2011年11月30日水曜日

■訪日旅行、各国市場の現状-回復の見込みを探る


訪日旅行、各国市場の現状-回復の見込みを探る
http://www.travelvision.jp/event/detail.php?id=51363
VJトラベルマートより
2011年11月30日(水)

 11月22日から23日まで開催された観光庁主催の商談会「VISIT JAPAN トラベルマート(VJTM)2011」では、バイヤーが23ヶ国・地域から253名、海外メディアが15ヶ国・地域から28名、373の出展社が参加し、会場を賑わせた。このような厳しい年のVJTMに、253名ものバイヤーが集まったことは心強い。デスティネーションとしての日本の復活、発展への希望の光が見えるが、VJTMに参加したバイヤーは現状をどう見ているのだろうか。

回復は市場、旅行形態でばらつき
団体客の減少と顕著なFIT増加

 震災直後の状況について聞くと、案件の100%近くがキャンセルとなったと話すバイヤーがほとんど。しかし、現在の回復状況については市場や旅行形態別で大きくばらつきが見られる。

 中国本土や台湾のバイヤーに話を聞くと、前年比70%減から50%減まで回復したという回答が多かった。いずれも団体旅行を主に扱うバイヤーだ。しかし、上海実華国際旅行社の日本・韓国マネージャー、沈逸氏は「団体ツアーは80%減だが、実はFITは20%増。福岡、大阪、北海道、沖縄のFITが増えている」傾向があるという。

 他の地域でもFITの伸びが見られる。米国カリフォルニア州のワールド・トラベラーズ・クラブのプレジデント、カウシック・セン氏は「全体としては40%減の落ち込み。団体が80%減でFITが20%減にまで回復した」という。

 また、シンガポールのH.I.S インターナショナルトラベルのビジネス・ディベロップメント・マネージャー、ウェイン・パン氏によると、同社では30%減まで回復したが、やはりグループは減り、FITが増えたという。その理由として、パン氏は「グループは家族単位での参加者が多いため、家族ぐるみで話し合い、結局行かないという結論に達するのでは。FITは2人など少人数での旅行なので行きやすいのだろう」と見ている。

 確かに、家族、友人などより多くの関係者と相談する機会が増える団体旅行は厳しい状況なのだろう。日本行きの教育旅行に特化したオーストラリアのサイゼン・ツアーズの共同マネージングディレクターであるロンデル・ヘリオット氏は、学校だけでなく親の説得が必要な修学旅行という性質上、回復は遅く、現在は前年比で5%にとどまっている。ただし、「現在、見積もり依頼は元通り」で、すでに来年の9月のブッキングも入っている。徐々に回復の兆候が表れはじめたようだ。

原発の影響は一部で解消されず
不信感の払しょくを

 しかし、一方で少人数グループを取り扱うイタリアのイル・ビアッジオのピエラ・トルチオ氏は「震災後、地震を理由にキャンセルする顧客はいなかったが、原発問題が浮上してからキャンセルが相次いだ」という。いまだにイタリアでは原発を恐れる人が多く、トルチオ氏自身も「なぜ日本に行くのか」と友人にいわれたそうだ。現在は訪日旅行の問い合わせ自体は増えているが、ブッキングには結びついていない。

 原発の影響をほかのバイヤーにも聞いたところ、「原発の不安からいまだに関西以西にしか顧客が戻っていない」という中国のバイヤーもいた。BtoBで日本のホテルの客室を世界23ヶ国、80拠点で海外の旅行会社やツアーオペレーターに販売している、TUIのアコモデーション部門のHotelbeds Accommodation and Destination servicesのコントラクティング・マネージャーの嶋津尚希氏によると、現在は欧米を中心に、全体的に回復傾向にあるとしつつも「ドイツ、韓国など一部の国ではまだメディアで原発についてネガティブな報道があり、その影響を受けている」という。

 トルチオ氏は「原発問題に関するメッセージがクリアではないように思う。日本政府からもっと明確なコミュニケーションがあれば」と感じている。バイヤーだけでなく、日本のセラー側からも「日本政府が安全宣言を出してくれれば」と同様の意見が聞かれた。米国の旅行会社担当者のなかには「国務省が(放射能について)何も発表しないのだから、安全だとみなしている」とポジティブな見方をしているバイヤーもある一方、他のバイヤーからは「日本政府が原発について何か隠しているのではないかという不信感を持つ顧客もいる」という声があることは無視できない。

原発問題より深刻なのは円高
セラーの積極的なプロモーションに期待の声

 熱心な商談が繰り広げられた しかし、原発以上に回復を阻害する要因となっているのが、円高だ。今回話を聞いたセラー、バイヤーともに「震災というより円高の影響が大きい」という声が圧倒的に多い。

 米国ハワイ州にあるE.S. インターナショナルのツアーマネジャー、サミュエル・クォック氏は「円高だと、旅行者も為替の影響がない国内などに行く」という上に、「わざわざ、今のタイミングで日本に行こうとしない」というのだ。こうした状況では、早期回復にブレーキがかかってしまう。実際、韓国人旅行者を取り扱う日本CHANNEL代表取締役のチェ・インキュ氏は「円高なら、中国など他の近いデスティネーションを選択する」と、競合の中国に旅行者が流れてしまっている現状を明かした。

 サイゼン・ツアーズの共同マネージングディレクターであるロンデル・ヘリオット氏 この事態に対処するために、「例えば、懐石料理のかわりにラーメンを食べてもらうなど、コストがよりかからない旅行商品を見つけたい」と工夫に努めるバイヤーがいる。また、プロモーションを求めるバイヤーも少なくはない。シンガポールのウェイン・パン氏は、「航空券やホテルのプロモーションがあれば、料金的な部分がカバーできるので渡航者が増える」というが、その一方で「積極的にプロモーションをかけないところもあるように思う」と指摘する。

 VJTM開会式で、海外バイヤー代表挨拶としてサイゼン・ツアーズのヘリオット氏は、「ここに来たのは、日本を顧客に売るのに熱意を持っているから。震災が日本のツーリズムに打撃を与えたことに心を痛めているが、引き続き回復に期待している」と激励の言葉を送った。また、「来年の桜のシーズンを売ることで、回復につなげたい」と前向きな中国の旅行会社の担当者の声もある。こうした熱意や日本への期待に応え、回復の速度を速めていきたい。


開会式、各国の支援への感謝を強調-安全性と送客を訴え

 今回のVJTMは、東日本大震災からのインバウンド復興が目的のひとつだ。開会式で挨拶した観光庁長官の溝畑宏氏は「温かな支援により、日本は震災前のように回復しつつある。10月単月では前年比15%減まで回復した。来年は皆様のご支援と日本人の力で驚異的な回復を見せるだろう」と明るい展望を力強く語った。その回復を促進するため、11月から開始された訪日外国人旅行者に対する割引・特典セールである「JAPAN Big Welcome Campaign」や、2012年4月に日本がグローバル・トラベル&ツーリズム・サミットのホスト国となることをピーアールした。

 このほか、開会式ではJNTO理事長の松山良一氏や開催地である横浜市市長の林文子氏も、世界中からの支援に対して謝意を表すとともに、バイヤーや海外メディアに対して「日本で経験したことをみなさまの国の人々に伝えてほしい」と、日本が安全で魅力あるデスティネーションであると強調。ただし、松山氏は「日本はある意味まだ回復途上ともいえる。ツーリズムは回復を支える強力な武器である。この苦境を乗り越えるためにも、日本に来てほしいと顧客を説得してほしい」と呼びかけた。


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