2011年11月30日水曜日

■原発・円高負けぬ、観光業回復兆し-中国人スキーヤーも支え


原発・円高負けぬ、観光業回復兆し-中国人スキーヤーも支え
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-LVG3D807SXKX01.html
更新日時: 2011/11/30 09:52 JST

 11月30日(ブルームバーグ):国内最悪の原子力発電所事故から8カ月。当時臨時の避難所の役割を果たした福島県のスキーリゾートにもようやく活気が戻り始めた。この冬の予約が、震災前の7割程度の水準まで回復すると見込むところも出てきた。

 東日本大震災直後には日本を脱出した外国人も多かったが、ホテルや航空会社は今、海外から観光客を呼び寄せる取り組みを展開している。中でも回復をけん引するのは中国人と期待を寄せる。日本政府の統計によると、震災直後の4月の訪日外国人は前年同月比63%減った。10月でもなお同15%減なのに対し、中国人はほぼ前年水準に戻っている。

 記録的な円高や経済危機で、欧米人にとって日本観光は割高になっているが、フォー・シーズンズ・ホテルや日本航空など関連業界では、今後のレジャー需要の伸びを見込んで投資を進めている。過去20年間にわたり日本経済の成長率が年率平均1%程度にとどまっている中で、政府が観光や医療・保健も今後の成長分野として位置付けている背景もある。

 「地震や津波があってもスピードは緩めない」と話すのは、シンガポールの不動産会社、パシフィック・スター・グループの日本代表取締役、ダン・シーモア氏だ。同社は3月11日の東日本大震災の6日後に、フォーシーズン・ホテルを2013年秋までに京都で開業する計画を発表した。「マーケットは中国人客を中心に必ず伸びていく」と語る。

 日本政府観光局によると、10月の香港からの旅行者は前年同月比17%増、台湾からも2.6%増えた。また中国の観光客は4月には5割減ったが、10月はほぼ前年並みとなった。


          アジアの旅行客

 海外からの観光客はこうしたアジア人が約7割を占め、米国からは9.5%程度。為替相場をみると、円の対ドル相場は年初来7.9%上昇、10月31日に75円35銭を付けたのに対し、人民元に対する上昇率は3.4%とにとどまっており、割高感はドルほどではない。

 フォーシーズンズのアジア・パシフィック地域ホテルオペレーション担当社長のクリストファー・ハート氏は「今は円が非常に強いので、短期的には東京は割高になっている」と指摘しながらも、「日本を含めたアジア地域では、旅行者が大幅に増えると誰もがみている」と話す。

 原発事故現場に近いリゾートでも回復が見えてきた。長野県軽井沢町に本社を置く星野リゾートは、福島県内で運営するアルツ磐梯スキーリゾートで今シーズン(2011-12年)は、09-10年の6-8割の宿泊客を見込んでいる。同施設は3月20日から避難所として約220人の福島県住民を受け入れた。今シーズンはウェブサイトに積雪量だけでなく放射線量も表示する予定だ。またスキーリゾート3施設を運営する会津高原リゾートは、昨年比で7割の予約が見込めるという。


            安全な都市

 JTBの子会社、ツーリズム・マーケティング研究所の田中靖主任研究員によると、海外からの訪日旅行客は全体で年末までに震災前の水準に戻る公算で、15年までにはさらに16%増えて1000万人に達する可能性があるという。

 北海道大学観光学高等研究センターの臼井冬彦教授によると、今後の訪日客数は、震災や原発事故からあまり影響を受けなかった地域を中心に来年3月ごろから一層の回復に向う可能性があるという。東京や京都、北海道、沖縄などが回復を引っ張るとみる。

 北京の中国旅遊研究院によると、今年は前年比15%増の約6500万人の中国人が海外旅行にでかける見込みという。

 上海の映像プロダクションでブランディング・マネジャーを務めるダニー・ハオさん(33)は、来年の中国の正月休みに日本を10日間旅行する計画を立てている。大阪や神戸、奈良など関西地域を訪ねるという。原発事故の影響についてハオさんは電話取材に「関西は震央から遠いし、日本の友達は状況は人が思うほど悪くないと言っている」という。


             人気

 パシフィック・スターのシーモア氏によると、同社は今後5年間に日本に7つの新しいホテルを建設する計画だ。リッツカールトンホテルや星野リゾートは、京都や沖縄、富士山周辺で新たな豪華リゾートを建設しており、14年までにすべて開業する予定。

 日本航空は豪カンタス航空などと8月に格安航空会社(LCC)ジェットスター・ジャパンを設立。全日本空輸とマレーシアのエアアジアもLCCを合弁で設立、来年の就航を目指している。

 中国最大のインターネット企業、百度が過半数を出資するオンライン旅行サービスQunarによると、訪日中国人数の前年比増加率は10月には1.1%に回復した。同社は電子メールで取材に応じ、「日本を訪れる中国人観光客は6月以降、着実に増加する傾向がみられる」とコメント。「中国人にとって旅行先としての日本の人気はかなり高い」という。


            楽観的になれない

 もっとも、すべてのホテルが急速な回復を見込んでいるわけではない。福島第一原発から80キロ圏内で東急リゾートサービスが運営するスキーリゾート、グランデコによると、予約はまだ昨年の半分程度の状況だという。

 野村総合研究所のシニアコンサルタント、北村倫夫氏は「なぜ楽観的になれるのかその理由が分からない」と指摘する。放射能汚染の懸念や円高の進行などを背景に挙げ、「この時期に日本を訪問したいと考える外国人は多くないのではないか。さらに、欧州債務危機と世界経済への波及の懸念によって、人々は観光を含めた消費に対して悲観的になっていると思う」と話す。

 外務省は8月、中国人観光ビザの発給要件の緩和を発表、申請者の職業制限を撤廃したほか、滞在期間も15日から30日に延長した。観光庁は海外の外国人1万人に無料航空券を配る費用を2012年度予算に盛り込むよう要求した。

 昨年7月に北京にオフィスを開設し、国内にも中国語で対応できるスタッフを採用している星野リゾートの星野社長は、観光業界の意識が変わると期待する。「かつては何もやらなくてもインバウンドは勝手に増えてきた」が、「これからは新しい魅力を出していく機運が高まっていくと思う」と話している。

記事に関する記者への問い合わせ先:東京  Makiko Kitamura mkitamura1@bloomberg.net; Kathleen Chu in Tokyo kchu2@bloomberg.net;
記事に関するエディターへの問い合わせ先:    Andreea Papuc apapuc1@bloomberg.net
更新日時: 2011/11/30 09:52 JST


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