2012年3月23日金曜日

■東北観光博/普段着の魅力を伝えたい



■東北観光博/普段着の魅力を伝えたい
http://www.kahoku.co.jp/shasetsu/2012/03/20120322s01.htm
2012年03月22日木曜日 河北新報社

 <たつぷりと春分の日を歩きけり 増成栗人>

 昼と夜の長さが逆転し、日差しに力強さが感じられるようになった。余寒はまだまだ厳しいけれど、東北でも春の足音が聞こえてくる。

 春うらら、旅の楽しみは歩くことから始まる。復興の足取りを観光面から後押ししようという試みもスタートした。

 「こころをむすび、出会いをつくる」をテーマとした「東北観光博」。来年3月まで東北を丸ごと全部、博覧会場に見立て、国内外から誘客を図る。

 自然や名所・旧跡に恵まれた東北はもともと「観光大陸」だった。震災とその後の原発事故の影響で、観光産業は大打撃を受けた。だが、多くの人に被災の実相を知ってもらい、東北の応援団になってもらわないことには復興はおぼつかない。

 観光博の基本理念である「丸ごと」を胸に刻みたい。点在する観光スポットだけでなく、東北に住まう者一人一人が善き案内人になろう。

 交通インフラや宿泊施設が徐々に復旧しているにもかかわらず、東北の観光地はおしなべて客足が遠のいている。

 日本三景の一つ、松島の昨年1年間の観光施設(宿泊施設を除く)への入り込み客は約150万人で前年比48%の減。修学旅行スポットとして人気のある会津若松は、11年度の来訪校が前年度比88%減の100校にとどまった。

 原発事故による風評被害が深刻化している。観光博ではまず、主催者である観光庁と東北6県の官民が安全性について繰り返し情報発信することが求められる。

 観光スポットごとに放射線量を明示するなど、従来の観光キャンペーンとは違ったPR手法を考えたい。旅の楽しみの一つである「食」についても、同様のアプローチが必要になろう。

 6県28ゾーンで、地元住民による観光案内や特典付きのパスポートを発行する。観光庁は案内人を養成するための研修を実施してきた。

 とかく口べた、引っ込み思案の評がついて回る東北人だが、実際は違う。お国言葉で交わされる会話は時に冗舌だ。よそ行きの顔などしなくていい。普段着の魅力を今こそ発信したい。

 被災地の実態を知ってもらうことも観光博の意義の一つだ。気仙沼市や宮城県南三陸町などでは、被災者が体験を語り継ぐツアーが広がりを見せている。

 定番のコースを巡って土産物を求め、宿で無礼講-という旅行スタイルは震災前から崩れていた。代わりに、学びや自己確認といった成熟した旅行を希求する人が増えている。

 震災は不幸な経験ではあったが、被災者自身が「語り部」としての役割を果たすことで、旅行者は満足し地域も活性化する。いい意味で、素人の出番だ。

 1年前の今ごろは「観光なんて」だった。だが、これまでに受けた支援の数々に対して、そろそろもてなしの心で応える時だ。遠方の友を笑顔で迎えよう。




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