2012年3月2日金曜日

■衰退する音楽産業、ハードへの投資でもう一度ブームを



衰退する音楽産業、ハードへの投資でもう一度ブームを
http://news.infoseek.co.jp/article/itmedia20120301031makoto
 ITmedia(2012年3月1日08時00分)

郷好文の“うふふ”マーケティング:

 音楽産業ブームはもう来ないのだろうか?

 統計を見ると、CD生産額は過去5年で4割以上減少、CD販売店はほぼ半減、CDレンタル店もジリ貧が続く。大ヒットがあっても“女子団体舞踊”くらいなので、大多数の音楽家はもうかっていない。

 ネット配信はどうか。成長市場のはずなのに、日本では著作権問題で配信が進まず、2009年をピークに減少。YouTubeやネットラジオ、音楽シェアで聴くスタイルが定着したせいもある。それにしてもみんなが消費する市場なのに、この衰退ぶりにはため息が出る。

 好調なのは発売後10年で3億台を突破したiPodと、通算100億曲以上のダウンロードを達成したiTunes Storeを擁するAppleだけとは……。

 かく言う私自身、iPodさえ眠らせて、iPhoneで音楽を聴くようになってもう3年以上。曲のバラ買いは嫌いだったのにいつの間にかしているし……まさにiTunesの奴隷となってしまった。

●ニール・ヤングが吠えた!

 iTunes全盛の世の中だが、音楽家から「iTunesの音質を何とかしてほしい」という声も聞こえる。つい先ごろも、シンガーソングライターのニール・ヤングが吠えた。2012年1月末、『D: Dive Into Media Conference』で彼はこんな発言をした。

 「僕は自分が過去50年やってきたアートの形を救いたい。我々はデジタル時代に生きているが、残念なことにそれは音楽をむしろ悪化させている」

 ダウンロードはお手軽だが音質がひどい。iTunesのビットレートは平均256kbps AACで、オリジナル音源に比べて劣る。「iPodの開発をリードした故スティーブ・ジョブズだってレコードを聴いていたんだぜ」と語ったヤングは、こう付け加えた。

 「デジタルが悪いとか劣るんじゃない。今のデジタルが音楽というアートに正しいことをしているかどうかだ。デジタルでは“便利を取るか品質を取るか”になってしまったが、そんな選択じゃないはずだ」

 もっと良質のデジタル形式を普及させて、iTunesでも良い音で聴く。それはいい。だが、私はこの問題はもっと根が深いと感じる。デジタル時代になり、みんな同じ場所(電車や路上)、同じ用具(スマホや白いイヤフォン)で聴く。音楽スタイルまでも“圧縮された”のではないか。それが音楽市場を一層退潮させているのではないか。

●ラジカセ、そしてメーカーが輝いていた時代

 その思いが強まったのは、渋谷区神南にある中古ラジカセ専門店「Dubby MAD sound shop(ダビーマッドサウンドショップ)」を訪れたから。このお店には単なるノスタルジーではない、個性ある音楽スタイルがある。

 店内には、再生・録音できる状態に整備した1970~80年代のラジカセがずらり。どれもクオリティが高い。

 「中学生のころ、最初に買ったラジカセだ!」と私が飛びついたのはソニー『CF-1980』(1974年発売)。当時70万台を売ったベストセラーを前に、「重低音が響きましたねえ」と店のオーナーの浅田健治さんと語り合った。彼の実家にも同機種があったそうだ。彼のもう1つの原体験はパイオニア『SK-900』(1981年)。4つの巨大スピーカーがド迫力。

 CD全盛でMDも出現した1990年代、なぜか浅田さんはラジカセへの想いがフツフツとわいてきて、中古品の収集を始めた。中古探しや修理者探しをするうち、“ラジカセにはラジカセの世界がある”ことに気付いた。それがこうじて2008年にお店をオープン。ラジカセ好きは世の中にまだゴマンといる。

 話をうかがっている最中も、持ち込みあり、法人問い合わせあり(ドラマや映画、CM制作、各種撮影やプロモーションで使用)。アナログ感たっぷりのラジカセ、整備品の販売価格は3万円台から(未整備品はもっと安いものあり)。

 しかし、こんなに個性あふれるパイオニア製品……失礼だが今の製品からは想像できない。いや、シャープもサンヨーもナショナル(当時)もビクターも、もちろんソニーもみんな輝いていた。個性あふれる機種をどんどん世に送り出していた。だから音楽も機器も市場が拡大していた。

 デジタル化、小型化と引き換えに失った何か、浅田さんと話すうちにそれが見えてきた。

●デジタル化で失った楽しみ

 1つは“録音の楽しみ”。マルチトラック・レコーダーで録音マニアだった浅田さんには“巻き戻したくない思い出”がある。

 「女の子から『私の好きな音楽を聴いて』とカセットをもらいました。ところが聴くと……『もうちょっと良い音で録音してくれればよかったのに』と(笑)」

 そんなことあったな。私も数本引き出しの奥にある。ダウンロードで楽になった分、録音スキルを磨くことはもはやできない。残念なテープがもらえないのが残念でもある。

 2つ目は“外部入力の喪失”。ラジカセは1990年代になって、外部入力端子が廃止された。プレーヤーや楽器をつなげなくなり、ボックス単体で聴くようになった。良く言えば“完結性”、悪く言えば“閉鎖性”が高まった。機器をシステムで拡張させる考えが失われた。これは今のデジタルオーディオにも通じている。さらに浅田さんのひと言にハッとした。

 「近ごろ、音を出すことに厳しいですよね」

 近所からピアノの音も聴こえなくなった。子どもの部屋からもオーディオがガンガン鳴らなくなり、「ボリューム下げろ!」とカミナリを落とす親もいなくなった。みんなヘッドフォンで小さくなって聴いている。

 デジタル時代に劣化したのは音質だけではない。楽しみ方も劣化した。

●ひとりひとりがハードに投資しよう!

 提案がある。音楽産業をみんなの力で蘇らせよう。それはハードへの投資である。

 レコードプレイヤー、カセットウオークマン、CDプレイヤー、iPodやスマートフォン。何か好きなハードに投資する。投資はゼロ円でできるものから(iTunesへのCD読み込みモードをロスレス設定するだけで音質は格段に良くなる※)、190万円かかるものまで(アキバのオーディオ店の店頭にあったスピーカー『HyuGer Autograph』の値段)。

※iTunesのロスレス設定:iTunesの一般環境設定>読み込み設定>ロスレスエンコーダの選択

 もちろん英語で言うBoom Box(大型ラジカセ)もいい。みんなが“自分の音楽スタイル”で楽しむというブームを起こすのだ。

画像:ソニー『CF-1980』、ほか(http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1203/01/news012.html)

 私の夢はアキバのオーディオ店からタダでもらったソニー『CFS-D7』(1979年)を修復すること。高性能だがとりわけもろかったので、修理費用は結構かかってしまうかもしれない。ラジカセに加えて、在りし日の“所得倍増ブーム”も再来してくれないと、懐には厳しそうだ……。




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