」と語る。いったん国から得た免許の返上は難しい。ディズニーは長期戦でBS事業を育てる覚悟だ。


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