2012年6月23日土曜日

■大飯原発再稼動が観光産業に落とす影


大飯原発再稼動が観光産業に落とす影
http://jp.wsj.com/Japan/node_466052
2012年 6月 23日  13:10 JST  ウォールストリートジャーナル

【福井県おおい町】福井県大島半島の先にある袖ヶ浜海水浴場には夏になると毎年多くの観光客がこの静かな入り江で海水浴や日光浴をしようと訪れる。砂浜の終端には人気の高い赤礁崎オートキャンプ場と1854年建造と推定される砲台の史跡もある。 そして数百メートル先、もう一方の端にある樹木で覆われた小高い丘の向こうに隠れているのがドーム型の原子炉建屋だ。

大飯原発に近い塩浜海水浴場

  日本政府は昨年の福島第1原発事故以来初めて大飯原発の再稼動を決定した。雇用と財源を原発に頼るこの海辺の町で、もう1つの大切な町の財源である観光に原発の再稼動がどう影響するか懸念されている。

 原子力発電所の長期的な行く末についてはまだ政府で議論が続いているが、おおい町とその4基の原子炉は、今年の夏の電力不足を回避しようとする政府と業界グループの注目の的となってきた。

 同発電所を運転する関西電力は16日、大飯原発3号機と4号機の再稼動に向けて準備を開始し、7月下旬までにはフル稼動できるとみている。原発再稼動のニュースは、この日本海沿岸にある風光明媚な町で最近まで成長し続けてきた観光業に暗い影を落とすことになった。

 福島第1原発事故以来、それまでは原発のすぐ近くで休暇を過ごすことに何の抵抗も覚えなかった人たちの中に不安が芽生えている。ウォール・ストリート・ジャーナルからの質問に書面で回答したおおい町の時岡忍町長は、現時点では影響がなかったとは言えないと述べている。

 おおい町は、浅瀬の海岸や魚釣りに最適な海で知られ、全長460メートルのすべり台がある遊園地「きのこの森」など、いくつかの新しい家族向けアトラクションもある。

 フェンスで囲まれた原子力発電所に隣接する、海岸が500メートルほど続く袖ヶ浜はこの周辺に3つある公共の海水浴場の1つだ。

 しかし、福島第1原発事故後再稼動する最初の原発の町となったことで、収益源多角化のため観光に力を入れていきたおおい町の計画にかげりが生じている。

 大飯原発からほど近いある旅館では、再稼動が正式決定される前から、今年の夏の予約は例年の10分の1だったという。匿名で取材に応じた旅館の主人は予約が激減しているとしたうえで、原発は旅館にとっては悪影響だが町の経済には重要な財源となるため難しい問題だと述べた。

 最終的には、大飯原発を再稼動するかどうかの決定は、福井県知事に委ねられた。

 福井県の西川一誠知事は16日、再稼動を全面的に支持し、野田佳彦首相は長く待たれた決定を歓迎したが、福井県だけでなく日本全国のコミュニティーは原子力エネルギーに関して態度を決めかねている。

 NHKが5月31日に発表したアンケート調査によると、おおい町の周辺自治体に住む人々の81%が、大飯原発も福島第1原発のように重大な事故が起きる危険性があると考えている。

 大飯原発から距離があっても不安が和らぐわけではないようで、日本の太平洋側に位置する大都市の大阪でも、大飯原発で重大な事故が発生する危険性に不安を覚えている住民の比率は80%だった。

 おおい町の観光課によれば、これまで同町を訪れた観光客は大半が大阪都市圏や福井県周辺自治体からの観光客だ。

 大飯原発の3、4号機が再稼動検討対象となる前ですら観光客は減っている。昨年、おおい町への観光客の数は前年の89万2407人から80万9976人に減っている。おおい町役場によれば、これは福島第1原発事故後、原発懸念が高まったこともあるが、2011年6月にそれまで1年間続いてきた高速道路無料プログラムが段階的に廃止されたことも影響したとみられる。

 2007年に57万5000人だったおおい町への観光客の数は、それまで毎年順調に増え続けていた。

 おおい町役場では観光客の支出額については把握していないが、年間当たり7億8000万円に達するのではないかと推定している。

 これは昨年原発関連の交付金として受け取った61億7000万円に比べればごくわずかだ。原発関連の交付金は同町の予算の半分以上を占める。

 観光産業の成長は収益源多角化を図る地元自治体の努力によるものだが、観光産業もまた、原発の恩恵に依存している。おおい町では年間予算のうち6億円以上を観光産業の促進に費やし、ヨットのマリーナや最新式のスポーツセンター、子供のための博物館を建設してきた。

 日本の夏の観光シーズンは7月半ばにスタートするが、こうした施設やおおい町の風光明媚な自然が、原発が近くにあっても観光客を呼び寄せることができるかどうかは、明らかではない。

 週末でもないある日、大飯原発の対岸にある大島半島の赤礁崎オートキャンプ場では宿泊客のいないキャビンが並んでいたが、そこからさほど遠くない場所に2つのテントが張られた。

 原発の目隠しとなっている丘を望む草地にこのテントを張ったのは、京都から来たというマルノ・ヒロシさん(39)。バーバキューを楽しみに来たという。

 マルノさんは、原発再稼動はそれほど気にしていないとし、ここに来るのは4回目だが一度も問題があったことはないと語った。



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